過去と現在、嘘と本当……。
女と女の何もかんもが入り交じる、雑居ビルの白い聖域(Liebe)に、遂に咲き誇る一輪の花。
嘘が上手すぎる女と嘘がつけない女の思いが、一つの頂点に達するわたゆり第6話である。
いやー……ここに至るまで長かったね! こっからも長いよっ!!
つーわけで色々めんどくさいひねくれ人間どもが、虚実の境界線上で危ういダンスを続けるコンカフェ商売。
その綺羅びやかなステージを起爆剤として、演技でしかない本当をお互いの心に叩きつけて前に進む回である。
さんざん生産性のねぇ足踏みを続けた果ての精神的飛翔であり、待ってましたのカタルシスはある。
が、そこに到達する過程には色々凸凹した部分があり、しかしこの二人にとってはそういう通り一遍じゃないやり方こそ、彼女たちの唯一の答えでもあり。
色々素直に飲めない所含めて、このお話にしかたどり着けないクライマックスに、主役たちの感情がアツく炸裂したのはやっぱ良かった。
素直な呑み口が欲しい人は、結構早い段階で脱落してるだろうからな……もうジビエマニアしか残ってねぇよ多分。(外野から勝手に客層を推察する、最悪人間の寝言)
小学校時代の悪夢を再現するように、ネットであることないことコスられる乙女の聖域、リーベ女学園。
キラキラな夢売ってるくせに一皮剥けばネトネト生臭いのは、バックヤードやらゴミ捨て場やら雑居ビルのショボい空気やら、そのハラワタを隠すことなく書いてきた筆致からも明らかである。
生身のリアリティが際立たせるキレイな嘘を、コンテンツとして消費したい激ヤバ客層を相手取ってる仕事がどんだけ生臭いか、絵で伝える努力が結構あって、このアニメの美術はかなり好きだったりする。
んでそういう圧力に心を絞られて、ようやく陽芽の外面が剥げて中身が出てくる。
焼けぼっくいに火がつくとちびっ子美少女を至近距離で愛玩独占できなくなるので、即座にジャブいれてくる間宮がキモすぎて良いけども、その指摘は逆効果。
メリメリと『アイツのことが好きだったし、今でも友だちになりたい』という本音が、涙とともに溢れてくる。
お商売が限界化していくに従って、強がってた心もメキメキ軋んできて色んなものが隠せなくなり、真実の更に奥にある本当をお互いに叩きつけ合う状況になっていくのは、なんかこー……ハードコアな山岳ドキュメントみたいな味わいあるよな。
『過酷な環境でこそあらわになる人間の真実! それを横から窃視する気持ちよさ!』みたいなさ……。
ギリギリなんは美月も同じで、お互いの幼年期を派手にぶっ壊した正面衝突の奥にあった本音を、ポロリと叩きつけあってオラ! ”今”の只中に思い出を再演すんだよ! オメーらの未来は失われた夢の中にしかねーんだよ!!
美月は自分の本当を大事にするためなら、社会と上手くやってくための嘘投げ捨てて孤独になる道を選ぶ(それしか選べない)わりに、人格が脆くて衝撃に耐えられない。
耐えられないから、自分を傷つける嘘だらけの世界から距離を取って孤独でいる。
『世界の中にいる自分、他人の中にしかいない自分』に、苦痛に耐えてしがみつく気合があるのは嘘つきな陽芽の方なので、なんもかんも分からなくなってなお自分の真実へ突き進むトリガーは、怒り狂うちびっ子が引くのだ。
全ての憶測をふっとばす台本のないお芝居を、美月にキツく当たられ続けた陽芽の方がぶっ放すのは、ようやく明らかになったシンプルな答えの熱量と合わせて、濃い目のカタルシスがある。
きつい態度で嫌われようとするのは、間近にいれば愛と憎しみが裏腹に癒着した己の心、それに耐えられない脆さを思い知らされるからで、その潔癖な臆病さがかつて関係を壊した。
『んじゃあもう一度壊れて終わりかい!』となった時、美月は『わ、わかんないッピ……』と後ろに下がり、陽芽は泣きじゃくりながら前に出る。
この時、詰め寄る側と追い込まれる側は逆しまに切り替えされ、ここに感情の激発地が生まれるわけよ……。
この火花(スパーク)を見たくて、百合食ってる部分はあるな……。
女と女の本音大激突ショーが、露骨マリみてパロった”お芝居”としてゲストの前、演じられる。(リーベの胡散臭い百合芝居が描かれる時、『オメーラ”マリみて”見ろよ。全37巻読めよ。原祖であるが故に作品それ自体に向き合われなくなり、気づけばここでコスってる表層だけが本質なのだと飾り立てられ、しかし今垣間見えるガワの奥の熱いうねりは、全部そこに在るからよ……Rainy Blue……』という”念”を感じるのは、筆者の幻覚だろうか?)
