イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け! ユーフォニアム3:第5話『ふたりでトワイライト』感想

 黄金の光と消えない影を共に宿して、ふたり黄昏を行く。
 毎度おなじみあがた祭り回……というには、湿った薄暗さが静かにこちら側に迫ってくる、奇妙な緊張感のあるユーフォ三期第5話である。

 前回求くんの抱えた課題を乗り越え、いよいよコンクールに向けて本格始動! ……と、勢いだけで突っ走るには、三年生になってしまった久美子周辺の空気は重たくて。
 部長として頼もしく吹奏部内の問題を乗り越えていても、簡単には決めれず進めない”進路”の重さを画面に乗っけて、ジリジリ重たいエピソードとなった。

 もう一方の端に、久美子(≒滝昇によって全国レベルまで引き上げられた北宇治吹奏楽部≒この物語それ自体)が信じる『一丸となって本気で挑む全国』に、馴染まぬ制服のまま異を唱える真由もいて、『実力があるエンジョイ勢』という極めて厄介な存在の引力が、何かを歪めている手応えも感じられた。
 ”歪めている”というのも久美子に寄り過ぎた視線で、楽しさを最優先にする真由の在り方も否定されるべき間違いなどではなく、しかし久美子にとっては消し去りたい過去の自分を突きつけられているような苦さもあり、正面衝突できるような激しさもなく、ブスブスと火種だけが静かにくすぶりながら、高校最後の夏が始まっていく。
 素敵な思い出をフィルムカメラに切り取る特権は、すなわち真由自身は思い出にならないという離人感を生み出し、北宇治イズムに馴染まぬ異物が今後何かを引き起こす予感を、美しい情景の中に濃く宿していた。

 しかし重たいだけではなく、どこか歯車が噛み合わない居心地の悪さと同居する、弾むような眩しさと落ち着いた美しさもしっかりと描かれていて、今久美子と麗奈がいる季節の空気が、しっとり豊かに伝わってきた。
 やはり音楽と少女が混ざり合いながら繋がり、繋がりきれない違和感すらも愛しく抱きしめられるような、透明で眩しい時代を満たしている空気の描き方こそがこのアニメの真骨頂であり、いつものパターンを少しズラした逍遥の果てに、いつも通りの明るさに戻っていく二人の夜景は、大変に美しかった。
 数多の特別が積み重なりつつ、しかしそれだけでは最高のフィナーレにはたどり着けない、不思議な旅路。
 その中間点がどんな色合いなのかを、丁寧に教えてくれる回だったと思う。

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 物語の始まりと終わりが繋がった構造は、その中間に挟み込まれた挿話が生み出した変化を可視化し、お話の輪郭を鮮明に浮かび上がらせてくれる。
 今回で言うなら金魚の水槽は最初、石も水草もない殺風景として黄前家に乱入し、進路やら友達関係やらに難しい顔で思い悩んだ日々を経て、彩りと新しい仲間を加えて物語の末尾を飾る。
 ここに何を見出すかはなかなか複雑な暗号であるが、明確な進路を決められていないのに、久美子が三度目のあがた祭りで何かを手に入れられた証として、水草や三匹目の金魚といった生命がそこにあるのは、とてもポジティブな象徴に僕には思えた。

 ”三”もなかなかに難しい暗号で、第2話サブタイトル『さんかくシンコペーション』を……あそこで描かれた複数の三角形を思い出せば、いろいろな意味をそこに付与することも出来るだろう。
 誰が選ばれるのかわからない、三人のユーフォ奏者……あるいは今回繋がりを再確認した久美子-麗奈ラインに対置される、滝イズムに染まらない浮遊点としての真由。
 そこら辺を投げかけて水槽を見ることは出来るが、そこに真実何があったかはこの後の物語……アニメがどんな映像で何を描くか次第であろうなとも思う。
 未来も結末も、何もかもが不確かで不鮮明である久美子の現在地を描くにあたって、読みきれない不思議さを水槽の暗号に込めて終わったこのエピソードは、自分としてはなんだかすごく”丁度いい”不穏さと透明度だと感じられた。

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 今回は黄前部長がその頼もしさで解決するべき青春事件が起こるわけでもなく、オーディションやコンクールに結果を問うわけでもなく、全体的に宙ぶらりんな雰囲気が漂うエピソードだ。
 そこには何かがハマりきらない不安定さが満ちていて、同じ場所に立っているのに同じ方向を見ない人たちの、視線が感じられない後頭部がやや引いたアングルから切り取られる。
 心を一つに、迷いなく同じ夢を追いかける。
 そんなキラキラな夢を追いかけつつ、ネトネトした感情の回り道を多数描き、その面倒くささとややこしさこそが人間には大事なのだと、描き語ってきた作品の最終作は、今まで以上に重たくややこしく絡んだものを、解きほぐしたり断ち切ったり繋ぎ直したりするのだと、ビシッと決まった絵それ自体が語っているようである。

