イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

BanG Dream! It's MyGO!!!!!:第5話『逃げてない!』感想

 言葉のナイフが突き刺さりすれ違って、流れる赤い血が、いつか私たちの歌になるのなら。
 不器用に傷だらけ、青春迷子たちの茨道踏破ドキュメンタリーも第5話である。
 調子のいい外面で取り繕ってきた愛音の心臓に、立希が容赦なくぶっ込んだおかげで心の患部が切開され、そうして空いた入り口に震えながら頭を突っ込むことで、燈もまた一歩を踏み出した。
 ここまで四話、あまりに強く湿ったCRYCHICの引力に引っ張られてきた物語が、ようやくMyGO!!!!の物語として動き出した手応えが、確かにある第5話だった。
 同時に愛するほどに届かない立希の燈への思いとか、あくまで傷ついた過去の再生を願うそよの重力とか、生粋のイカレ女楽奈ちゃんのぶっ飛び加減とか、まとまってない部分はどんどん傷口を広げ、初ライブに向けて一体どこに転がっていくやら。
 一つの難儀に顔を向けて踏み出す一歩が、新しい厄介を生み出す凸凹バンド道は、折返しを前にしてどんどん波が高くなっております。
 これが物語を視聴者に食わせるための軽薄なスキャンダルではなく、それぞれ魂の形が違う人間が頭寄せ合ってバンドに為っていく中、本気になればこそ生まれる火花なのだとちゃんと解る、繊細で詩的な表現力も健在……というか、さらに冴えを増してきている。
 ゴロゴロ荒っぽいギスギスとバチバチが、不思議な透明度と詩情を保って足踏みしながらしっかり進んでいると思えるのは、やっぱ画面に何を映すべきか、良く考えて作ってるのがデカいよなー……。
 大変好みの手付きでありまして、全くありがたい限りです。

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第5話より引用

 というわけでも物語は、素性も良く知らねぇ野良犬が湿り気強いバンド再結成にいきなり首ツッコんできて、ギターかき鳴らしてパフェ食うところから始まる。
 楽奈ちゃんがちったあ話通じるところを見せて、バンドの一員としてのハマりどころを集団の中に示す展開かと思ったら、逆に全くケツの落ち着けどころがない現状が暴き出されて、めちゃくちゃ面白かった。
 俺はバンドリの初代アニメの頃から、このシリーズがパンクスのお話である所にビリビリ惹かれているので、問題だらけの女たちの中でも特にぶっ飛んでいる楽奈ちゃんは大変好きである。
 今後も地べたを這いずる青春ダンゴムシ共を尻目に、ロックンロールのロケットで勝手な高みをぶっ飛んでいって欲しい。

 そういう大暴れは集団の今を暴く鑑として良く機能していて、後に内心を吐露する愛音は本物のパンクスを相手に気圧され、調子のいい外面が引っ込みだす。
 冴え渡るギターテク、『おもしれー女』を求める眼光を叩きつけられると、愛音が肩をすくめ視線をそらしてしまうのは、外界とぶつかりまくる楽奈の個性と意思が、自分にはないと既に知っているからだ。
 お調子者の大言壮語、中見空っぽの看板主義。
 それに乗っかって燈に優しく声をかけ、自分が青春の真ん中に立てるバンドを作ろうと小狡く立ち回ってみても、愛音の思いの外鋭い視線は、それが本当の自分ではないことを見抜いている。
 でもその弱さや小ささに向き合い、がっぷり組み合って新たな自分を作っていくガッツもないので、低くて安い方に流れた。
 楽奈の飾りがない……なさすぎるロックンロール魂は、そんな愛音の現状を無言で暴き立てる強さをもってて、居心地は大変悪いのだろう。

 そういう愛音の不安定とはまた別の場所で、長崎そよはまーた指先に落ち着かない心を溜め込む。
 自分が望んでいない方向に運命や他人が動き出すと、途端にこの仕草が出るのがそよの弱さであり、人間味であり、僕は愛しさでもあると思っている。
 微笑みながら他人を便利に使って、自分の欲しい物を闇の中眩しく握りしめて、誰にも思いを告げぬまま状況を支配しようとする女王様で通すには、そよの魂はあまりに柔らかく震えすぎる。
 愛音の薄っぺらい表面を見抜いて、それを便利に使って得ようとしている思い出は、切り裂けば血が吹き出すほどに本当に、彼女の心の奥に突き刺さっているのだろう。