それは他人に愛されるための外面だけを張り付けてきた陽芽が、ギリギリ語尾だけ荒くれない感じに整えて残りは100%の本当をぶつけることで、嘘の質を変化させた瞬間でもある。
胸の奥に渦巻く不定形の感情を、全力で不器用に叩きつける行為は、吉祥寺の雑居ビルを夢の楽園に置き換える”場”の魔力を借りて、八方丸く収まる綺麗なフィクションを形成していく。
このトリガーを引いたのが、本来お触り禁止な観客席からキャストに向かってワーワー意見ぶつけてきた、他者性コンテンツ消費怪人の一言なのが、ここでぶっ壊れ引直される虚実の境界線、そのライブ性を更に加速させてる印象。
『コンカフェって仕事、結局何が良いの?』という決定的な説明のないまま、その大トロ部分がぶっぱなされて、拗れに拗れた女たちの感情はようやく一つにまとまっていく。
あと営業に支障を来す、良くねー噂もぶっ飛んでいく。
『世間的な正しさかなぐり捨てて、自分たちなりのやり口で思いに素直に突っ走ると、世間様との接触点がガッチャンコハマり、個人の感情も収まりどころを見つける』というエモーション・ドリヴンな作り、俺は好きだよ。
ただただ、お前が好き。
この”好き”にかなり厄介なグラデーションがあることが、客がはけた後のイチャコラの中示されたりするけども、爆風で山火事をかき消すような荒療治こそが、嘘と本当の狭間で捻くれた二人には必要だし、それこそが唯一の必然だった。
客から見れば嬉しいハプニングで、演者からすれば想定外の暴走。
何しろ本音しか詰まってねぇんだから、迫真なのは当たり前だ。
同時にそれは(客にとっても、演者にとっても)制御不能ということで、仕事でやるにはあんまりにプライベートとビジネスの距離が近すぎ、嘘が現実を侵食し舞台をバックステージの事情が支配しすぎる、不安定な業態だ。
『その虚実ないまぜの不安定感が良いんでしょー!』と、作中明言してくれりゃこのヤバさも飲みやすいんだが、まぁそういう親切な補助線”お仕事”に引くアニメでもねぇ。
舞台装置と割り切るには、陽芽と美月の感情大爆発はリーベという”場”でしか成り立ってない。
それ自体は作品が選んだ舞台とドラマが噛み合ってるってことで良いんだけど、ならその危うさと裏腹の良さが明示されなさすぎる。
ここら辺は別に性格良くなるわけでなく、ガチャガチャに歪んだまんま自分たちの真実に(一応)たどり着いた二人と同じく、作品独特のエグみとコク……で良いんだろうか。
俺はもうジビエマニアの舌だから、客観的評価わっかんねー。
リーベが持つ”ほつれ”を今後どう扱っていくかは一旦横において、作品全体に漂う根本的なゆるさとヤバさが、携帯電話に伏せられた不発弾をひっくり返して話は続く。
嘘つき少女と生真面目女の凸凹が、激動を経てなんとかハマった裏側では、控えめガールが隠した牙をギャル先輩が発見してしまって、『それ見つけなきゃ話が転がっていかないとはいえ、コイツラの倫理どうなってんの!!?』とは言いたくなる。
店長が陽芽ちゃんを職場にハメた手口といい、時折治安がスラム街になる街、吉羊寺。
そこがこのDOKI☠DOKIガールズラブストーリーの舞台だっ!!
ようやっと失われた愛を取り戻してご満悦な陽芽ちゃんと、デカパイの使い道をちびっ子女に求めている美月の視野差も示しつつ、ねっとり生臭い物語はようやく折り返し。
八方美人に、不確定多数からの愛を嘘でかっぱぐ生き方から、『コイツだけ……っ!』という特別な熱こそ己の真実だと見定めれたのは、美月の不器用な生真面目さを自分の中に取り込んだ形で、陽芽の世界もちったぁ広くなったのだが、それはそれで新しい課題を生む、っつーね。
どうあがいても嘘つきな陽芽を、それでも愛するしかない自分にようやく向き合えたことで、美月の硬すぎる鎧も少し剥がれて、変化の兆しもあるわけだが……さてどうなっていくのか。
アンバランスに生きるしかない女たちのカルマが、誰かを求める愛ゆえに捻り狂い正されていくダイナミズムは、一つのピークを超えてさらに熱を帯びていく。
次回も楽しみですね!