不意打ちにありきたりの日常をぶち壊して、永遠に続くと思える愉快痛快な狂騒が、色づく楓とともにしっとり終わりの気配をまとう、うる星やつら第10話である。
第1エピソードで『主役の出番がラストだけ!』とオトしておいて、第2エピソードではラムのいない世界を彷徨う諸星少年の純情に、じっくりクローズアップ。
緩急の効いた構成と全体的にキレのいい作画、令和うる星が視聴者に染み込んだタイミングを見計らってお出しされたど直球ロマンスが相まって、なかなか力強いエピソードとなった。
最初のオチで『あたるいらないじゃんッ!』ってなった後、第2エピソードを見終わると『……やっぱ主役だわ……』となるのは、作り手側の狙い通り楽しく転がされてる感じがあって、なかなか面白かった。
というわけで、授業参観エピなのに全く授業参観しない、極めて濃い口でカオスな……つまりは”いつものうる星”な第1エピソード。
牛車で堂々乗り付ける面堂母のぶっ飛び方を、文字通り上から叩き潰すラム母のコズミックなぶっ飛び方が、そのまま異文化コミュニケーション……あるいは通訳コントとして元気に暴れる回である。
なにかとキレすぎな面堂家側近と合わせて、端役のはずなのに主役を食いまくるド濃厚なキャラ立ちが良く暴れて、まことこの作品らしい。
キャラが立ちすぎてお話の制御が効かなくなっても、そのどんがらがっしゃんな大暴れ自体が”それっぽく”なってしまうのは、なんとも器量のデカいところだ。
息子の参観日に三日かけて訪れ、貴種の勤めとして下々の者に直接語りかけない面堂母と、娘を越えた宇宙規模ド天然をブン回して、諍いの種をゴロゴロ大きくするラム母。
間に挟まる面堂とラムもまったく常識外れ、とにかく状況は異様な元気さで跳ね返りまくる。
つーか平野さんの声と気合のノッた作画が相まって、ラム母が大変可愛く仕上がっており、その余波が着物めかしこんだ諸星母にも乗っかって、大変ありがたい。
前回レイを相手に”艶”出してたのが、思わぬ繋がり方して不思議な膨らみ。
こういう事があるから、ショート連作形式は面白いよなぁ……。
話の方は場外乱闘騒がしくするだけして、教室に入ることなくガガガッと終わる。
この騒々しさが第2エピソードを包む詩情の前フリとして、実によく効いている構成だと思う。
めちゃくちゃ濃いキャラが圧倒的な勢いで駆け抜け、ツッコミを置き去りに状況が転がっていく、”ザ・うる星やつら”ともいうべき味付けを食わせた後に、ラムがあたるを追いかけるいつもの構造が反転し、永遠の狂騒が終わっていく寂しさに隣接する、”らしくない”エピソードが来る。
しかしその静かな湿り気、騒がしきガールハントを遠ざけた純情こそが作品を下支えしており、魅力的な混沌はお互いを相思うラブコメの本道あってこそだと、解っても来る回である。
いつもの面々がいつもの騒がしさで、永遠に続く日常を踊る冒頭、あたるはひどく幼く身勝手な振る舞いで、ラムから距離を取る。
それはラムが自分を追いかけ続ける構造が、ずっと変わらず続いてくれると信じた甘えだ。
しのぶと面堂を交えた四角関係もあまり強く発火はせず、男と男、女と女の奇妙で靭やかな友情が日常を満たしている様子も、どっしり切り取られる。
ここの手付きが結構良くて、いつの間にか”日常”になっていた虎柄ビキニ宇宙人美少女が、現れたときのようにふわっと消えてしまう可能性を描くエピソードの、後景を上手く彫り込んでいる。
それが楽しく愉快だったからこそ、消えたときの喪失感はあるのだ。
儚げ美少女力がカンストした『バイバイ』を残して、しかしラムは消えてしまう。
序盤に満ちていた『いつものうる星』はこのあたりからしっとり落ち着いて、あたるもまなじり下げたスケベで軽薄な表情から、純情少年の地金を表に出して、大変可愛らしい。
ショタみすら感じさせるここのあたるの顔は、めったに見れない意外性と、それこそが彼の本質だと感じさせる力に満ちてて、大変良い感じだった。
この貌の説得力で、あたるの”本心”が秋風に揺れるエピソードがしっかり、支えられてる感じがある。
もう一つとてもいい仕事をしてるのが、秋を盛りに咲き誇る紅葉と、それを枯らす涙雨の連続である。
あたるが一緒に見ることを疑わない地球の紅葉は、けして永遠ではない時の流れの中無情に世界を埋め尽くし、その盛りを越えて降りしきる雨に散らされて、なお微かに燃え残る。
共に見るはずだった盛りの虚しさ、ずぶ濡れになりながらラムを探す夜の心細さ、泣きじゃくった後の晴天の気配もよく照らして、二人の青春を写し取るキャンバスとして、この情景はとても良かった。
色づいて散っていく紅葉を定点観測することで、ラムがいない時間の長さを言外に描けるのが、エピソードの雰囲気とよく噛み合ってもいる。
昭和の文物と価値観を今に引き継ぐ”古い”話であるが、人の心を知らぬまま勝手に咲き誇る紅葉葉の趨勢に、あたる少年の純情を照らす古風がここで効いてくるのは、嬉しい不意打ちであった。
そういう”古さ”で勝負しかけてくるの、俺は大好きよ……。
涙雨に吹き散らされて、盛りを過ぎてなお、遅すぎることはない。
不意のさよならで想い人の心を揺らした後、再び唐突に”日常”に帰還した少女を思って、あたるがどれだけ泣いたのか。
人形に仕込んだ盗聴器で、キッチリ確認しているラムの愛業の強さに背筋を凍らせつつ、キッチリ叙情的にまとめて、今回はおしまいである。
自分を監視する罠とも疑わず、自分のハートに一番近い特等席をラム人形に用意している所に、諸星あたるの可愛げがギュッと詰まっている。
泥だらけになろうが、つれない態度をとろうが、今の諸星あたるにとって嫉妬深い宇宙人がどんだけ大事な存在なのか、強い筆致で見せてくれるのはありがたい。
やっぱよー……軽薄で冴えない浮気者が自分も気づかぬまま、猛烈(すぎる)アタック仕掛けてくる超日常美少女にすっかり絆されて、追いかけさせているようで夢中になってるっていう逆転とギャップが、メチャクチャ火力あるからな……。
つーか今回のラムはちょっと丸っこく幼い感じで大変可愛く、『そらーあたるも堕ちるわ……』と納得させられてしまった。
はた迷惑な闖入者、日常の破壊者だったはずのラムに夢中なあたるは、10話物語を見続け(あるいはそれ以前、”古典”となるほどに力強く面白い物語にすっかり魅了され)て彼らが好きになった僕らと、面白い相似形を為す。
第1エピソードに代表される騒々しい混沌と、第2エピソードに宿る確かな純情。
永遠に続くよういてで、どこか寂しい終わりの気配を漂わせる”日常”。
それがどう成り立っているのか、お話の根本をしっかり確認できるエピソードで、大変良かったです。
このノリにすっかり慣れて、馴染んで、ある意味飽きてきてすらある頃合いに、こういう風に作品が視聴者を立ち止まって見つめ返すお話が差し込まれるのは、タイミングが凄く良いよなー……。
かくして新鮮な気持ちで、次回の喧騒を楽しみに待つ。
やっぱ面白いなぁ、このアニメ。