 去年以上の結果を出すべく、入れ替え制オーディションを提案した幹部会も、部員の自主性を尊重してそれを受け入れた滝先生も、”部長”の声を作って100人の仲間にそれを告げる久美子も、眩しい青春をカメラ越しに切り取る真由も、約束されないソリの重なり合いを隣り合って奏じる二人も。
 その在り方を接しする僕らと、視線を交わして『ここで描かれているものは間違いじゃないです!』と言ってはくれない。
 見えないからこそ読み切れず、読みきれないからこそ面白い複雑な暗号が今の北宇治には満ちていて、完全実力制の複数オーディションも、それが生む不和を疎む真由の存在も、どんな炸裂を生み出すのかはあくまで予感でしかない。
 しかし譜面に刻まれた未解決和音が必ずいつか鳴り響くように、このアニメに埋め込まれた不穏さも必ず結実し炸裂はするはずで、それがいつ、どのような形になるのかは、こちらを向かない視線の向こう側に隠されて不穏だ。
 この見えなさが、作中黄前部長たちが『頼れる先輩』の外面を作りながら思い悩む煩悶と重なり、彼女たちが吸い込んでいる空気の苦さと甘さを、僕らに教えてくれる。
 意思ある演出を徹底することで、作中のリアリティをきめ細かく編み上げ、説明するのではなく体験させる手法は、三度目のTVシリーズにして更に冴えているように思う。

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 進路と部活動、久美子を悩ませる現在と未来の課題は、未だ進路調査票やホワイトボードの中の不確かな文字に過ぎず、実感や確信……それに伴う痛みや苦しみはまだ、訪れてはくれない。
 不確かだから悩ましいのか、迷っているから見えきらないのか。
 そんな因果関係すら不鮮明なジレンマの中で、しかし部長という立場、全国金という目標は久美子に立ち止まる時間をあまり与えてはくれず、彼女は自分の立場を危うくするかもしれない複数オーディション制を、声と顔を作って部員たちに伝える。
 この強がりを奏が健気に読み取って、今欲しい質問をいいタイミングで投げかけることで部員の動揺を減らそうと頑張ってくれているの、”誓いのフィナーレ”を通じてどんだけ奏が北宇治と久美子好きになったのか、その愛着をテコに自分の置き場所を変えたのか、感じられて良かった。
 敏い彼女は久美子の置かれている難しさをしっかり解っていて、戯けるような態度の中にどうにか、黄前先輩を助けられないか色々考え、巧いこと部活が回るよう考えて、言葉を投げている。
 それは彼女も、部の空気を読んで己を曲げる生き方より、本気でぶつかって本気で苦しんで本気で高みを目指す、北宇治イズムこそが己の在り方だと、一年間の物語を通じて受け入れたからこそだ。

 しかし黒い制服に身を包んだ転入生は、必ず傷つくものが出てくる実力主義のガチンコにおずおず手を上げて、小さく意義を申し立てる。
 たかだか部活、他人を押しのけてやるもんじゃない。
 三年前、ガチ勢追い出して部を崩壊に導いた安楽な姿勢がもう一度顔を見せたようでいて、言ってる本人は全国目指す部内でも有数の実力者だ。
 真由は黒い服を来た異物でしかない自分、鳶茶の群れに混じれない己を敏感に察知して、北宇治の歴史を尊重した上で身を引こうとしているわけだが、その決断は今の久美子には馴染めない。
 受け入れられないし、認められない。
 だけども感情むき出しのクソガキでは務まらない、部長という立場を背負ってしまっている以上……あるいは数多の触れ合いの中で、穏やかな外側を維持する努力が生み出せるものの意味を学び取った以上、バチバチぶつかるわけにもいかない。

 遠慮とも配慮とも違う、穏やかな微笑みの奥で黒い蛇が渦を巻いているような、煮えきらない距離感。
 ソリストの椅子を奪い合う、曖昧な表情で向き合ってはいられない厳しさから外れたところで向き合おうと、譜面台から外れた光の中に身をおいてなお、久美子は真由とあがた祭りに行く未来を拒んで、隣には並び立てない。
 二人のこんがらがった距離感が、本当の所ガチでぶつかってどうにかしなきゃいけない作品の主題……”演奏”の話をする時、まばゆい光ではなく薄暗い影が舞台になるのと、そこから逃げるように可愛らしく、転校生が地元の話を切り出し久美子が光の側に逃げるのが、このアニメらしい意地悪な表現だと思った。
 その薄暗さの中にしかどうせ答えはないのだが、しかし直面するには影の中に潜んでいる怪物はあまりに恐ろしく、進路にも部の方針にも悩んでいる今の久美子には、これと直面する態勢ができていない。
 この曖昧さを反射するように、空は複雑な美しさを宿した曇りの色合いだ。
 良い空だなぁ……。

 

