ブルーピリオドを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
藝大二次試験初日、蓄積されたストレスが八虎を襲う。
霞む視界の中溶け落ちていく貴重な時間と、それでも消えない想い。
賢い頭をフル回転させて、ハンディキャップを武器に変える。
絵筆で裸身に刻むべき己は、一体どんな形をしているのか。
そんな感じの矢口八虎の天王山、ブルーピリオド第11話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
眼球破壊寸前の絶不調に襲われ、一日目を無為に溶かす逆境と、それを武器に変えていく逞しさ。
ここまでの物語をなぞるように、脳裏に蘇る言葉達と、動員される技法とアイデア。
果たして、八虎は勝てるのか。
藝大試験はクリエーターが作品と課題に挑む時、どんな問題とひらめきが訪れ、これまで積み上げてきたものがどんな生き方をするか、よく伝わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
理屈っぽい主人公を配置したことで、”センス”という言葉だけで片付けられがちな創作の神秘の奥に、何があるのかを上手く解体していく。
八虎はクレバーな学生なので、まず出題者の意図を考え、それに適合する答えを自分の中から探り出していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
彼を透明な檻に閉じ込めた”優等生”っぷりは、そこからの出口である感性の爆発…絵画というフィールドにおいても、強烈な武器になる。
考えて描くことは、いつでも八虎の強みだ。
同時に彼が『なんとなく』描かないことで、絵画創作に馴染みのない視聴者もまた、そこに籠められるものが見えやすくなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
ドラマティックな感情、ここまで積み上げた物語だけでなく、芸術の技法がどのように八虎を自由にし、描きたいものを限りある時間の中、キャンバスに定着させてくれるかが判る。
構図、色彩、テーマ、素材…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
美術部で触れ、予備校で学んだ一つ一つが今この土壇場で、八虎が描きたいものを描き、辿り着きたい場所へと辿り着く助けになっていく。
正に集大成というべき創作ドキュメンタリーであるが、その意味と意義が分かりやすいのは、”優等生”が主役だからこそだと思う。
八虎は自分が何に悩み、何が問題でどう解決するかを明瞭に言語化してくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
”なんとなく”のセンスで生きれないからこそ苦しくて、感性の領分だと思った絵画に飛び込み、救いと新たな苦しみを手に入れた僕らの主役は、ド素人から絵画を学び、何が苦しく楽しいかを僕らに伝えてくれた。
あの小田原セルフヌードを見た後の僕らは、裸婦像が何を捉えるべく描かれ、絵筆が切り取るものがただの裸体ではないことを、よく解っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
お固く思える美術史が、燃え盛る情熱と切実さでキャンバスに塗り込めようとしたものの片鱗を、八虎のロゴスを通じて受け取ることが出来る。
決意から一年と少し、八虎の受験戦争が一つの決着を迎えようとしている今、彼が描く過程と結末にどんな意味があるのか、自分で咀嚼するだけのリテラシーが、物語を通じて育成されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
それは自分が何に苦しんでいるのか、学び出会うものがどう役立つのか、常に率直に語ってくれた、主役のおかげだ
一つの物語の終わりに、『この主人公は…彼を主役に立てたお話は、こういう話だったのだな』と納得し、感謝しながらこれまでを思い返せるのは、とてもありがたい体験だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
二次試験がそういうクライマックスになっているのは、やっぱ良いことだし、強い物語だなとも思う。
さて階段にうずくまった八虎に、訪れる天使。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
ここで森先輩と世田助を見間違えるあたり、二人が八虎にとってどういう存在か、見えてくる感じもある。
ホント八虎は森まる信者だなぁ…人生変えられちゃったから、まぁしょうがねぇ。
(画像は"ブルーピリオド"第11話より引用) pic.twitter.com/21QZgLEnWm
オタついてるだけの世田助に比べ、桑名さんは大変パワフルかつ実践的に、八虎の窮地を救う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
戦友がリタイアして救われる、浅ましい自分に悩んでいたあの踊り場で、八虎が差し出してくれた糧。
そのありがたさを忘れてないから、桑名さんは重い荷物をわざわざ背負う。
それは考えて選んだというより、体が勝手に動いたスピード感であり、だからこそ嘘のないものだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
多分桑名さんは、やせ衰えた仲間に優しくしたくて、でもそのやり方が分からなかった。
