イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第1話『僕は奪われた 』感想

 激ヤバ陰キャ中二病少年と、遠くからだと人生と顔面がピカピカ輝いて見える奇行美少女が織りなす、トンチキで暖かな青春ラブストーリー、満を持してのアニメ化である。
 ”からかい上手の高木さん”で1ON1ラブコメジャンルを確立した赤城監督&シンエイ動画の手により、僕の大好きな原作がどう描かれるかワクワクハラハラしていましたが……素晴らしい第1話でした!
 初期京太郎の自意識パンパンでバリバリヤバい……って枠に自分をはめ込むことで、なんとか思春期のありきたりで切実なキツさに麻酔かけてる感じ、それが山田との出会いでメタメタにぶっ壊されていく感じが、パワフルかつ繊細に描かれていました。
 スレスレどころか全身で体当りしていく下ネタと奇行を、パワフルにブンブンぶん回して強めの笑いを作りつつ、複雑に波打つ思春期の心、クラスみんなそれぞれの個性、それらが触れ合って生まれる微細な空気感が、しっかりとアニメに落とし込まれていました。
 僕はのりお先生の、自分が生み出した子ども達ががむしゃらに自分らしく青春をあがいている様子、それを暖かく見守りつつも容赦なく笑いに変えていく腕力が凄い好きなので、両方大事にアニメにしてくれて大変良かったです。

 僕は原作ガッツリ追ってる立場なんで、京ちゃんと山田とはアニメで初対面ではもちろんなく、すっかり愛しく見つめる事になったチャーミングな二人が、未だお互いを自分の中に入れていない段階を思い返す感じなのですが。
 うざったい前髪が視界を塞いでいる京ちゃんの視界が、世界を明暗に切り分け自分の居場所は”陰”なのだと思いこんでいる様子とか、その壁を山田との出会いで沸騰していく脳髄が生み出す、リアルでシリアスなヤバ行動がぶっ壊していく様子が、過剰で心地よいモノローグとともにガンガン襲いかかってきました。
 この話は自分の優しさや瑞々しいセンスの使い方を、いまいち判ってない少年が恋に出会うことで、瞳を真っ直ぐあげれるようになるまでのお話だと僕は思っておるわけですが、そういう出会いと変化の物語として、なかなか力強い描画が多かったです。
 繊細で傷つきやすい心を持つからこそ、色んなことを勝手に思い込んで殻を固くして、自分を守っている中学二年生の、いじけきらない常識と自意識。
 そこに全力で身を乗り出してくるトンチキ美少女への、実はあんまりヤバくないが故の鋭い内心ツッコミが良く冴えて、全然会話しない会話劇としてのテンポも良かったと思います。

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第1話から引用

 というわけで京ちゃんは山田杏奈と出会ってしまい、自分には縁通り光の存在だと思い込み遠ざけようとして、運命の引力に惹かれて振り回されていく。
 モデルで友達も多く明るい山田は常に光の中に立って、悶々と頭ん中で思春期のナイフを研ぎ澄ましている京ちゃんは、自分を影の中に置き続けている。
 この明暗の差が、二人を隔てる教室という社会での立場の差であり、何よりも京ちゃん自身を縛り付ける自意識の檻である。

 客観的に見ると山田は図書館でモガモガ握り飯は食うわ、笑いのツボも行動理念もどっかボケてるわ、一般的中学生とは大きく離れた奇人……であり、京ちゃんが勝手に膨らませているようにスクールカーストに縛られたりはしない、素直で優しい子である。
 『どうせ世界はこんななんだ』と、京ちゃんが自分に冷たい山田杏奈を妄想する時、世界は現実より少し冷えた色合いで影が濃い。
 しかし現実には山田杏奈は暖かな光をまとって、グイグイと構えなく影の中に踏み込んできて、2つに分かれていたはずの世界は勝手に近づいていってしまう。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第1話から引用

 それはつまり、窓辺に眩しく光る彼女を見つけて以来ずーっっと山田杏奈を追いかけてしまう京ちゃんの魂が、真逆の立ち位置にいるはずの彼女を追いかけてしまった結果でもある。
 山田の涙を見られたくなくて、発表を引き裂く奇行に及ぶのは、『背徳的妄想にふける、ヤバい僕』というセルフイメージでギリギリ惨めさから身を守っている京ちゃんが、恋に狂ってガチでおかしくなってる結果であり。
 バッキバキにしこり倒すくせに、後ろで若き性獣たちがあけすけな性欲トークをぶん回していると、その死を祈ったりもする。
 どぎつい下ネタと甘い純情が入り混じり、大変独特の味わいが匂い立つのもこのお話の好きなところであるが、全身チンポ共のチャーミングな恥じらいをしっかり切り取ってくれて、良いアニメ化にBIG KANSYAである。
 せっかくのりお先生のアニメなんだから、エグさもあまさず駆動させてほしいもんよ。

