イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第9話『【B小町】』感想

 恋を演じる本気の嘘が終わっても、まだまだ物語は続く!
 新生B小町の軌跡を追う、推しの子アニメ第9話である。
 何かと陰惨なアクアのお話からちょっと離れて、ルビーちゃんのアイドル成り上がり伝を明るく追っかける……てぇことは、ユニットの一人である有馬かなの魅力をゴリゴリ彫り込む回でもあり。
 複雑怪奇な純情、自己評価とは裏腹にあふれる可愛げ、おまけに気合い入りまくりのPVでとっておきのダメ押しッ!
 『お前らには、有馬かなをもっと好きになってもらう……』というある種の怨念すら感じる、気合の入った仕上がりでした。

 

 

画像は”【推しの子】”第9話から引用

 つーわけで新生B小町三人目の綺羅星、サバ読み上等の苦労人MEMちょが堂々参入! である。
 激動の”今ガチ”撮影現場で見せていた妙な落ち着き、面倒見の良さ、一歩引いた距離感のネタバラシが強火に炸裂する!
 20代にして人生セカンドキャリア、夢追い人の真実に仲間たちも涙涙の芸能コメディは、アクアを中心にしたときの薄暗い感じとは真逆で、なかなか面白い。
 星の双子のうち、赤い方をメインに据えると人生の陰影が全部ホワイト・アウトする様子が、後ろめたさに陰るMEMちょの手を誰が取って、その顔がどれだけ光に照らされているかで良く分かる。
 ルビーの未来はいつでも明るく、自分が染まっている色合いには縁遠いように。
 星の子が愛すべき苦労人の手を取る時、アクアは顔の見えない遠い位置に、眩しい青春舞台の観覧席に己を置く。
 復讐劇の汚れ役を一身に引き受け、相談もなしに暗い場所に沈んでいく人の微笑みが、一瞬だけ鮮明だ。

 かなちゃんの時もそうだけど、妹の夢に誘うメンバーはアクアが直接その目で確かめ、自分の言葉で引き込んでいる。
 母をぶっ殺された体験から人生背負ってもらうパートナー選びには慎重になってるし、本気で夢を追っている人間の熱量を、それを裏切っていく世知辛さを、見落とせない気質がアクアにある……つう話でもある。
 人生の激流に押し流され、家族を背負って厳しい道を走って、ようやくたどり着いたスタートライン。
 MEMちょの本気を無視できないからこそ、夢に通じる階段にアクアは彼女を誘った。
 人間としては大変優れた行動だけども、彼が選んでしまった復讐と並べるといかさまハンパで、そのハンパ加減をアクア自身、自覚はしているのだろう。

 誰もが夢を叶え、愛に満たされた幸せを掴んで良い。
 アクアはそういう輝きを心底信じている男で、しかしその具現たる彼の星は目の前で血みどろに落ちて、あってはいけないことが起きたツケを世界に払わせるべく、復讐に身を投げた。
 そのドス黒さが他人を……特に妹を汚さないようにクールで乾いた第二の人生を心がけつつ、かなちゃんやMEMちょやあかねにそうしたように、世界の犠牲になる少女たちを見過ごせない。
 その優しさが自分と他人をどこに連れて行くのか、転生者として俯瞰の立ち位置にあるようでいて、アクアは先の見えない一人称で謎多き物語を歩いている。
 背負った設定と復讐者という立ち位置は、感情と実感に溺れない第三者目線を要求するのに、いざ人生の土壇場になると目の前の物語に本気で入り込む、一人称視点の生き方をする。
 この視線のズレが星野アクアというキャラクター、彼を主役に置いたこの物語の面白さ……その一つかなと思ったりする。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第9話から引用

 そんなお兄ちゃんに溺愛されたルビーちゃんの、アイドル活動元気に発進! ……つう話なんだけども、カメラは有馬かなの複雑な感情を追いかけ続ける。
 かなちゃんも俯瞰と主観のバランスがグチャグチャなキャラで、子役時代の苦労で大人びつつも、アクアを慕う乙女心が健気に疼き、しかしひねくれた自分に愛される資格はないと距離を取って……しかし魂を潤す水(aqua)を求め続ける。
 極まったドルオタである他二人に比べ、”アイドル”との距離がある所含めて、ある種離人症的な感覚を持て余しているキャラクターといえる。
 ここの似た者同士感が、アクアとのもどかしい関係を上手く煽る燃料になってて、キャラの属性と配置上手いなー、と思ったりもするけど。

