イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第10話『新しい季節』感想

 寒梅から綻ぶ桜へ、季節はめぐり新たな春が来る。
 ヤマノススメNext Summit、新学年に震える陰キャの本領発揮な第10話である。
 4話までの回想総集編において、結構大胆に歴史改変されてきた雪村あおいの暗くてめんどくさい所がクラス替えという一大イベントを前にブルブル震え、声が小さく内にこもりがちな内弁慶が、新たな環境にどう馴染むかが描かれた。
 体重預けて大丈夫な身内と(あるいは、登山という共通の趣味&猛烈に明るい人格に助けられた小春部長)ばかり進んできた、秋と冬の物語。
 それが新たな環境に進んでいって、さてどうなるどうする!? という局面だ。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第10話より引用

 というわけで絶景はちょっとお休み、リュックを洗い制服を着込んで展開する、山だと元気な雪村さんが、表舞台に引っ張り出されるとどういう顔をするか劇場である。
 元々自分に都合の良い世界を選んで閉じこもり、へなちょこな自我を守ってきたあおいであるが、再会なったひなたに手を引っ張られ山に進んで、身体も心もそれなりにタフになった。
 ……はずだったが早々簡単に性根は変わらず、一年生最後の思い出に皆を導く役目、それが終わって待ち構えるクラス替えには暗くて卑屈な表情も見せる。
 あわあわ動揺しながらどんどん声が小さくなるあおいに『いいぞ雪村……素顔のお前をもっと見せろ! なかったコトになんかするなっ!』と拳を握ったが、こういう時にぶっ刺さるのが雪村あおい超絶理解り人・倉上ひなたである。

 今回のお話、『自分を守り引っ張ってくれたベストフレンドと別れちゃって、とっても辛いよう!!』って展開なのに、否だからこそ、ひなたがめちゃくちゃ輝いている。
 美しい桜景色に、ありふれて眩い青春の1ページに照らされて、あおいにとってこの少女がどんだけ太陽なのか、ずっと首を向けて見つめてしまう対象なのかが、良く感じ取れるエピソードだ。
 馴染みのないクラスメイトとの最後の思い出、尻込みする背中を押しておもいでプレゼントしてくれるのはやっぱり、ひなたの大きな手である。
 この距離感を描いた上で、ガッツリ剥奪してくるのが良い。
 厳しい風の中でこそ、葵は美しく咲く花なのだ。サディスト集団が作る、最高に美しいアニメッ!!!!

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第10話より引用

 幼き日の別れにうなされつつ、運命の瞬間を待つあおいの震えに重ねて描かれる、倉上ひなたの特別な輝き。
 シリーズを通じて重要なモチーフとして扱われている、机の上のフォトボードには、四気分の輝かしい思い出が刻まれ、しかしそれがこれからも続いていく保証はない。
 あらゆる景色の中隣りにいて、何かと影に潜り込みがちなあおいにとって、光は常にひなたの方から指す。
 自分より自分を理解し、信頼し、どっしり構えて送り出してくれる特別な友達の存在感は、眩い春風に照らされていよいよ強い。
 泣きゲーだったら、再来週あたり倉上死んでたと思う。ハードコア登山路線じゃなくて、本当に良かった……。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第10話より引用

 不安は的中し、あおいの日向は隣のクラスに行ってしまう。
 どう話したもんか、付き合いだけは長いけど繋がり方がわからないかすみさんを隣に、分厚い闇に己を鎮めるあおいであるが……俺たちァ吉成鋼大先生の『一分半ヤマノススメ講義』、もう受け取ってるからよ!
 期待どおりにナイスアシストを決め、新たな環境でもあおいが馴染める手助けを、しっかりしてくれた。
 クールな視線の奥にどんだけの”情”込めてるか、答え合わせが先取りして行われてるの、ホント独特だよなNSの構成……。

 かすみさんは『”雪村あおいの倉上ひなた”になりそこなった少女』であり、ひなたが新たなクラスで発揮していたようなアクティブ極まるコミュニケーション能力も、わかりやすい感情表現も持たない。
 何かと勝手に他人を決めつけ、自分にまず優しくしてくれる存在だけを受け入れるあおいには、クールでクレバーなかすみさんの距離感は、尻込みし遠ざけてしまう類のものだ。
 しかし心配りがわかりにくい形で現れるとしても、そこに宿る真心が軽いわけではない。
 メチャクチャ重力宿った視線で雪村あおいを見つめ続けてきた少女が、スッと差し出してくれた助け舟をありがたく思いつつも、結局”雪村あおいの倉上ひなた”に安住の地を求めるあたり、やっぱこの主人公イイ性格しとんな……。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第10話より引用

 しかしかすみさんも、そういうひなたの気質(に、心地よくハマりきれず特別になりきれない自分)はわかった上で気にかけており、何もかもが急に変わっていくことはないのだと、正しく受け止めている。
 天使が春風と制服に身を包む中、新しい年が始まる。
 思い出を刻んだアルバムを見つめながら、綻ぶ笑顔の花を携えて、再び少女たちは山に挑むのだ。
 一年前よりずっと大きくなった人の輪が、それそれの未来を見据えつつかけがえない今を共有して、元気に弾んでいる様子は良い。
 やっぱこの暖かく爽やかな青春味が、ヤマノススメの良いところだわな。

 女と女のデケー青春感情バトルが一段落付いて、ある種の”余生”感が漂うNSにおいて、写真はともすれば山よりも大きなモチーフとして、話数をまたいで描かれてる感じがある。
 それは否応なく少女たちを押し流していく時の流れに、思い出を剥奪されないための大事な杭だ。
 形として残ってくれるかけがえなさを頼りにして、一瞬一瞬姿を変え、そこでしか得れない感慨を胸いっぱいに吸い込んで、あおいはだんだん変わっていく。
 永遠と一瞬が交錯する人生の記憶であり、記録でもある”写真”というメディアへの信頼感と愛情は、話数を重ねるごとに熱を増していて、異様で凶暴なフェティシズムが宿ってきてる。
 青春の守護天使たる”写真”への物神信仰が篤いの、俺かなりNSでの好きポイントなんだよな……。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第10話より引用

 そして吉成大先生今回の補講は、三年トリオのドキドキ沢遊びッ!
 毎回イントロ合わせで初手殴り付けてくる”絵”の力強さ、あんまりに圧倒的で何回襲われても慣れない。強すぎる……。
 中割り入れたいわゆる”アニメーション”とは違う作りなのに、ポーズと構図の作り方がぶっちぎりに的確精妙なので、存在するはずのない”動き”をダイナミックに幻視できるの、本当に凄いと思う。
 そうやって勢いよく青春をブン回し、ハードな岩登りで見せた後は、バスの最後尾を特等席に身を寄せ合い、最高の友情を温め合うしっとり感でフィニッシュ……と。
 一分半の短編にしっかり起伏を付け導線を貼り、不思議な充実感とともに見終えられる作りなのも、何回受け取ってもありがたさが衰えないよね……。

 こんな心地よくずっと続く”腐れ縁”もあれば、思わぬ別れと出会いにかき回されながらつながっていく、変わっていく縁もある。
 そんな奥行きを生み出しつつ、時は一気に夏へと進んで二度目の富士登山、満を持してのかおり監督登板ッ!!
 季節の移ろいを大変豊かに捉えてきたNSの筆致で、春と初夏をずっしり見届けたい気持ちもありましたが、遂にやってくる最終エピソード、膝を正して待ちたいと思います。