 それはあくまで自分が求めている未来(あるいは再生された過去)でしかなくて、例えば燈が本当はライブをしたいのかしたくないのかとか、愛音がなにゆえピカピカな包装紙で自分を包みたいのかとか、他人の思いなんぞ知ったこっちゃない。
 でもそれが長崎そよの全部ではなくて、CRYCHICにいて心から笑って泣いた思い出とか、そこに繋がる人たちへの愛しさとか、メチャクチャ純度の高い気持ちもまた、彼女の中にある。
 相反しつつ繋がっているエゴと愛を、どう扱って良いものかわからないからこそ、彼女は急に降って湧いたロックンロール爆弾を微笑んで処理しつつ、指先に当惑を写す。
 いやまぁ、そよじゃなくても間違いなく当惑するけどさぁ楽奈ちゃんは……。
 なに初対面の他人の金で、抹茶パフェ完食してんだテメーッ!!(『お前のようなパンクスを求めていた……』という意味合いの、バンドリスラング

 

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第5話より引用

 っても楽奈ちゃんのロック爆弾はあんま余波が広がらず、感情の爆心地は今のところすれ違い続ける四角形に収まっている。
 縁もゆかりもなく、なんか流れでテキトーに表面だけ繕って動き出してしまった愛音との関係が、思いの外燈の深いところで燃えてきているのに対し、一応CRYCHICという過去を共有しているはずの立希に対して、燈の噛み合いは悪い。
 というか、この引っ掛かりの悪さが燈のデフォルトであり、第3話で濃厚にモノローグされた生きづらさの源泉でもあるのだろう。
 そこを意図してか偶然か、突破して欲しい所に手を伸ばしてくれた愛音や祥子は燈にとってすごく特別な存在で、上手く行かない自覚がありつつも訥々と、どうにか力になりたいと前のめりになるだけの引力を感じている。

 そして現状、立希にはそれがないように見える。
 燈が祥子や愛音に感じている特別な音が、自分を揺るがしたから今ここに立っているのだと歩道橋の上で告白しても、それは燈の心を震わせない。
 一方通行で不均衡な、誰かが誰かを特別に思う気持ち。
 それが愛であるというだけでは何も解決してくれない、なんとも残酷な現実に放り投げられた迷子たちを観測するこのアニメ、立希ちゃんの狂犬っぷりが加速するほどに、客観的に見れば大嵐ビュービュー吹き荒れてるのに涼しい他人顔を保つ燈の、解ってなさも良くわかる。
 ここの残酷さは、お互いの弱さと強さをさらけ出しあい、ペンギン泳ぐ水族館でバンドマンとしての洗礼を果たした燈と愛音の、青春固結びで頂点に達するわけだが……さて、他人の気持ちを感じ取るセンサーも、そうして受け取ったものを表すスピーカーも、ガタピシ故障気味な燈は、強すぎる立希ちゃんの気持ちに報いる自分を掴まえられるのか。
 愛音との関係が深まっていくのはマジで待ってましたなんだが、そうするほどにアンバランスな未接続が際立ちもして、『地雷一個どけたらもう一個出てきた!』みたいな、コクのある展開がたまらない。

 

 ……んでだねぇ、この段階の愛音はマジで色々ナメきっていて、同時に結果だけを軽薄に求める効率主義は時代のトレンドでもあって、サクッとチャッチャッとバンドでGO! な足取りの軽さは、結構普遍的な重さもあるなと思った。
 どっしり腰を落としてロック三昧、寝ても覚めても音楽まみれ。
 そんな一心不乱は時代遅れで、賢く手早く立ち回って結果を出さなければ、秒刻みのスケジュールで動く現代社会にはついて行けない。
 ついていけなかった自分を強く自覚し、今度こそは間違えないと思いこめばこそ、愛音はトレンドに敏感に、流行りの速度に自分が追いつけるように、軽く軽く振る舞おうとするのだろう。
 それが他人の魂や誠実さを踏みつけにする、卑しく危うい足取りだってのを立希ちゃんが(僕が見るだに正しく優しく)指摘するわけだが、愛音だって心底軽薄なクソカスってわけではない。
 ペンギン絆創膏も受け取ってくれたし、あの時燈が一番欲しかった未来への希望、再生への決意を言葉にだってしてくれた。
 誰かの心を思わず震わせれるくらいに、魂の地金が強い女でもあるのだ。

