輪るピングドラム 第3話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
高倉兄弟による苹果へのストーキングは続き、彼女のマニアックで切ない内面を覗き見…してたら、陽毬がやらかして距離がぐっと近づいてくるエピソードである。
初見では激ヤバ運命信奉者にしか見えない苹果ちゃんだが、知ってる身からすると大変に一途で切ない。
星に彩られた陽毬が空のお姫様だとすると、貝と水のイメージが付きまとう苹果ちゃんは水のお姫様である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
共に幼く純粋な時代に微睡み、既に失われているものを認めようとしない(出来ない)。
現実の冷たい残酷さに傷つきながら、時計を巻き戻す方法を探している。
家族が幸せでいられた時代は、姉の死とともに崩壊した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
それでもその時代を取り戻すべく、自分を生贄に預言を成し遂げていく。それさえ間違えなければ、幸福は壊れない。姉の夢を自分が代理することで、死すらも超越できる。
妄想であり、儚く悲しい夢でもある。
確定したルーチーンに過剰に固執し、そのことで自分を保つ危うさは”カレーの日”にも宿っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
20日にカレーを食べている間は、家族は壊れていない。
苹果ちゃんだけがそれを信じているが、既に離婚して崩壊した現実に馴染んだ父母は、形骸としてしかそれを守っていない。
綺麗なママはカラーが付いたままのおばさんになり、父はもはや家におらず、姉は死んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
冷たい崩壊の現実を認められないまま、不格好で危うい抵抗を続けているのは実は高倉兄弟も同じで、晶馬は自分と苹果ちゃんが似ている事実にジワリと目をやる。”カレーの日”に気づく。
他人の事情に目を向けてしまう善良さが、既に死せるモノたちを追いかける狂気に足らないこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
冠葉が挑む場所に、晶馬は乗ることが出来ないこと。
後半非常に苛烈な形で吹き出すそれぞれの運命は、この段階でかなり濃く刻まれている。
晶馬は死んだ陽毬を前に、うろたえるだけだ。
ペンギン帽をかぶせて蘇生させるのも、ピッキングして扉を開けるのも、最初に部屋に飛び込み家探しするのも、全て冠葉である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
陽毬のためなら、あらゆる犠牲を顧みない。
自分の心臓を捧げ、他人を踏みにじり、ただただ一つ、愛と輝石のために。
それもまた、喪失を認められない幼い祈りである。
冠葉は苹果ちゃんの狂気…自分と似ていて、だからこそ事情を知るわけにはいかない必死さには目を向けない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
掴み取れるのは一つだけ、選べる生き方は一つだけ。選択の残酷さは、作品を貫通するルールとして徹底されている。
強くあることと、優しくあることが同居できない氷の世界。
可愛いペンギンと、ファンシーな星が踊る美しい童話の舞台は、そんな厳しいルールに最初から支配されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
愉快なWストーキング・コメディもまた、そういう世界律に則って描写されているのだなという、不思議な発見のある回といえる。
こういうところが、全く油断できんのだ。
苹果ちゃんはピングドラムに示された運命を果たすべく、多蕗の家に行ってゆりと出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
幼き死者の祈りを置き去りにして、彼女を愛し彼女に愛されたものは大人になり、別の人を求める…という構図だと思わせておいて、あの部屋の中にいるのは思い出の共犯者、永遠に過去から出れない囚人である。
苹果ちゃんのサイコなヤバさが全面に出ることで、桃果のために全てを捧げた残留者達が更にヤバいことは覆い隠されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
この『狂気の被害者だと思ったら同類、つうか更に踏み込んだ場所にいる』という構図は、幾度も顔を出して作品を揺らしてくる。やっぱサスペンス色が強い。
多蕗も”カレーの日”をずーっと続けていることからして、苹果ちゃんと同類の狂人であることが透けてはいるのだが、この段階では何もかもが謎、ヤバ女に狙われた被害者にしか見えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
そういう風に書いている。しかしヒントは随所にあって、読み終えた後に見返せば、なるほど納得である。推理小説だね
カレーを用意したゆりも同類で、苹果が踏み込んだ新居は死を悼む神殿なわけだが、子供である苹果ちゃんはそんな複雑な事情は知らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
ただただ、記された運命を果たせば願いは叶う。死は覆され、愛は取り戻せる。