 仲間とのモチベーションギャップ、得手とはいえないダンスに悩むかなちゃんは、影の濃い場所に身を置く。
 そこは彼女が焦がれる男の領分でもあり、自分(aqua)の分身ともいえるペットボトルと一緒に、『避けられたら寂しい』という本音を預けてくる場所だ。
 濁りのない透明度、混ざりもののない純粋さがアクアの”素”なのかは判別が難しいけども、他人にも妹にも預けない気持ちを無防備に無意識に手渡されて、その特別に有馬かなは頬を赤らめる。
 アクアは夢に向かって頑張る人が前世の頃から好きなので、アイドル向いてない自分を自覚しつつも全力を尽くすかなちゃんを、応援したい気持ちに嘘はない。
 だから、混じりっけなしの純粋さをかなちゃんに手渡そうとする。

 そこにかなちゃんが欲しい甘い恋の味が混ざってね~っぽいのが、スケコマシ三太夫の残酷な所でもある。
 彼らは二人共大人びた客観と熱のある主観の狭間に立ってるけども、片や波あり風ありの役者人生を本気で突っ走る恋色乙女、片や自分の幸福を投げ捨てて復讐に突っ走る転生者で、見えてる世界が大きく違う。
 このギャップを埋めるのはアクアの秘密を告げる以外にないけど、それをバラしちまったら色んなモノが破綻するので、アクアはあらゆる人に嘘を抱えた”遠い人”として生きていくことになる。
 その癖、人生の乾きを潤してくれる透明な思いは惜しまず差し出してくるので、向き合う側としてはどう関係作ったものか……かなちゃんの情緒はもうメチャクチャだよ!
 この人間の魂に手ェ突っ込んでクッチャクチャにしてくる能力は、期待のカリスマだったアイ譲りな部分もあって、『歪な親子関係が受け継ぐものは、復讐ばかりではないなぁ……』って感じ。

 ワーキャー騒ぐ人垣の向こうに、自分には関係ないと言い聞かせて恋心を遠ざけ、でもその当人が自分の辛さに寄り添って、大事なものを手渡ししてくれる。
 それを素直に受け止められない自分にも、追いすがろうとしたら逃げていくアクアにも、かなちゃんのねじれた純情はなかなか追いつかない。
 そこがなぁ……本当に可愛いッ!
 出てくる女の子、み~んな超絶可愛く描いて視聴者をチャーミングでぶん殴ることで、主役を取り巻く複雑な状況と感情にシンクロさせてくる、超テクニカルな力技仕掛けてきてる感じあるなぁ……みんな好きになっちゃうよこんなの!

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第9話から引用

 プロデューサーの望みを叶え、”報酬”を受け取る大人の関係は、かなちゃんと過ごした廊下に満ちていた光のない、冷たいモノトーンで切り取られる。
 かなちゃんには差し出していた透明な水を隣に置かず、露悪に煽られる酒盃も寿司も口に運ばないアクアの、もう一つの顔。
 怜悧で打算的で、押しの墓穴掘り返してスキャンダルを食う屍食鬼……を演じてまで、真実の手がかりが欲しい復讐の鬼。
 その冷たさは、彼が共感し隣りにいてほしいと見込んだ人たちには、けして見てほしくない仮面なのだろう。
 それもまた、星野アクアの真実の一つだ。
 自分がかなちゃんに差し出したような潤いも信頼も、今となりに座る”汚い大人”に望んでいなくても、それを受け取らなくては彼の物語は、先に進んでいかないのだ。

 プロデューサーの口から語られるアイの真実は、『使える』と見込んで口づけした黒川あかねとも繋がっていて、過去と現在は奇妙なもつれ合いに絡まっていく。
 そこで恋に出会って、”アイドル”に目覚めた。
 恋愛禁止を金看板に、嘘を売る商売で成功した理由が”それ”なのは、なかなかおもしろい皮肉である。
 『有象無象が求める魅力的な嘘っぱちを作り上げて、芸能界で生き残るきっかけが、生身の人間がどうしようもなく押し流されていく強い感情、その発火にある』って構図は、今回描かれるアクアに恋してるかなちゃんにも通じている。
 冷たい計算だけで本当に他人を動かす嘘などつけるわけもなく、ワークショップのベールの向こう側でアイが出会った”なにか”が本物だからこそ、彼女は魅惑の星として覚醒を果たした。
 その輝きゆえに致死の刃も集めてしまった未来も、かなちゃんが演じ直すのかは……売れてみないと分かんねぇなッ!

