イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第13話『もういっぽん!』感想

 輝きのど真ん中を真っ直ぐ突き抜ける柔道部青春物語、アニメもういっぽん! 最終話である。
 『最終話でタイトル回収』という様式美をしっかり踏まえつつ、若き才能と才能がぶつかり合う熱い試合あり、主役が主役である理由の回収あり、ギアをもう一段入れた気合の作画でねっとり描かれる重い感情あり、このアニメの良いところをフル動員したフィナーレとなった。
 『話の展開上本編で描くことは出来なかったが……このアニメには”水着”があるッ!』と、EDまでサービスぎっしり。
 しかもその立ち姿が艶っぽい感じ一切なし、ただただ柔道部員の女子が最高の仲間と海に来たという、生身の自然さ漂う描き方なのが、なんともこのお話らしくて良かった。
 金鷲旗が終わっても、幾つかの勝ちと一度の負けをしっかり胸に刻んで、青西柔道部の青春は続く。
 ”自他共栄”の理想を無邪気に体現する未知を先頭に立てて、まだまだ終わらない物語に余韻を残す、とても良い最終回でした。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第12話から引用

 というわけでアニメ最終戦となる、永遠VSエマ戦。
 福岡来てからは対戦相手に力点を置いた描写が多く、ちょっと鳴りを潜めていたこのアニメ最大の武器……誰かが誰かに抱く強い思いが試合前に炸裂し、ねっとり重たい空気が戻ってくるのが最高。
 中学時代に全国レベルを体験しておきながら、心が閉じていたせいで実力を発揮できなかった永遠が、物語が始まって(永遠自身が動かして)手に入れた仲間……園田未知という存在に支えられて、万全で大勝負に向き合えるのはアツい。
 対するエマが正体不明の怪物ではなく、ごくごく自然に微笑み会場を引き込む魅力を備えた、等身大の高校生”でも”あるのだと描くのと合わせて、色んな子どもが柔道やればこそ掴み取っているものを、大事に描く筆は健在だ。

 試合は体格で劣る永遠がスピーディーでテクニカルな組手を仕掛け、序盤を圧倒するも、強敵を味わい尽くすナチュラル猛者メンタル、圧倒的なフィジカルに飲み込まれる形で大勢が決して行く。
 仲間がこれ一本と全霊を込めた技を、スルッとコピーして本番で使いこなす描写に永遠の図抜けたセンスが見て取れるが、エマも恵まれた環境に後押しされ、持ち前の才能を活かしきる方法を良く知っている。
 柔道に青春賭けてるフツーの子たちを描いてきたお話が、まるでスポ根漫画みたいに才能に選ばれた二人がぶつかりあい、試合の中で限界を超えていく激戦を最後に選ぶのが、クライマックスに相応しい派手さである。

 青西の切り札である永遠のセンスと格、畳の上に立つとフル回転しだす柔道IQの高さをしっかり書きつつも、エマが規格外の才能でそれを乗り越えていく描き方には、主役が負けるために必要な納得が、しっかりあったと思う。
 引き分けではチームが負ける崖っぷち、残り10秒瞳の橋で確認してからの攻防は、お互い渾身の一撃を叩きつけ合うからこそ生まれる、特別な眩さがあった。
 紙一重……というには環境含めたエマの完成度が高く、必然の決着であったと思えるし、高速で主導権を奪い合う試合描写にはそんな現時点を超えて、青西のエースがさらに成長する未来が焼き付いてもいた。
 お互い全霊を絞り出す、とてもいい試合だったと思う。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第13話から引用

 ……って素直に自分の”今”を認められるなら、人生何も問題なんてないわけで。
 かつて天音との関係をこじらせるに至った、世界をモノクロに閉じてしまう永遠の気質を、勝ち負け関係なく率直に感動できる未知の資質が、彩り豊かにぶち破る。
 試合前に『はい、私は園田未知に狂わされています……』と、激重思い出ボム投げつけて自分をブーストしていたのが、灰色の敗北を飲み込んで未来に立ち上がっていく結末に繋がるのは、大変良い。
 こういうことをナチュラルに果たす女なので、出会う女出会う女未知に狂い、未知で狂っていくんだよなぁ……。
 僕は太陽女の周辺を重力に捕われた少女たちがグルグル回ってる様が大好きなので、最後にもう一回それ確認できたのは嬉しい。
 今再び、自分が遠くに立たされてる現状を確認した上で『来年は、100人抜きます』と堂々告げる南雲杏奈の決意もなッ!
 今回各キャラの思いや関係性を、ズビッと叩きつける強い絵面が随所に挟まってて、最終話に相応しいパワーが作画に宿っていました。

 早苗の後悔も凄く良いアングルから切り取られ、最後の最後まで”先輩”でいてくれる姫野先輩のありがたさも、とんこつラーメンに甘じょっぱく滲む。
 青西全員にしみじみ『良いじゃない……青春……』と思える見せ場がしっかり挟み込まれて、最終話も手応えずっしりで終わっていってくれるのは、13話彼女たちの奮戦を見届けた視聴者としては嬉しい限りだ。
 色んな闘い方、勝ち方、負け方を飲み込みながら、それに至り越えていく稽古の日々、笑い会える日常を共に進みながら、早苗たちの”部活”は続く。
 その終わりが全国クラスの強豪に当たり前に力及ばず負けて、でも当然とは思えず凹んで、だからこそ明日はもっと強くなりたいと願って、その本気を仲間に受け止めて貰える奇跡に満ちているのは、やっぱ良い。
 そういうモノがどこから生まれてどこに届いていくのかを、ずっと大事にしてきたアニメだと思うから。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第13話から引用