そう信じて、手を熱々のカレーに焼き、ひっくり返してドロドロに汚れる。
そこに手を差し伸べるのは、陽毬か他人かで陽毬を選んでしまったやましい兄弟ではなく、何も知らない陽毬当人である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
ひっくり返して台無しにしてしまったカレーは、おすそ分けして仲良くなるきっかけに出来る。
そういう優しい純朴さは、与えられる側の特権なのか。
陽毬は自分が死んでいることすら知らず、天使の寝床に微睡み続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
その(死に隣接した)眠りを守るために、彼女の王子様達が何を選び、何を切り捨てているか判らない純粋さが、救いの条件であるのか。
彼女もまた、無邪気な子供では居続けられない。
ただただ与えられるばかりの存在ではなく、迫りくる運命を前に何かを選び取る尊厳を持つ事実が、すれ違いを生み、それを越えた奇跡を掴み取らせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
別れて、繋がって、忘れて、それでも憶えている。
そういう物語の萌芽が、子供たちの出会いにきらめく。綺麗で、既に哀しい。
苹果ちゃんにとっての、カレーの意味。家族の意味。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
風呂に浸かり服を着替え、擬似的に高倉家の一員となった彼女の素顔を、晶馬はマジマジと見つめてしまう。
自分と似通った、既に奪われて諦められない子供の痛みと輝きに、彼の善心は共鳴し、惹かれていく。
ゴキブリホイホイに顔を突っ込み、大変なことになりながら悶ている二号は、そういうイノセントに背中を向け、誰かを踏みつけにすることを選べる冠葉の鏡である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
理屈を蹴っ飛ばしたネタ、笑いどころに見えるピッキングも、彼のバックボーンを思うと随分重い。
牛パジャマが可愛いプリクリ様も、二秒前まではコントやってたのに、陽毬を殺して兄弟に現実を思い知らせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
水気の失われた唇が、何よりも雄弁に教える事実。
世界は既に狂ってしまっていて、欲しい物があるなら走るしか無い。掴めるのは、たった一つだ。
自分たちを取り巻く”事実”が、ぼやっとした常識を遥かに飛び越え、狂気と奇跡の渦巻くワンダーランドになってしまっている事を、少年たちは思い知らされる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
しかしそれは過去の再発であって、冠葉がさり気なく伏せた両親の写真が、世界に焼き付けた地獄の有様でもある。
彼らは物語が始まる前の段階から、ひどく苛烈で逃げ場のない場所にいたし、それでも隣りにいる人の手を取って、優しく生きていたいと願い続けてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
運命が結節し、その総決算を求める荒波が、既に子供たちの足元には到達している。陽毬は死に、夢は終わっていく。
それでも、取り返しのつかないものを取り返したいのならば、脇目も振らずに走るしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
人生という地下鉄に乗って、暗闇の中をたった一つ、大切なものを選んで。
そんな物語の行く末が、ドタバタストーキングコメディの随所に鈍く光ってるエピソードだった。
このお話が見た目ほど無邪気ではなく、そのほぼ全てが終わっていて、しかし諦めきれないからこそ強くうねっていることを、僕は知っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
知らなかった視線から、このエピソードがどう見えていたか。
もはや朧気だが、楽しかったのは覚えている。コミカルで、スラップスティックで、なんか切ない。
超絶ヤバ女にしか見えない苹果ちゃんが、凄く純粋に何かを求め続ける、面白くて不器用な女の子なのだということも、そこに目を向ける晶馬の視線を借りてなんとなく、気づいていた気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
彼女があまりにもいい子なのだと、解っていく歩みが序盤のエンジンだ。
優しいからこそ狂い、愛すればこそ間違える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
その道のりは全てのキャラクターを捕えている。地下鉄の軌条のように厳しく、世界のルールは揺るがない。
それこそが、ピンクの日記に記された運命よりも遥かにシビアな、少年少女が挑むべきDestinyであると、まだ分からない時代。
陽毬のようにとびきり無邪気に、しかし何処か崩壊の予感を宿して、エピソードは楽しく微笑んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年7月21日
ハイテンションな笑劇の奥に潜んでいる、切実な悲劇と譲れぬ願い。それも次第に…あるいは既に牙を剥いている。
過去からの引力、未来への重力に歪められながら、物語は楽園の果へ続く。次回も楽しみ