 でもその優しさに愛音自身は無自覚で、色んな人の気持ちを便利に使って自分だけ良い思いしようとする不誠実に、自分を追い込んでしまっている。
 立希ちゃんのキツい一言は、これ以上愛音が良くない流行りに見を浸すのを止める、予防措置的意味合いを(これも多分無自覚に)果たしている。
 でもそうやって止めてもらうまで、『これが流行っていて、これが正しいんだから、私は他人をアクセサリーにして輝かなきゃいけないんだ』という、人間ナメた態度は改まらない。
 燈は愛音がさらけ出してくれた弱さに向き合おうと、喉奥につっかえて出てこない言葉をなんとか引っ張り出して、”らしくない”高松燈であろうと頑張る。
 その奮闘が新しい、多分ずっと燈が望んでいた新しい”らしさ”を彼女に連れてくるんだけども、ここで新曲をお気楽に頼んで拒まれる愛音は、誤って学んだ”らしさ”を正せていない。
 辛い過去があって、これから自分はどうなりたいのか。
 願いが不鮮明なままいても立ってもいられず走り回るから、みんな迷子になるのだ。

 

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第5話より引用

 ライブをするのか、しないのか……つまりは、したいのか、したくないのか。
 気持ちを表に出せぬままバラバラになったCRYCHICの間違いを、二度繰り返さないために自分がかすがいになって仲間を繋ごうとするそよの振る舞いは、その奥に打算と渇望があるにしても、大きな価値がある。
 でもそういう客観的な”善さ”では繋ぎ止めきれない場所に燈は立っていて、感情でも理性でも多分解り切っていない、誰かに求められ誰かと繋がる難しさと意味を、受け止め残ってするりと、そよの手を跳ね除けていく。
 傍から見てりゃそよの言い草と立ち回りは全く正しくて、言うべきを素直に告げて行くべき場所にみんなで進んでいくべきなんだが、燈の歪んだ鍵穴にはその正しさがぶっ刺さらない。
 刺さるのは自分の歪さを歪なまま受け止めてくれる特別な女で、そよも立希も(まだ……だと僕は思いたい)そうではない。

 後に愛音の手を握りしめる強さを思うと、そよの真心が掌と一緒にすり抜けた絵面は、いかにも痛ましい。
 繋がっていないのは立希とそよも同じで、音楽をやって思いを伝えるよりみんなでいたいそよは、ライブをやらないままスタジオでのたくり続ける、湿って閉じた未来に結構前向きだ。
 だが、立希はライブがしたい。
 自分が心を揺さぶられた燈の才能を世間に見せつけたいし、その一部として自分の音を奏でてもいたいのだ。
 深い闇と濃い光が錯綜する屋上で、『やらない』選択肢が上るたびに少女たちが影に食われ、『やる』選択肢が言葉になると光が彼女たちを照らすのは、彼女たちの内面を見事に表現する以上に、作品全体の行く末を上手く示しているように思う。
 このお話がバンドリである以上、彼女たちはより広い場所で、誰かの前で音楽をやるのだ。
 ライブをするのだ。

 それだけが少女たちを光の方へと推し進めるけど、燈は『ライブをやると、バンドが終わる』という呪いに囚われてしまっていて、一人で立ち止まってしまっている。
 かつて星の花を追いかけて落ちかけた時、全霊で抱きとめてくれた祥子はここにはいなくて、同じくらい燈を思っている二人の手のひらは跳ね除けられて、立希が決意を込めて光の中『もう、孤独にはしない』と宣言した直後に、路面電車にも乗れないまま迷子な想い人が、残酷にカットインもする。
 光はステージの上にしかないけど、バラバラなMyGO!!!!!未満はそれぞれの影に縛られて、誰かの手も取れず自分の足も進められず、それでも誰かを強く愛している。
 気持ちって上手く行かない様子と、それでもその不器用の奥に燃え盛っている思いに嘘がない美しさが、このあたりから一気に美麗で詩的な色を背負いだす。