八虎とあの階段で出会うことでようやく、自分が持ってる画材の使い方を覚えたのだ。
ある意味”恩返し”で戦場まで身体を運んだ八虎は、傷む瞳で二次試験のテーマを見据える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
青春の迷路と思われた小田原から、直通ライナーで繋がる裸婦モチーフ。
直近思い悩んだネタが勝負どころで転がり込むのは、幸運だとも、必然だともいえる。
青い渋谷にしても、変化する鋼にしても…
八虎が”良い絵”を描く時は、言語化し難い実感が絵筆に宿り、モチーフと噛み合った時だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
感じやすく繊細で、常に深く思い悩む彼の脳髄を占拠する”言葉”が、パンパンに膨れ上がった末に別の形に変わり、実感を伴って絵筆に宿った時、傑作は生まれる。
あんだけ濃厚な青春を、そこに辿り着く決断を光の中で果たせば、八虎が”裸”を見据える視線には彼だけのオリジナリティが、当然宿る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
武器が少なく、自信もない青年が逆転勝利を決めるためには、全てが噛み合う必要がある。
そうなるのは、彼が真摯に生きてきた結果だ。
一緒に水底には沈めない己の賢さも、それでも見捨てられない優しさもちゃんと見据えて、行くべき場所に行くべき時に、ちゃんと進んだ結果だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
こういう風に、大ピンチでもギリギリ勝てるラッキーが偶然ではなく必然と思えるのは、強いドラマを編めてる証拠だと思う。
新たな道に進む生徒を大葉先生が抱きしめる裏で、八虎はギリギリ限界に追い込まれていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
桜庭さんの震えを抱きしめる優しい微笑みと、受験の残酷さを思う時の醒めた表情が同居する所に、この人の面白さがある。
(画像は"ブルーピリオド"第11話より引用) pic.twitter.com/ykM3r4BkrC
否応なく合否が出てしまう、厳しい世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
愛しい教え子を苛み続ける、受験の現実。
大葉先生が毎年向き合っているものの渦中に、八虎も世田助もいる。
世田助がどんな表情で創作に挑んでいるのか、その熱が強く刻まれるの、同室のありがたさだなぁ…。
遅れるのには慣れている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
それが自嘲でも諦観でもなく、己を発奮させるための起爆剤として発せられるのが、今の八虎の逞しさだ。
何事も出すぎず、いい塩梅に適度に。
そんな生き方からはみ出した青年は、もう逆境には飲まれない…って、わけでもないけど。
否応なく襲い来るアクシデントを前に、自分が欲しい物を諦めず爪を立てる手段は、絵を描く中で手に入れた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
それを全部出すために、八虎はここにいる。
まだ諦めていない教え子に、大葉教諭は大声で笑う。
(画像は"ブルーピリオド"第11話より引用) pic.twitter.com/vVWDMtJdTw
後発の不利をアドバンテージに変えるべく、大葉先生は秘策を授ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
あの意味深なヒキから、あくまで常識の範囲内、正々堂々真っ向勝負に打って出るのが、大葉先生であり八虎だなぁ、という感じ。
しかし彼女が授けたのは”飛び道具”だけじゃない。
極めてロジカルな八虎の強みは、周囲を観察し自分がどこにいるか、敏感に定位出来ることにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
思い込みで位置がずれているなら正し、頼りないと思っていた武器が特別なのだと確認し直す。
他人が与えてくれるものを受け止め、それで変化していく己に誠実であり続ける。
そんな彼に『落ち着いて、周りを見ろ』と告げ、平凡なテーマを化学変化させるようアドバイスしたのは、大いなるファインプレーであろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
八虎は今回、周囲の制作状況、自分に残された時間と技術を、ギリギリの状況で良く見て、受験に食らいつく。
一番最初に目に入るのは、ずっと目標にしてきた天才
大嫌いで大好きな世田助が隣にいればこそ、八虎はここまで進めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
簡単に割り切れない、不定形でデカい感情を抱ける特別な相手が、かつて伝えてくれたもの。
それが幾重にも炸裂しながら、八虎の絵は完成への道をひた走っていく。
(画像は"ブルーピリオド"第11話より引用) pic.twitter.com/eezgoh1dEI
裸婦は引き算で描く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
時間に急き立てられた策は同時に、八虎が”裸”を…合否を決める問題をどう捉えているか、採点者に伝える良い手段にもなる。
ありのままであること。