 教室の誰も気づかない山田の涙を、京ちゃんだけが気にかけている時点でそらー特別な女(ひと)であるし、殺すの犯すの吠えてる割には泣かれると心が痛い、ナイーブな優しさが中二男子の真ん中にそびえ立つ。
 それはいきり立った欲望をシコシコ妄想で慰めて、身体的欲求を果たす動物敵側面と、別に矛盾するわけではない。
 惨めな自分もヤバい僕も、純情な己もみんなみんなそこにいるのだと、多様な自己像を許容できるだけ大人になれば、このお話もすぐ終わる。
 しかし青春の身悶えがそんな”正解”に簡単にたどり着くはずもなく、動き出してしまった京ちゃんの自意識バトルは、変人山田がポコポコ投げ込む燃料に揺らされて、トンチキな方向へとガンガンに加速していく。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第1話から引用

 その青春超特急は学園生活の色んな場所、放課後のあらゆる瞬間に加速していって、自称・ヤバいヤツな自意識肥大化少年よりも全然ヤバい、ヘンテコ女を必死に追いかけていくことになる。
 山田杏奈はとにかく顔と性格がいい奇人なので、小心で常識人よりな京ちゃんは自然ツッコミに回る……んだけども、まだ距離が遠いので遠巻きに見つめながら内心で突っ込み、奇妙な接触を繰り返しながらの身悶えという、かなり独特な交流になる。
 その、フツーじゃないんだけども妙に歯車が噛み合ってる感じが不思議に愛しくて、このお話の好きな所の一つである。

 猫ちゃんゴッコしたり本屋での奇行を見守ったり、グラビアの中の知らない山田杏奈に勝手に失望した挙げ句シコリ倒したり、ちっぽけで切実な挫折がジクジク傷んだり。
 京ちゃんの小さな自意識は、出会ってしまったヘンテコ女にガックンガックン揺さぶられて、影の中でいじけている暇がなくなっていく。
 座組の上ではガッツリピュアラブなんだが、それはそれとしてバッキバキに性欲ファーストで動くのを良しとしている空気も、やっぱ好きだ。
 それは心身が発育するからこそアンバランスに揺らぐ季節に、当然つきまとう厄介な懊悩であり、人生の泥まみれな部分もピカピカ眩しい部分も全部かじりに行く、欲張りな作風の大事な一部だ。

 第1話で京ちゃんの中二病気取りがどっからくるのか、早めに暴いて共感の足場を作ってきたのは、なかなか上手い語り口だなと思う。
 特別な存在にはなり得ない自分を思い知らされて、なお何者かであると自分を思いたがった結果、クラスメイトがわざわざ触らない世界の薄暗い部分へ首を突っ込み、そこの王様になろうとする。
 そんな精一杯の自己防衛に、山田杏奈から放たれる光はピシピシ罅を入れて、むき出しの京ちゃんを引っ張り出してくる。
 そして思い込みや演技を引っ剥がされた素の市川京太郎は、彼が自覚も意識もしていない方向にヤバい。
 ヤバくなっていってしまう。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第1話から引用

 ナンパな先輩の恋人疑惑に赤信号を点灯させたり、ナンパだと解って青信号になったり、前髪の陰りに山田杏奈の挙動を捉えてしまったり。
 第1話はとにかく京ちゃん主観でどう絵を作り上げていくか、それを通じて彼のナイーブで奇妙で切実な青春に視聴者を飛び込ませるか、心を配った作りだったと思う。
 陰キャの象徴である鬼太郎ヘアーは、京ちゃんにありのままの世界を認識させない壁となり、あるいは大してコミュニケーションもしてない(出来ない)相手に心が揺れて、勝手に貼り付ける暗いイメージにもなる。
 とにもかくにも、それこそがこのお話の主役が身を置いている場所なのであり、そうやって揺さぶられる心がトンデモねぇ爆弾を思わず投げつける、ヤバさの源泉こそが恋なのだ。
 たとえ、当人がそう自覚しておらずとも。

 ツボが常人とはズレてる山田は、ちびっ子ナイト様が全力でぶん投げた自転車爆弾に、爽やかに笑う。
 99%ドンビキされるだろうイタい行動が、ナンパなアプローチに困っている自分をどうにか助けようとする、優しさと勇気の発露なのだと直感したから。
 その眩さが、京ちゃんが勝手に(しかし切実に)自分を追い込み閉じ込めていた、暗くて狭い場所から引っ張り出してくれる。
 そんなヤバさと出会った時、少年はとてもチャーミングだ。
 京ちゃん、ホント可愛いねぇ……。

 

 恋に出会った少年も、眩く輝く少女も、それを取り巻く人々も、全く普通ではないけどもだからこそ面白い、ヤバくて暖かな青春。
 その始まりを、大変印象的に描いてくれる第1話でした。
 話の強力なエンジンであり、立ちはだかる壁でもある京ちゃんの自意識と世界認識を、コミカルで下世話な楽しさをたっぷり潤滑油に使って見ているものに解らせてくれたのは、とても良かったと思います。
 ありふれた惨めさに包囲されながら、それをぶっ壊してくれる可能性を思わず引き出す、ヤバい女とのヤバい初恋。
 一体どこにぶっ飛んでいくのか、これからのさんヶ月が楽しみになるスタートでした。
 次回も大変楽しみです。