 

 

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第5話より引用

 お前がライブやりたくないのは逃げてるだけ、燈を思ってるフリして利用しているだけ。
 立希の鋭い眼光は愛音の外面を正確に射抜き、真実の重さに耐えきれなく為った愛音は立希に指摘されたとおり、全力で逃げる。
 ここで駆け出して愛音を迷わず追う積極性や熱量は、CRYCHIC時代を知るそよ達にとっては凄く”らしく”なくて、自分たちが知らない燈ちゃんだったから、その追走に置いてけぼりにされてしまった感じもある。
 そういう”らしくなさ”を思わず引き出すくらい、CRYCHICに縁もゆかりもねぇ軽薄な逃げ癖エゴイストは燈の特別になっていて、そうやって疾走していく”今”の速度に、そよも立希もおいけてぼりを食らっている感じがある。
 でもそれは、思わずしがみついてしまうくらいCRYCHICが大好きな思い出だからで、それは『ライブ=終わり』に呪われていた燈にこそ、強く重たい楔だったはずだ。
 そして心を切り裂かれた愛音の苦しさは、それを引きちぎらせるくらいに燈に響く。

 逃げ出した先で再開してしまった過去に追い詰められ、外面を保てずうずくまった愛音に、燈は必死に追いついて、その手を握る。
 そよが差し出した掌がどうすり抜けたかを思い出すと、燈が結局求めているのは新しいメンバーでライブをやる未来なのだと解ってもくるが、ともあれ足踏みするより駆け出す方を燈は選ぶ。
 ぐだぐだ足踏みするよりも、もっとロックンロールな道に踏み出すのだ。
 そうして二人が行き着いた先が、天と海が不可思議な色で入り交じる、とてもエモーショナルでロマンティックな場所なのが、マジで良い。
 こういう美しい場所に、思考を置き去りに衝動で突っ走るロックンロールな青春は、迷った先必ずたどり着く。
 このアニメは、そういうアニメなのだ。

 この美しさと、崩れかけた自分に差し出された掌の暖かさに支えられて、愛音はずっと隠してしかし隠しきれず、チラチラと見え隠れしてきた過去の傷を……己の弱さと挫折を語り始める。

 

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第5話より引用

 喉から飛び出す言葉をうまく使えないからこそ、ノートに書き連ねた不器用な詩に血を込めている燈は、ようやく愛音がさらけ出してくれた挫折に直面して、もつれる線をどうにか相手に伝えようと、アンケート用紙の裏に必死に思いを書き連ねる。
 その無様な線は、あんなに燈や”みんな”を観ているように思えるそよが一回視界に入れて、意味不明な雑音だと視界を外した……燈もその意味をそよにわかってもらおうと、必死に差し出したりはしなかった、魂の暗号だ。
 留学先でもピカピカな自分を保つべく、必死に拙く準備してきたメモが、踏み出した現実の前では何の意味もないゴミになってしまって、愛音は哀しく期待を握りつぶす。
 燈が差し出したぐにゃぐにゃの線と言葉を、愛音がその両腕でしっかり掴めたのは、あの時もつれてしまった希望の命綱が、今目の前に垂れ下がっていることを……それが自分の外面を整えるアクセサリーではなく、人間一人が魂の奥から絞り出している本当なのだと、ようやく見つめれたからだろう。
 あの時祥子が自分の名前を告げるより先に、燈の思いを受け止め紡いでくれた歌を、それより全然不器用で無様ながら必死に、燈も差し出せる側へと踏み出した、そんな瞬間でもある。

