イマワノキワ

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ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン:第37話『メイド・イン・ヘブン その②』感想

 加速した時は数多の犠牲を噛み砕き、運命の果てへと少年を運ぶ。
 VS”メイド・イン・ヘブン”、ストーンオーシャン最終決戦である。
 超加速神父の表現がアニメならではの迫力とトンチキ加減で、なんともストーンオーシャンなラストバトルであるが、情け容赦なく勇者たちの命を奪うあっけなさと、それでも微かな希望を繋ぐ意思とが交錯し、非常に感慨深かった。
 あまりに圧倒的なスペックを、持ち前の用心深さ(獲得した力に似合わぬ小心とも言う)で油断なくぶん回してくる神父を相手取り、世界まるごと奇妙な清算に巻込みながら、進展する闘い。
 そこにはここまでの奇妙な冒険で、生まれた出会いで、自分を変えていった魂の輝きが確かに宿る。

 誰の命も顧みない冷酷な殺人鬼が、自分のスタンドと命を”守る”ために使おうとする姿も、父の帰りを待つ少女が最後に叫んだ雄叫びも、後ろ向きな破滅ではなく闇の中のかすかな光を、引き寄せようとする強き意志。
 それを引き継いだ……引き継いでしまったエンポリオくんは、果たして血脈の外側から決着を背負う存在へと、己を加速させることが出来るのか。
 ヒロイックで悲愴な運命を託されつつも、あんまりに過酷な異常事態に泣きじゃくってる彼が凄く可哀想で、そこが良かった。
 主役たちが繋げたバトンを最後に引き継いでも、彼はただの子どもで、ただの人間だ。
 だからこそ、JOJOを終わらせる資格がある。

 

 

 

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第37話から引用

 というわけでエンポリオくん、冴えわたる知恵で脱出口を開き、最後の決戦に必要な時間を稼いでいく。
 エルメェスの”キッス”あってこその弾丸脱出で、アナスイ覚悟の作戦と合わせて、この局面まで生き残った者たちの総力戦という感じが強く出る。
 時は際限なく加速し何もかもが狂っていく中で、命と意思だけが加速する時間に抵抗する。
 その先頭に立つのは、イカれた求婚殺人鬼だ。

 アナスイ最後の見せ場となる作戦立案シーンは、彼が徐倫と出会いF・Fやウェザーと死に別れて、どこにたどり着いたのかを良く教えてくれる。
 彼は『脱獄以来、命だけは運が良いんだ』とエンポリオくんに語っていたけども、つまりそれはウェザーに死なれてしまったのはメチャクチャ最悪ってことで、今の彼は命の重さを知った上で自分のそれを投げうつ。
 人間をその尊厳ごとグロイ罠に変えたり、脳直結で精神をイジったりしてきた”ダイバーダウン”を、神父の攻撃から仲間を守る盾にすることを、最後の役目に選ぶ。
 徐倫を守り添い遂げる以外に願いなんてなかったアナスイは、仲間の死を間近に受け止め、世界ごと自分たちがぶっ殺される極限で、そういう場所にたどり着いたのだ。

 そこにある覚悟を、魂のきらめきを見たから、徐倫はその求婚を受け入れ、待ち望む。
 絶望に心が支配されたからではなく、その行いには未来への希望があるから、と。
 あれだけ求めていた未来を擲ち、徐倫以外の手を取った瞬間”祝福”が手に入るのは、加速する時の中心で自分だけが求める世界を手に入れようとする、神父の歩みと対照的だ。
 ロマンスを語らうにはあまりにイカれた状況であるけども、アナスイの好意を受け入れる徐倫が愛に裏切られて刑務所にブチ込まれた事を思うと、このプロポーズは一つの決着として、とても暖かなものがあると思う。

 

 

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第37話から引用

 同時に状況はあまりに異様で絶望的で、本来なら希望を示すはずの夜明けは不気味な虹色を宿し、戦況を不利にする。
 アナスイ命がけの策は神父の奸智に、あるいは最後の最後で”父”であった承太郎の生き様に阻まれ、二手遅れて失敗していく。
 ここで娘を見捨てて正義を果たす冷酷さが承太郎になかったのは、自分が本来いるべき時に娘の側にいてやれなかった結果、こんな過酷な冒険に引っ張り出してしまった負い目があったからかもしれない。
 誰かを思いやり、守ろうとする心を、神父は”弱さ”と断じる。
 誰を犠牲にしてでも目的を遂げる漆黒の遺志が、彼に宿る原因となったペルラの死は、哀しみや愚かさを悼む柔らかさではなく、世界そのものを書き換え敵を皆殺しにして欲しい物を掴む激しさを、彼に与えた。
 承太郎最後の戦いがこういう敗北に終わるのは、そういう冷たい激しさが彼を駆動させていたのではなかった、一つの証明かもしれない。

 脇腹を突き刺され混濁する意識の中で、徐倫が物語開始時のか弱い女の子に戻っているのが、とても寂しかった。
 刑務所での実地訓練を経て、数多の闘いと別れを経験してなお、徐倫の芯には可憐な柔らかさが残っていて、それが父に抱きしめられる事を願う。
 時を止める超常の力を持たず、”世界”の入門資格がない徐倫はただ護られるだけのか弱い存在……のままでいられないのは、ここまでの物語と同じだ。
 父は愛ゆえに自分を見捨てず、あの時は耐え抜いたナイフの雨に命を奪われていく。
 DISCを奪われ、だからこそ戦う意味を見つけたあの時のように、仲間が稼いだ距離と時間を自分が引き継ぎ、誰かに再び託す最後の戦いへと、徐倫は進みださなければいけない。