 

 

画像は”【推しの子】”第9話から引用

 というわけで、有馬かなが売れなきゃいけない”理由(わけ)”を、お前らに体重乗せてぶっ刺すぜ!!
 自己評価低い面倒くささと、ドルオタの熱気に混じれない疎外感と、B小町のお姉さんによしよし慰められるホッコリ感と、無価値と自虐しつつ積み上げてきた努力の結晶をまとめてぶっ放し、迷わず夢中にさせちゃうぞ!!
 いやー……火力あったねぇPV……。
 ピエよん体操の長尺もそうだけど、視聴者を時間使った”体験”でぶん殴って納得させていく演出をこのアニメ怠けることがなくて、求められるモノをズドンとそのままお出しするリッチ感もあいまって、なかなか独特な歯応えよね。
 象徴性の高い画作りで色々想像させる場面と、そのものズバリでダイレクトに殴る場面の緩急が、良く効いてる印象。

 かなちゃんの自虐は頑張って報われなかった現実を、どうにか飲み込むためのオブラートなんだと思う。
 どんだけ結果が出なくても、諦めたくない夢が確かにあって、それでも真っ直ぐ生きていけるほどの才と幸運は自分にはなくて、それでもなお……。
 捻じくれたアンビバレントに浸りきれない、真っ直ぐな優しさと努力もたっぷりと見せて、いい具合の奥行きがキャラクターに刻み込まれている。
 幾重にも防壁を作って柔らかな自分を守ってるかなちゃんの、一番ピュアな部分をB小町の仲間たちが解ってあげてて、ルビーは無邪気な妹ポジションから、MEMちょは共感力高い姉ポジションから、それぞれ手を差し伸べてあげてる感じは大変良い。
 この『解ってもらえてる感じ』は、全部を嘘で塗り固めることで復讐という危険地帯から、愛する人を遠ざけようとしてるアクアの孤独と面白い対比で、似た者同士を隣り合わせることで、真逆の物語を背負う不思議が際立ってる印象。

 MEMちょとルビーはアイドル村の住人なので、いろんな奇習を当然のものと思っちゃってるけども、好きな男に人生巻き取られてアイドルになっちゃったかなちゃんは、そこから離れた客観で、自分の仕事を見れる。
 これが二人の熱に炙られて乾きを感じる理由なんだけど、同時にズブズブ”アイドル”に浸っちゃうと危ない所を、事前に察知して回避できる強みにもなりうる。
 加えて夢の芸能界にしがみつくために何でもやってきた結果、最強のオールラウンダーとして積み上げた実力まで証明して、ダメ押しにブツクサいいつつ現場には来てるツンデレ努力家の顔までバッチリ届ける。
 『……なれ……世界全部が、有馬かなを好きになぁれ!!!』という、制作スタッフの怨念がこもった描写、大変良かったです。
 かなちゃんのねじれたセルフイメージとは真逆の、白ワンピ系運命の少女をPVでは演じきれてるのが、何より彼女のアイドル力の証明になってるの、凄くいいよね。

 

 つーわけで、B小町躍進の原動力になるだろう、有馬かなの魅力をドンドコ掘り下げる回でした。
 三人揃ったB小町がどういう方向に進んでいくのか、その凸凹がどんな塩梅にハッピーなのかもしっかり描かれ、大変良かったです。
 MEMちょ姐さんの包容力が、ルビーのおとぼけとかなちゃんの面倒くささを上手くまとめてて、良いアンサンブルなんだよなー。
 輝く夢に共に進み出し、希望の未来にレディーゴー!
 B小町の明日は明るいぞ!

 ……ってのが強調されるほどに、アクアが自分を投げ込んでいる場所の暗さも際立つ。
 復讐者の冷たさを己に課しつつ、純粋なその生き様が誰かの潤いにもなってしまっている矛盾を抱えて、転生者は二度目の人生を突き進んでいく。
 華やかな闇と、どす黒い光が交錯する芸能界、新たな演目は一体なにか。
 次回も大変楽しみです。