 そこに書き連ねられている言葉は、愛音が晒した痛みへの処方箋であると同時に、ライブをやるのかやらのか、永遠の幻に囚われて足踏みするか、湧き上がる衝動に身を任せて未来に飛び込むか、迷い悩んでいる燈自身への、導きでもあるのだろう。
 そうやって誰かに差し出した歌が、自分自身の輪郭をよりはっきりさせたり、夢の行く先を照らしたりすることはたくさんあって、とても大事だ。
 祥子に抱きとめられたあの時、確かにその律動を感じ取ったからこそ、燈もCRYCHICに呪われている。
 でもそれは一回限りの奇跡ではなく、決意を込めて踏み出し手を伸ばせばもう一度、傷だらけながら掴めるはずの未来であるはずだ。
 あって欲しいから燈は、自分に優しくしてくれた愛音のために、”らしく”なく駆け出してその手を取り、私とあなたのための歌を書き殴って手渡した。
 そして愛音はそれを両の手で、立希の尖すぎる指摘で切開され、重荷を打ち明けて開けた心で、ちゃんと受けたのだ。

 

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第5話より引用

 それがぐしゃぐしゃに握り潰した過去たちのかわりになるかは、これから進んでいく歩み次第だ。
 ライブをやりたい。
 その決意をお互いに抱きしめて未来に進む愛音と燈が、待ちぼうけの二人を分断する鮮烈な構図は、CRYCHICに繋がれたまんまのそよと立希に、ダメになったからこそ今ここから新たに始め直す決意が、まだ共有されていない現状も良く示す。
 つーかあんだけすれ違いと置いてけぼりを食らい、それでも帰ってくると信じて待ってたら、どう考えてもぶっとすぎる絆で両の手繋いで戻ってこられて、立希ちゃんの脳髄は破壊寸前だよッ!!
 燈→愛音の一方通行が釣り合いを取ったと思ったら、そうして生まれた絆が立希→燈のすれ違いを加速させていく予感ビシバシで、CRYCHICの湿り気が晴れてきたと思ったら、現在進行系の爆弾が顔出してきやがったぜ……。
 でもま、その波乱万丈こそがバンドリらしいドラマチックでもあろうし、ここまで来ちまったら嵐のど真ん中、行く所まで行くしかねーッ!
 この勢い任せの傷だらけが、なんとも青春なんともロックンロールで、すんごくいい感じだ。

 燈が自分のトーテムとして、過剰な愛情を注いでいるペンギンは空を飛べない。
 その代わり滑らかに水を泳いで、愛くるしくもたくましい姿で未来へと突き進んでいく。
 愛音が吐露した過去の傷、終わっている今の自分を受け取って、迷い子のまま一緒に歩こうと血の滲んだ詩を差し出して、そこに二人が明日を見出した時、ペンギンはとても自由に、水の中を舞っている。
 愛音が嘘っぱちの充実で守ってきた傷を暴き、誰かを道具にして逃げ隠れしてきた生き方から進み出す時に、彼女は水槽の方を向くのだ。
 そうやって美しく、可愛らしく、力強く、そして自由に進んでいける未来は、ただの象徴であり予言でしかない。
 不器用で飛べない鳥たちが、それでも何かであるために突き進む迷い道は、山あり谷あり擦り傷だらけ、耐え難い獣道かもしれない。
 それでも、睦み合いながら楽しそうに水を飛ぶ鳥のように、二人が親しげにバンドをやっていく未来を、確かにこのアニメは示している。

 重苦しい嘘や断絶に向けている鋭い視線は、同時にとても明るく眩しいものにも開けていて、でもそれはただ流されているだけでは手にはいらない。
 鋭い言葉に暴かれた真実に震え、崩れ落ちそうになった体を支えてもらって、弱くて惨めな迷子の今を真っ直ぐ見つめた上で、光の方へと進み出す。
 そういう場所に愛音が、身勝手な鎧をはずしてようやく向き合えたこと……音楽をやるのだと、作品のど真ん中に腰を据えて向き合い出したのが、とても良かったです。
 祥子に抱きしめてもらった思い出に、傷つけられながらも支えられて生きてきた燈が、使い所を探してきた優しさと強さをようやく、誰かにもう一度差し出し受け取ってもらえたのも。
 一つの旅が終わり、音楽は続く。
 次回も楽しみです。