 アナスイのプロポーズは果たされなかった。
 大好きで信じていた父は、自分を守るために死んだ。
 それでもなお、柔らかな優しさを保ったまま徐倫は、神父の邪悪で身勝手な野望を砕くための闘いへと、自分を投げ込んでいく。
 彼女の仲間たちが、迷わずにそうしたように。

 

 

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第37話から引用

 終局に向けて加速していく世界の中で、聖人譚の一節のようにイルカの背に導かれながら、ようやく切り開いた”海(オーシャン)”への道。
 そこで徐倫は”ストーン・フリー”を未来に運命を繋げるもやいの縄として、自分のためではなくエンポリオのために使う。
 敗勢必至の逆境で少しでも、闇の中の光を少年に見出して、重たい荷物を託していく。
 それは神父が執着するジョースターの血脈とは、また違った意思の系譜だ。
 アナスイが結婚によって新たな家族として向かい入れられ、血筋が増える可能性を徐倫が、希望として受け入れたのと根っこは同じ感じがある。

 なんのスタンド能力もない、異様なまでに研ぎ澄まされた知恵と根性だけが武器のただのガキのために、命を浸かっても勝ち目はないかもしれない。
 神父がたどり着いてしまった場所は人智を超えた異様な世界で、命運と時の流れは書き換えられ、彼が手前勝手に確信する救済が全人類に押し付けられる。
 そんな運命のどん詰りで徐倫は、エンポリオを未来へと押し出すこと、意志を継ぐことを最後の戦いに選んだ。
 それはF・Fが自分によく似た誰かとして再生することよりも、知性と意志を込めてさよならを告げることを選んで、戦いの中散っていった姿に似ている。

 神父がDIOから引き継いだのは卑怯な時止めナイフと、なんかイカれた感じの加速した時間による世界改変だ。
 それは狂った虹のように他人を捻じ曲げ書き換え、しかし自分だけは動かない。
 その凍りついたあり方は、泣いているだけのお嬢ちゃんからタフな戦士へと生まれ変わり、戦うすべを知ることで眠っていた優しさを上手く伝えられるようにもなった、徐倫の物語とは真逆だ。
 変わっていくこと、繋がること、継いで行くこと。
 承太郎が主役を演じた三部からダイレクトに繋がるこの物語が、主人公を失ってなお続く中核には、そういう人間存在への強い信頼と、それを描くために激しく奇想天外な試練を用意するジョジョらしさが、生き生きと燃えている。

 

 

 

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第37話から引用

 極点に向かって加速していく世界の中で、戦士たちの骸は朽ち果て、衣服は剥ぎ取られて全ては元へと戻る。
 ……え、なんで全裸?
 『世界が生まれ変わるんだから人間だけが、賢しい衣服来て言い訳があるかいッ! 生きる時も死ぬ時も、人は裸一貫勝負の時だッ!!!』という、むせ返るような”凄み”が、なんの説明もないエンポリオくんのケツから溢れかえっている。
 いやー……ワケ分かんねぇことの多かった六部だけども、この最終決戦はいっとう意味分かんねぇな……。
 凄いのだけは解るのが凄い。

 神父が展開させる異能は彼個人では収まらず、どんどん拡大して世界を黙示に引きずり込む。
 何もかもが加速し、避け得ぬ死に強制的に人も世界も投げ込んで生まれる、新たな一巡後の世界。
 そこには裸のエンポリオくんだけがいて、彼は徐倫達の思い出を引き継いだ……引き継いでしまった少年として、最後の戦いに挑まなければいけない。
 それは数多の願いを受け継いだ”アツい展開”であると同時に、凄く残酷で悲惨な結末だと思う。

 エンポリオくんは最後の戦いでも勇敢に銃を握り、叫びながら戦う。
 でもそれは大事な人が死んでいく悲しさを飲み込んだわけではなく、アナスイの自己犠牲も、徐倫との別れも、訳が分からない理不尽の塊だ。
 母が神父の犠牲に(極めて身勝手に選ばれ)ぶっ殺された悲しさを、ずっと一人抱えて刑務所に閉じ込められてきた彼に、徐倫が優しく手を差し伸べてくれた事から、この物語は大きく動き出した。
 つまりそれは、癒やし難い哀しみに誰かが寄り添ってくれるのを待っている、ただの子どもだってことだ。
 そんなエンポリオくんに、全てが託される。
 過酷な最終決戦だ。

 時が加速しきった結果極点を超えて始原に戻ってきたこの状況で、エンポリオくんは神父との因縁を引き継いだたった一人の旧世界人として奮戦しなければいけない。
 折れることは許されない。
 神父の理不尽で強力な力に屈すれば、継がれていったものが耐えてしまう。
 ”ストーン・フリー”が繋いだ、思いの糸が切れてしまう。
 全裸の少年がもっているのは、もはや誰も覚えていない未来の記憶と、確かにそこにあった絆だけだ。
 F・Fはそれさえあれば満足だと散っていったけども、さてそのか弱い力は黙示の王を討ち果たす、勇者の剣となりうるのか。
 次回ストーンオーシャン最終話、絶対泣くので覚悟して見る。
 ……神父のスタンドが、記憶を物質化して玩弄する能力だってことを考えると、この状況の集大成感、やっぱり凄いな。