イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第11話『また会えたね!富士山』感想

 全ては、この時のために。
 ヤマノススメ第4期、決戦の富士登山・前編である。

 一話を二つに割り、バラエティ豊かに進めてきたNSであるが、今回はどっしり時間を使って富士登山リベンジへの準備を描く形となった。
 過ぎゆく季節、オーソドックスな山行に挑めない秋と冬を舞台に、だからこそ様々な出会いや発見、面白さを描いてきたお話のBPMが、クライマックスを前に少し変化した感じを受ける構成だ。
 それはギアの目新しい面白さや、山に登る前、登ってる最中の細やかな発見を掘り下げていく”ヤマノススメ”の本道に戻ってくる語り口でもあって、懐かしく感じると同時に、『確かに何かが終わる』のだという感慨も深まった。
 短くシャープに、過ぎゆく時間を慈しみながら取り回してきたお話とはまた別の、しかし確かにそこと繋がっている、あおい達の夏。
 そこにはリベンジに気負う緊張感と、山と友情を胸いっぱい味わう楽しさが同居していて、登る前からもう面白い。
 そんな彼女たちの青春を動かす、リズムとテンポがどっしり地面に足をつけて、落ち着いて届くエピソードだった。

 

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第11話より引用

 冒頭、霧深く苦しい道のりに追い詰められ、山を登る意味を問いただす……そして拓けた視界にそれを掴み取るあおいが、可愛くも印象深い出だしである。
 それはあの夏、山を降りて凹んでさまよってもう一度登って、ひなたに手を引かれて見つけ直した歩みを、もう一度たどり直す行為でもある。
 しかし今回あおいは、自力で山に登る意味を見つけ直し、わざわざ鍛えて準備する理由を確認している。
 既に辿った道はけして安楽ではないけども、確かに汗を流して苦しんだ分馴染みも深く、他人を勝手な思い込みで判断する割に自分に甘く、大事なことをチョロっと忘れる心配性の根暗にも、積み重なるものが確かにある。
 そんな成長を確認してから、始まっていくエピソードだ。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第11話より引用

 ここなちゃん様謹製のパエリアに舌鼓をうちつつ、ルート選定に励んだり。
 色とりどりのザックから、リベンジに耐えうる相棒を選んだり。
 その使い心地を確かめるために、重たいペットボトル詰め込んで階段を上り下りしてみたり。
 今回はとにかく、山に登る前段階を丁寧に丁寧に、その一個一個の面白さを地に足つけて描いていく回である。
 ここまでのNSが結構圧縮率高く、グサッと刺さる強めの場面を繋ぐ形で走ってきたので、少女たちの暖かな日常にどっしり向き合い、本番までの準備にも独特の面白さが宿ると描いてくるのは、新鮮な気分だ。
 それでいて、『ヤマノススメ、こういう所も面白かったな……』と思い出せる懐かしさがあるのが、ラストエピソード前編って感じでしみじみする。

 ぱっと見派手に刺さる部分は少なく……ていうても、運命の相棒に出逢ったときの魔法少女変身バンクみたいな作画は、ノッてて大変良かったけども、しかし少女たちの夏が丁寧に積み重なる手応え、実在感が濃い今回。
 ここら辺の丹精な筆致はおそらく意図的で、コンテ・演出のかおりが持つ作家性を活かした作り込みといえる。
 元々各話担当クリエーターの個性を閉じ込めることなく、存分に発揮させ暴れてきた作品であるけども、こういうやや抑えた形で、しかしそこにこそ巧さと手触りを感じる仕上がりにまとめてくるのも、なんか凄く”らしく”て良かった。
 富士に挑む前に、ここまであおいの歩みに付き添ってきた人ほぼ全てが顔を出してにぎやかなのも、集大成感を強めて良い感じ。
 NSが焦点を一個に限定せず、色んな人と出会い触れ合って世界が広がっていく、爽やかな風通しを大事に進んできた作風なので、クライマックス前にその情景を確認できるの、なんか嬉しいな。

 

