イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ひろがるスカイ!プリキュア:第12話『ツエェェェ!キュアスカイ対カバトン!!』感想

 暴と武を隔てるものは何か、真実の強さを問う本格バトルアニメ、節目の第12話である。
 未だ敵の全容も定かならぬ、どっしりしたテンポで話し転がしてるひろプリ。
 第1クールを支えてくれた名優、カバトン大先生が自分を縛っていた呪いをスカイに解いてもらい(あるいは、克己の兆しを逃さず目覚めて)、修羅界から生きて足抜けする回でした。
 自分が社会に生存を許されない弱者であることから、逃れるために強さを装う。
 人生かかったカバトン必死の悪あがきを通じて、アンダーグ帝国の悪辣さとか、そこで人格を培った背景とかが滲んでくる回でもあったかな。

 ここら辺の重たさに反して、主役サイドはするーっと特訓に移行し、するーっと山の主に稽古付けてもらったり滝行したり雰囲気ある夜に女と女が語らったり、明暗の対比が凄かった。
 カバトンが追い込まれてるのは半分自業自得だし、やってきた事自体は最悪なので寄り添う必要も背負う理由もないわけだが、ソラさん達は子連れで三日間キャンプして、カレー食ってキャッキャして平和に暮らせているのに、豚は胃をキリキリさせながら生きるか死ぬかだもんな……。
 ましろさんが『特訓だ!』って言い出す流れがあんまりナチュラルで、その後もリスを師と仰ぐファンシーな展開がメチャクチャスルーっと流れていくので、『やっぱヒロプリもヘンなプリキュアだな……』と、今更身にしみた。
 ヘンなプリキュア大好き。

 

 気楽に平和に優しく生きられるプリキュアと、孤独で悪辣で救いなく苦しむカバトンの対比は、彼らが身を置く環境の差でもある。
 ここまでカバトン個人の悪徳として描かれてきたものが、弱者に価値を認めず稲妻でぶっ殺しにかかるアンダーグ帝国の社会性に由来すると、描かれた今回。
 『強い/役に立つ』だけを社会正義として、『弱い/役に立たない』ことを排除していく余裕のない社会は、成員の倫理を地に落とし、その孤独を深めていく。
 ここら辺、『実用面では最も役に立たないが、これを大事にしないと確実に未来が消える』象徴たる赤ん坊を、プリキュアたちが寿ぎつつ皆で育てているのとは、面白い対比である。

 『カバトンも社会の犠牲者だなぁ……』と、やや同情的にその最後の戦い(と、コミカルなその脱落と再起)を見守れるのは、死ぬほどヤバい悪行積み上げつつ、どっかに可愛げがあったその描き方が、強く影響している。
 主役サイドの眩いヒロイズムと真逆な、偏狭で痛ましいパワー至上主義をぶん回しつつ、同時にその奴隷でもある哀れみは今回、追い込まれて地金を晒す前にうまく滲まされていたし、同時に画面の真ん中に切り取ったらあまりに重すぎるそのシリアスさは、精妙に的確に遠ざけられていたとも思う。
 今後アンダーグ帝国の中核に切り込んでいくにつれ、無視できない重たさでそのアンチヒロイズムが描かれることもあるだろうけど、第1クールはカバトンのキャラクター性を活かし切る形で、上手く過剰なシリアスを抑え込んだ形だ。
 ノンキながらもヤバいくらい実効があった、プリキュア特訓合宿のフワフワ感は、カバトン個人の切羽詰まった重たさと、それを生み出す社会の害悪を、(多分、まだ)重たく描きすぎない工夫なのかと思った。

 

 ともすれば善と悪を明瞭に切り分け、交流をなくしてしまう描き方だけども、約束を裏切り自業自得で始末されていくカバトンに、スカイが理由なく手を差し伸べたことで、断絶に橋がかかってもいた。
 あそこで処刑をただ見守り、『カバトンはぶっ殺されるに足りるカスだった』と判断してしまうのなら、四人でキャッキャしながら強くなったプリキュア(を生み出し、プリキュアが体現する社会と理念)に仁愛はないわけで。
 キュアウィングのオリジンが保身なき救出だったのと合わせて、『強い/役に立つ』という理由で人の値段、命の価値を決めてしまうアンダーグの価値観と、ここは明確な対比だと思う。

 スカイを雷の真下に引きずり出した、理由なき衝動。
 それがどんなものなのか、思考と言葉で腑分けしていくのはまた先のことになるのだろうけども、真っ直ぐで幼い衝動に突き動かされた行動こそがまずそこにあって、共有可能な理念はその後を追いかけていく作りには、ヒロイズムを駆動させるに足りる熱があると思う。
 理由もなく言葉にはならず、しかし確かに自分を突き動かしていくもの。
 その不定形な力強さを、より善く人を結びつけ世界を広げていく価値に繋いで、皆で前進していく……というのが、ひろプリが描きたい愛と正義の形なんかなー。
 ここら辺の不定形で生来の衝動は、例えば支配欲とか暴力性に結びつく可能性もある無色の力なわけで、その内”敵”として無垢で純粋な力を他人を害する方向に使うキャラが出ると、結構面白い気もする。

