イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アンデッドガール・マーダーファルス:第2話『吸血鬼』感想

 首だけ探偵と荷物持ちのおどけた半鬼、仏頂面のむっつりメイド。
 欧州に降り立った”鳥籠使い”一行は、怪物事件専門の探偵として勇名を馳せていた。
 珍妙愉快な三人組、次なる舞台は旧き血吸い鬼の蠢くフランス東部……という、アンデッドガール・マーダーファルス第2話である。

 下世話な極彩色と清廉な月光が同居する浅草を遠く離れ、鴉夜たちが本格的に事件に首を突っ込んでいくターンが始まった。
 出題編となる今回は19世紀末の貴族らしく、妙に抑圧的で何かに苛立った空気が画面に満ちて……それがポンと、おどけた津軽の登場で弾ける感じだ。
 闇夜の支配者から啓蒙の光に追い立てられた古い獣へ、立場を変えざるを得なかった怪物たちが”人類親和派”なるヌルい看板引っ提げて、下等種に生存を許容してもらう時代。
 怪物たちのコロッセオをギラついた目で見下していた日本とは、また違って同じように据えた空気が漂う場所で起きた、奇妙な殺人。
 ここに切り込む極東から来たアウトサイダー達は、剽軽で軽妙な掛け合いで被害者家族を煙に巻きつつ、あっという間に事件の真相に迫っていく。
 ベロ出し戯けたファルスの奥で、鳥籠探偵はいったい何を見つけ、どんな病巣をその舌鋒でえぐろうというのか。
 人外バトルの前駆として、なかなか不気味な蠢動を続けつつも、やはり津軽と鴉夜の人を食ったお喋り、そこにむっつり寄り添う静句のアンサンブルが大変良かった。

 

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第2話より引用


 名探偵登場までしっかりもったいぶって、いざ開陳となると覆い布がまるで花嫁のヴェールのように華やかに、美しく異形の首を飾る見せ方が、作品の強みを解っている感じで大変良かった。
 鴉夜は存在しているだけでスキャンダラスでコケティッシュな、擾乱の権化のようなキャラクターなのだけど、口を開くと大変上品な知性でズバズバ真実に迫り、落ち着いた諧謔で静かに世界を睥睨している。
 時折口にする首だけジョークも朗らかで、唯一使える頭が不鮮明な謎を切り裂き生き延びるに足りる、強い武器だと直ぐに分かる見せ方をしてくれている。
 探偵として秘された真実を暴き、一時の混乱をもってあるべき秩序を回復する存在が、ヴィジュアル段階で魅力的なカオスと穏やかなコスモスを両立させているのは、強い造形だよなーと再確認した。

 鴉夜が首だけなのはチャームポイントであり、体がないのは物理的になかなかの不便でもある。
 軽口地口を散りばめながら、鳥籠持ちの津軽が名探偵の指示にひょいひょい乗っかり、調査の手助けをしている様子も、軽快で大変良かった。
 足で稼ごうにも首から下がない鴉夜は、究極の安楽椅子探偵といえるわけだが、片手で持てるほどに身軽な体を活かして現場には頭を運び、自分の目で見て(見させてもらって)バシバシ真実に近づいていく。
 そんな探偵業の手助けを、戯けた仕草で的確にこなす津軽とのコンビネーション……その隣でむっつりおひい様LOVEを燃やしている静句の立ち姿が、一座がどんな風に事件に切り込んでいくかを、良く教えてくれた。

 おぞましく怪奇な事件の外装に一切怯まず、たっぷりの冗談で悲惨を相対化しつつ、自分は戯けた態度に飲まれず冷徹に真実を射抜く。
 積極的にファルスを演じればこそ、人死が出る事件がシリアスをブン回し世界を支配しようとする空気に、飲まれず対抗も出来る。
 吸血貴族の重たい空気をあえて読まない立ち回りは、探偵一味の対抗戦術でもあるのだろう。
 ここら辺、鴉夜たちがこの当時では物珍しい『欧州のアジア人』として、駆り立てられる異形の中でもさらに異物である状況と、面白く響き合ってる感じね。

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第2話より引用

 五個までしか言えなかった七つの指摘で、露骨に内部犯(おそらくは内部共犯)が示された今回の出題編、一見穏健派吸血鬼を襲った悲劇に見える事件には、微かなノイズが混じっている。
 銃を使うより素手でぶっ殺したほうが早く鹿狩り出来て、硬い鎖をリボンのように結わえて倉庫を封印し、蝋燭がかき消えようが闇夜を見通して全力疾走できる。
 どれだけ人間の皮を被っても、人外の異能は『ありふれて悲惨な殺人』の中にしっかり埋め込まれていて、静かな主張を差し込んでくる。
 異形=人でなしの図式が成立しないのは、首一個で堂々事件と渡り合っている鴉夜を見れば良く解るけども、しかし冷厳な現実として、吸血鬼が人間離れした能力を多数有している事実はそこにある。

 その上で、無飲血の宣誓を立て人間社会と穏やかに付き合おうとした吸血鬼が、なにゆえ事件を捏造したのか……という謎は残る。
 まばゆい叡智でもって中世の闇を駆逐し、銃弾と銀の杭で怪物をあらかた駆り立て、堂々ヨーロッパの覇者となった人間市民階級。
 自由と平等と博愛を礎に気づかれた、影のない世界で只人達が求める刺激をドブからかっさらう仕事……事件記者が作中しっかり書かれていることは、時代の空気を感じれて良かった。

 

 滅びゆく貴族制という、我々の歴史と重なり合う現実が”吸血鬼”という暴力的ファンタジーと出会って生まれる、この作品世界だけの奇妙な事件。
 個として卓越した能力を誇り、しかしそれではもはや王者として君臨できない平等なる現代において、平和を望んだはずのヴァンパイアは何に駆り立てられて、何を殺したのか。
 次回の真相開陳……その前にあるだろう異形バトルは、ただ古城の奇妙な殺人を暴き立てるだけでなく、これから”鳥籠使い”が闊歩していくヨーロッパの空気を、そこで生きる異形の顔を、よりハッキリさせてくれる気がする。
 ”第2話”で果たしておくべき物語の骨組みが、こうしてかなりカッチリしているのに、キャラクターの魅力と戯けた態度の面白さでもって、重苦しさを跳ね除けて軽やかな印象で話が踊っているのは、大変いい感じだ。
 これはファルスなんだから、お話のステップが重苦しくなってはまったく笑えない。

 あくまで軽やかに、何かを笑いつつ鋭い視線で真実を見つめ、その開陳もまたとびっきり華やかに。
 そういう作品の体捌きが、重苦しく何かを隠している吸血鬼一家を鏡にすることで、より際立ってくる第2話でした。
 大変良かったです。
 次回あるだろう解決編、どう画いてくるか楽しみですね!