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第11話より引用

 んで、富士登山に賭ける思い入れがあおい一人に終わらず、共に登る仲間全員に及んでいる描写も、凄く力強かった。
 1グラムを超悩みながら削り取る、ひなたの山屋っぷりが無茶苦茶良かったけども、これがあおいの万が一を慮ってのことってのが、倉上ひなたの人間力というか……。
 あとお泊りキメたほのかちゃんが、全体的に年下感満載に書かれてて、クールな彼女の意外な魅力を最後に発見ッ!って感じで最高。
 あ、二枚目のてるてる坊主に祈るここなちゃん様が最高可愛かったので、思わずキャプりました。
 やっぱ好きだなぁ……。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第11話より引用

 幼い表情を晒したかと思えば、再度の敗北フラグだった寝不足にしっかり釘刺して、持ち前の不安性をガラスの向こうに膨らませかけてるあおいに、頼もしいアドバイスを差し出しもする。
 年上のはずのあおいが窓の外、曇る空だけ見つめて、目の前のヤマを見てない現状は、不測の事態もたくさん起こる……だからこそ面白くもある登山においては、危険な不安要素だ。
 そこに向き合う心の強さを、ほのかちゃんは既に持っている。
 それを分け与えられて、あおいは初めて不確かなものを心配するのを止めて、目の前にいる友人の実像、それに支えられている自分に視線が戻ってくる。
 ここのやり取りはとても細やかで、じっくり時間を使える前後編構成だからこその見せ方だと思った。
 お泊りの時見せた表情と、この頼もしさの合わせ技で、ほのかちゃんの立体感がググッと高まるのが良いよね。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第11話より引用

 夏の名物『うるせー外国人』も顔を出して、気合十分で挑む二度目の富士山。
 楽しいことばかりではなく、苦しいばかりでもなかった”ヤマ”が雪村あおいにとって、このお話にとってどんなものだったのか、描ききるのは来週、最終回となるのでしょう。
 今回はそのための準備であり助走でもあったわけですが、それで終わらない独特の手触りがあって、そこにはこのお話が大事にしてきたものが沢山詰まっていて、大変良かったです。
 秋から冬、春へと過ぎゆく時をどっしり追いかけ、色んな景色を見せてきた物語が最後に選んだ、特別な前後編。
 それが形にするものが、とても素晴らしくなるという期待が、大きく膨らむ『山に登るまでのお話』でした。
 ここに一話使ったの、俺は凄く好きだなー。

 

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第11話より引用

 そして多分ひと足お先のフィナーレになる、10回目の吉成鋼美術館。
 最後の最後に、ここまで枚数絞って仕掛けてきた勝負を”量”にシフトしてくるの、ほんと怖くてしょうがない。
 『俺、”ヤマノススメ”が好きだからさ……たくさん書いちゃったよ』
 そう告げんばかりの、山の形を為す二つの掌のラッシュには、大先生が総身から溢れさせる”本気”が、ビリビリと空気を震わせて溢れている。
 いやまぁ、鋼先生はずっと本物中の本気であり本気中の本気であったのだが、それにしたってこの”量”は……。
 最後の最後に『絵が動く』アニメーションの強さを、これまでのテイスト残しつつフル駆動させてきたな……マジ怖ぇ。

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第11話より引用

 一分半『俺は凄くヤマノススメが好きで……今まで描いてきたモノでは追いつかないくらい描きたいモノがあって……』って”念”を、シンプルな物量のラッシュで叩きつけつつ、その羅列で終わらない猛烈な貫通力で”ヤマノススメ”してくるこのED映像。
 『これが俺の”ヤマノススメ”、解釈と実践だ!』と吠え続けてきた日本最強のヤマノススメオタク(このアニメに関わる人で、この称号を争えるのが山盛りいるけど)がラストに見せる景色は、あまりにも豊かだ。
 六人の横幅をしっかり捉えつつも、最後の最後で”あおひな”に超強烈なクローズアップを入れつつ、最高の景色でフィニッシュキメてくるの、もはや凶暴ですらある。
 この人が、NSのEDアーティストでいてくれてよかった。
 最終話を前にして、そんな感謝が体の奥から震えとともにこみ上げてくる、素晴らしい仕上がりでした。
 強かったな~ホント……。