 敵味方の垣根なく、勝敗を越えた所に生まれてくる、新たな価値。
 メインテーマに選んだ”柔道”の理念を大上段に構えるのではなく、肩の力が抜けすぎたおバカな溌剌で、自然と体現する主人公は、最後まで他人の懐にスルスルと入り込んで、友達を増やしていく。
 そんな未知も負けて悔しくないわけではなく、自分の弱さや戦う辛さを感じないわけでもない。
 人生の暗さはどんだけ柔道真剣にやっても……やればこそ迫ってくるもので、しかし本気でやればこそ集う仲間と、その薄暗さを噛み砕いて明日の糧にし、真っ直ぐな道を進んでいくことは出来る。
 そういう高い理想がずっと作品を照らしていて、凄く見通しの良い青春の物語を描いてくれて、とても良かった。

 だから夏の終わりは未知の見えない角度でその重さを抱きとめる早苗の、掌に宿る湿り気を照らす。
 ……いやおかしくねぇその慈母の如き表情は!?
 滝川早苗はどんなつもりで、未知の気楽な悪ふざけを総身で受け止め、己の青春を畳の上に刻み込もうとしておるわけ!?
 最後の最後で、こういうフィジカルの暗号を抜け目なく描画してくる所、むちゃくちゃこのアニメらしくて良かった。
 風通しの良い爽快青春絵巻に見えて、かなりこんがらがった感情爆弾が随所に仕込まれてとるからな……。

 それはさておき、いつだって”もういっぽん!”と叫びつつ、柔道少女たちの青春は続いていく。
 全力で今を楽しみ笑い合う表情が、稽古を前に引き締まり、だからこそ楽しい。
 そういう、世界中あらゆる場所で輝いているだろう”柔道”の景色を最後に切り抜いて終わるのは、凄く良い。
 このお話がずっと見守り、描き続けてきたものに嘘がないラストだからだ。
 勝ちの喜びも、負けの悔しさも、出会いの奇跡も、強くなるための全ても、ちゃんと書いたアニメだった。
 だから、この続いていく終わり方が良い。

 

 というわけで、”もういっぽん!”全13話無事完走! であります。
 非常に良かったです。
 柔道の理念を自然と体現する未知の、人を引き付けまくる明るい魅力を中心に据え、色んな感情を抱えつつも部室に集って汗を流す少女たち、それぞれの思い。
 これがぶつかり合う試合の描写も、勝ち負けそれ自体に価値を見出さない公平な視座と、勝ち負けを競えばこそ際立ってくるそれぞれの強さがしっかり生きていて、力強い充実感を与えてくれました。
 負けて得るものを重視し、それが糧になる環境のありがたさをしっかり描きながらも、勝負それ自体を真摯に描ききったことが、勝ち負けを越えた意味を試合に与えていたのは、喜ばしい共犯関係だった。

 少女たちを繋げる理想としての”柔道”、あるいはその日々にこそ宿る”柔道”の理想を大事に、しかしそんな綺麗事を素直には受け入れられない瑞々しい若さもにじみ、現在進行系の青春群像劇に必要な重さと軽やかさ、湿り気と爽やかさがしっかりあったのも、凄く良かったです。
 未知の気質もあって全体的にカラッと進んでいくのだが、時折凄まじい重量の感情が適切な画筆でブッこまれて、その破壊力に身悶えできたのはスゲー良かったな。
 自分に惹かれる女達の視線には無自覚ながら、しかしその危うさを軽んじるわけではなく、真っ向組み合うべきタイミングを見逃さず抱きとめる未知の主人公力も、大変ありがたかった。
 未知じゃなきゃ青西柔道部、相当な激重感情のサルガッソーになってるよなぁ……掲載誌が青騎士ではなく、週刊少年チャンピオンで良かったなッ!

 アニメとしては勝負どころの作画と演出をかなり頑張り、伝えるべきエモーションをしっかり形にしていたのが、とても良かったです。
 それは試合の描写であったり、青春が反射する美麗な情景であったり、『ここが決め手だ!』ってポイントを見逃さず、しっかり勝ちきれていたと思う。
 要所要所に”いい絵”があってくれると、やっぱアニメは好きになれるな……”動く絵”だからなアニメーションは。
 肝所が強かったので、描写の横幅を広げてもダレることなく、むしろ勝者も敗者もこんがらがった色んな事情や感情も、全部受け止めてくれる”柔道”の懐の広さを、しっかり示せるていたのも、また良かった。
 主役校に閉じた描写にならず、対戦相手が背負った物語を大事に色んなものを描いたことで、馥郁と豊かな青春群像劇の手応えが、お話に宿ってました。

 というわけで色んな要素、色んな描写を好きになれる、とても良いアニメでした。
 大変面白かったです。
 まだまだ続いていく未知の一本道が行き着く先を、新たなアニメで見届けたい気持ちもありつつ、ここまで描ききってくれたことにまずは感謝を。
 ありがとうございました!!