ゴムみたいにぶよぶよで、目の前の裸身とはぜんぜん違う己を、あの波と光の中で見据えて気づいたこと。
必死こいて学び、身につけた技法に導かれることで、八虎が言いたいことは形を得ていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
熱いエモーションだけで押し流すのではなく、土壇場で高速回転する頭、高圧力で押し出されるアイデアが努力と結びつき、説得力と具体性のある表現にまとまっていくのは、見ていて心地良い。
闘い切るためには栄養補給が必要で、桑名さんはドカベン抱えてガツガツ食べる。いっぱい食べる君が好き。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
どうやっても弱者を気にしてしまう自分と、孤独に描きかとうとする自分。
かつて上手く取れなかったバランスは、彼女の中で落ち着きを見せている。
良かったな、とつくづく思う。
『あいつの不合格と、私の合格は関係ない』と、シビアに健全に考えられる頭。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
それでも苦しんでいるなら、水筒もカロリーメイトも差し出してしまう心。
その両方があって自分であり、受験なのだと思える二人が、あの踊り場で出会ったのはやっぱ必然なんだと思う。
別々の場所、孤立した個人として過酷な戦いを走りつつ、どっかで触れ合った波紋がお互い通じ合ってる描写は、やっぱり染みる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
結局八虎は、溺れるものに片手を差し出してしまう男なのだ。その優しさが、彼自身に返って窮地を助ける。
世田助くん、橋の握りが雑なの”らしく”て好きよ…。
かくして一息命を繋いで、戻り来る戦場。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
豁然と新たに立ち上がる世界には、モチーフと己が重なって見えた。
出会った人達、歩いてきた道から残響する大事な言葉が、思いつきが間違っていないと支えてくる。
(画像は"ブルーピリオド"第11話より引用) pic.twitter.com/tiQsqQfWJE
ここで八虎が、指で作ったフレームの中に”自分”を置くのは、僕には凄く感慨深い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
常に自分を横において、付き合いよく不良をやり優等生になり、だから苦しかった青年。
彼が人生の突破口と選んだ絵画は、質感の異なる他者に己を重ね、自分の当たり前と他者の差異をキャンバスに刻ませる。
自画像的と恥じ入るエゴイズムを、引き受けても折れないくらいタフな自分。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
過酷な歩みの中、そういう存在を確かめられたから、ここで”裸の自分”をモデルに、モチーフに、テーマに投影しながら描く事が、出来ているのだと思う。
それが答えで良いのだと、悩みつつも掴み取る背骨。
散々悩み、優しいお節介と誠実な衝突を繰り返してきた八虎の心身には、ぶっとくそれがおっ立っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
別にそれは、揺るがない絶対の答えではない。
服を剥ぎ取られて頼りなく、守るべく装って後ろめたい心は、複雑怪奇に揺れている。
それでも、それで良いんだ。
それが俺なんだ。
そう思える実感を、青春の火薬庫にたっぷり溜め込んだからこそ、ここでの発見と確信がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
ここで名前も知らない、性別も違うモデルに、己自身を重ねられる”広さ”を持ってるのも、僕にはとても嬉しい。
色々厄介で、通じないことも苛立たされることも多い他人。
彼らと触れ合うことで様々学んできたからこそ、八虎は自己と他者が不思議に重なり合う、必然の領域まで己を…八虎の絵を持ってくることが出来た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
ここで起きていることは幸運な飛躍ではあるけども、それはここまでの全てがあって初めて成し遂げられる。
そして、それだけでは足らない。
こんな発見にたどりついた自分を、分かってもらうべく手を尽くす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
スケッチブックに発想を具現し、伝わるメッセージを強く刻む。
八虎が垂らす油は、重なり合う他者と自己、見えた世界を形にするための、尊い足掻きだ。
ここで『足らない』と考えてもう一手打ち込めるのは、受験の勝ち方を考えられる八虎の賢さであるし、初めて絵を描いた時の喜びも原点にあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
伝わった、解ってくれた。
自分だけが孤独に感じていると思っていたものが、形になって共有される嬉しさ。
八虎は”そこ”から物語を始めていて、”そこ”に戻ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年12月12日
不定形で不格好な己を、伝わる形に整えて、震えながら差し出す。
そのために必要な技術も、経験も、強く刻んできた青年の旅路が、一つの決着を迎えようとしている。
次回、とても楽しみです。