 まだ幼いスカイはカバトンを悪に染め上げた社会のあり方も、悪なるものの真実の手触りも、正直よく分かっていないと思う。
 そういう人間が、弱さを弱さのまま生きることを許されない場所で、強くなるしかなかった男の人生へし折っておいて、『解ります……』と共感示すのは傲慢な嘘なので、イマイチ判ってないけども見過ごせないという、スカイの描き方は良かった。
 『ガキに何が解るんだ!』てのは全く正しい言い草で、しかし分からないまま触れ合わず終わっても、解らないないものを解るって嘘付いても、どっちも寂しい結果しかうまないだろうからな……。
 筆を大事なフェティッシュに選んでこの物語、自分を行動に導く言葉を見つけていくのも大きな柱だろうから、カバトンの自業自得に手を差し伸べた理由を、人に伝えれる(つまりは自分が理解する)ときも、いつか来るんだと思う。
 そうやって気持ちを言葉にして他人に解ってもらう/他人を解る歩みも、一歩一歩積み上げていけるのが一年シリーズの強みでもあるしね。

 

 強い弱いでしか自分も他人も測れないカバトンの価値観は、弱く生まれた自分を無価値と断じるアンダーグ帝国の判断を、個人レベルに写し取った結果なのだろう。
 つまり今回カバトンを救ったとしても、第ニ第三の(もしかしたらアイツより可愛げも救いもない)暴力支配主義者がニョキニョキ映えてきて、かわいいかわいいエルちゃんにちょっかい出してくる、ということだ。
 歪な苗床から芽生える悪種を断ち切るべく、”帝国”との闘いに今後物語がスケールアップしていくのかは、今後を見届けないとわからない。

 ここら辺のエスカレーションに関して、かなり意図的なブレーキを掛けて制御している感じが、1クール終わっても敵の顔が見えきらない(見せない)話運びからはする。
 ここら辺のペースコントロールは、キュアバタフライ爆誕のタイミングと合わせてかなり特殊で、なかなかに面白い。
 ”輝く正義 VS 巨大なる悪””って構図が全部見えるタイミングを後ろ倒しにして、空いたスペースでほんわか日常多めに描く作り……なのかなぁ?
 俺はひろプリの真顔でトボケて、すごい勢いで奇妙な絵面が爆走している日常コメディ好きなんで、この語り口は嬉しいかな。
 ツッコミ役が最年少ツバサくんに集中して、過負荷が凄いことにもなっとるが!

 なんてことない毎日が分厚いと、エルちゃんがボケーっとしたり虚空を見つめたり寝言呟いたりする描写も、たっぷり食えるしね……(エルちゃん定食食べに、ひろプリ見てるマン)
 毎日毎日愛しく変わりゆく赤ん坊の全てを、間近に見届けることができないご両親の無念を思うと、心の変な所がキリキリもするがな!
 ビデオ通話は画面の外側で、ちゃんとやってんだよなッ!

 あと登場時はギャグ以外の何物でもなかったスカイランド神拳を活かし、人生オールインしてやけっぱちの決戦に挑んだカバトンの”暴”を正しく跳ね除け、自分が弱い存在だとようやく認められる正しい敗北を届けれたの、妙な噛みごたえと味わいがあって良かった。
 『贈り物』もひろプリ結構大事な要素にしてるっぽいけど、全力絞り出した相手を根っこからへし折ることで、生き方を全部書き換えて新たに生まれ直す敗北こそが、解り会えないなりに手合わせしたカバトンへの『贈り物』なの、結構好きな描写だ。
 ほぼ独力我流で磨き上げた拳だが、その気になれば他人を殴り殺せる凶器を鞘に収め、抜くべき時に抜く判断力を自然と備えているのが武術家、ソラ・ハレワタールの一番凄い所なのかもしれん。

 ソラちゃんがめっちゃフィジカル強いの、鍛え上げた強者の特権を正しく使える武人の風格を主役に与えて、そうできない暴力の奴隷が敵に回る必然性も、しっかり高めてくれるしね。
 それにしたって強すぎやり過ぎではあるが、ソラちゃんの行動主義にその怪物的フィジカルが奇妙な説得力を与えてて、なかなかいい味に整ってきた感じもある。
 常識人にみえるましろさんが、時々脳髄のネジをぶっ飛ばして百合と暴力咲き乱れる危険領域に突っ込んでいくのと合わせて、1クール使って主役達が育った手応えがある回でした。
 あの人も相当ヘンだよなー……ヘンなプリキュアやっぱ好きだな。

 

 というわけでカバトンを”敵役”から下ろしつつ、物語全体を包む大きな構造を示唆する第1クール最終回でした。
 主役の正義を踏みにじりその輝きと強さを際立たせる悪辣も、暴力の奴隷に落ちつつ豚なりに確かに生きているのだと感じられる愛嬌も、絶妙なバランスで備えていたカバトン。
 彼がいてくれたから、第1クール目のひろプリを楽しく見れたのは間違いないです。
 正しい負けを思い知り、勝ち負けしかない地平からずりずりといい塩梅の高みへと、自分を引っ張り上げていく。
 街の端っこでおでん食いつつ、あの豚が優しさとか正しさとか、故郷じゃ散々否定されてきたものを学んで、最初から気高い主役には描けないサーガを積み上げてくれると、俺はとても嬉しい。
 そんな期待を抱えつつ、次回も大変楽しみです。
 エルちゃん来週はくっく買うの……そーう嬉しいねぇ……。

 

・追記 正しくあること、正しさを目指すことはツラのいい正義だけの特権ではあってはならない。悪しき道化の解りやすい化粧として選んだ醜が、真実へ歩む道を閉ざす障害になってしまってはいけないのだ。