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 

 このあやふやな曇り空は、浮気なソリ合わせを咎めるように麗奈が近寄ってきて、二人きりの特別を切り出した時に眩しく輝き出す。
 仲間たちが皆向かう、かつて自分たちもそこに身を置いたあがた祭りの喧騒に背を向けて、二人は麗奈の家へと向かう。
 それはより親密に距離を近づけたい麗奈なりの、不器用でセクシーな三年目の誘惑であり、音で繋がった特別な二人は不確かな未来を約束するように、美しい音楽を重ねていく。
 この”2”に混じりきれない寂しさを抱えて、真由はファインダー越しの客体に燃え上がる火の粉を追いかけているのかなと、また暗号を読みたくもなるが……ここら辺は魅力的な不鮮明のまま、暴かれるときを待ったほうが良い気もする。

 部長とドラムメジャー、部を牽引する二大巨頭がその看板を外して、三年間あまりにも密接で湿度の強い友情を育んできた親友として、二人きり向き合える特別な場所。
 そこから流れ出す音楽が、様々な人が青春のまばゆさを輝かせる祭りのBGMになるのが、僕は優しくて好きだ。
 このお話はこの二人を中心に回転する吹奏楽の銀河だが、他の綺羅星がなければブラスバンドの音楽は生まれないし、祭りの日々に浮かれる少年少女たち全てに、久美子たちに並び立つ想いと物語がある。

 その一つとして前回、月永求の物語に深く深く、美しく切り込んだ結果、彼がどう変わったのか、その視線の先に何を見ているかをしっかり追いかけてくれているのも、凄く嬉しくありがたかった。
 緑輝と久美子が求くんの喪失と祈りに、先輩として人間として真摯に向き合ったからこそ、友達とお祭りに行く月永求が形になって、物言わぬ視線の先でそうさせてくれた誰かを、求くんは追いかけている。
 それはこれから先、北宇治吹奏楽部がガタガタ軋みながらも激しく熱く、一つの音になるまで必死に吹く未来へと、続いている描写だ。
 こうして心を開いたことで変わっていくだろう求のコントラバスが、大きな力となって切り開く場所は、部全員の力がなければたどり着けない夢であり、そこには一つの願い、一つの祈りがある……はずだ。
 だがどうしようもなくバラバラな人間でしかない久美子たちは、無条件にそのまとまりを得れるわけではなく、進んでは戻り繋いでは離れて、心を確かめ合いながらの長い旅路を、まだまだ進んでいくことになる。

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第5話より引用

 ”京アニ”を原液で吸っているような、美しい紫のグラデーションと光の表現を堪能しつつ、どこか噛み合わなかった久美子と麗奈の旅路は、美しい落着へと至る。
 しつこく『音大いかないの!?』と圧かけてきたのは、離れていってしまう怖さと寂しさに突き動かされていたから。
 鬼のドラムメジャー、無敵のクール美少女みたいな顔になれたかと思いきや、プルプル繊細な心は相変わらずな高坂麗奈があまりにチャーミングであり、久美子と一緒に笑ってしまった。
 最初横並びに歩いている時、顔が見えない時には瞬いていなかった星が、二人の未来を約束する時には夜空に鮮明なのが、めっちゃ京アニ詩学で良い。
 みどりなす黒髪に反射する夜天光の美しさ、なかなか見せなかった本音を曝け出す時の麗しい仕草。
 どこをとっても最高だぁ……う、美しすぎる……。

 色々迷っていた久美子は、麗奈の気持ちを受け取り共に同じ星を見上げることで、微かな安定を得る。
 真由と心から分かり会えたわけでもないし、進路調査票に未来を刻めたわけでもないし、実効性のある決断は何も果たせていない。
 しかしそれを自分に引き寄せるために、一番大事なもの二つ……高坂麗奈との特別な友情と、彼女と奏で広がっていく音楽を確かめたことで、命の薄かった水槽に自分なりの手を加えて、”2”を”3”にすることで物語は終わっていく。

 現実のあがた祭りにおいて、久美子は麗奈との特別に二人閉じこもることを選び、そこに真由をいれる隙間は(まだ)ない。
 そんな現状を真由がしっかり認識していて、彼女なり麗奈と久美子が形作ってきた”北宇治”に歩み寄ろうと、当惑しつつ奮戦している様子も、しっかり描かれた。
 相いれぬ信条を抱え、己の三年間を脅かしかねない確かな実力を持ちつつ、黒江真由は久美子の”敵”ではない。
 だからこそややこしい、あやふやで不確かなモノを未だ抱えつつ、彩り豊かになった金魚の水槽は、噛み合わない音が一つの歌へと変わっていく未来を、静かに約束してくれているように感じた。
 そこに行くためにはあのあまりにも美しい歌と夜が、黄前久美子高坂麗奈に今、必要なのだと告げてくれる事含めて。

 

 というわけで、地獄本格化の前の四分休符、不穏と美麗がダンスするあがた祭りでした。
 いやー……やっぱ凄いなユーフォと京アニ
 高坂麗奈がとびきりの美少女であることが、作品の大きな推進力にもなってきたアニメなわけで、ここでぐうの音も出ないほどその”事実”を描き出してきたの、大変良かったです。
 麗奈が久美子のソリを『巧い』ではなく『好き』で表現するの、芯の強い彼女なりの変化、それを生み出した久美子の特別が感じられて、とても良かったです。
 次回も楽しみ。