イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「懐玉・玉折」:第26話『懐玉-弐-』感想

 確定した悲惨に繋がる過去は、未だ喜劇の様相を残して。
 気合十分な盛り盛り加減が大変ちょうどいい、呪術アニメ第26話である。
 五条悟と夏油傑が我々の知るカタチに整形される、決定的な一撃となる事件はスピーディーかつパワフルに、後の惨状など知る由もなく楽しげに転がっていく。
 弾むように眩しい演出がいい感じに、この後の物語へのフリとして聞いていて、出だしは明るく楽しく始めるホラーの基本を、丁寧に追いかけている手応えが楽しい。
 国民的人気を博し物語の本道を外れた部分でキャラが踊りだしている作品だけど、土台はじっとり陰湿な人間の業と、そっから生まれる怪物たちのお話なわけで、毒草が跋扈する土壌がどんなもんか、喜びがあればこそそれを奪われ生まれる悲嘆も描ける。
 後に五条青年、夏油青年が感じる地獄にしっかりシンクロできるよう、『この浮かれっぷり、そのうち崩壊しますからね!』と注意書きを置いてくれてること含めて、丁寧に足場を組んでくれてて、とってもいい感じだ。

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第26話より引用

 というわけで先週超調子こいて登場した”呪詛師集団『Q』”をアッサリ出オチで撃退し、無敵な二人の戦いはVS盤星教へとなだれ込んでいく。
 勇名鳴り響く激ヤバ実戦部隊はアッサリ捻られ、しょせん無能力者の集団と侮っていた盤星教は、財力を駆使して最強の殺し屋を雇うことで、五条たちの人生を丸呑みしていく。
 ここら辺の逆転現象は、『結局、人間が一番怖いよね』というホラー定番のオチをちと捻ってぶっ刺している感じがあって、結構好きである。
 最悪の強敵となる伏黒甚爾が、派手なビームぶっ放せはしないけど道具と悪知恵とインチキフィジカルを駆使して、人間の形を保ったまま若造の全部を削り取りに来る悪辣さと、その依頼主が狂信に突き動かされたただの人間集団なのは、面白い重ね合わせだなぁと思う。

 人生ナメきった態度で笑えねぇ世界で軽やかに踊る、万能感に突き動かされる特別な主役たちが、一体どんな泥沼に腰までハマっているのかは、このコミカルな出だしからズブズブ、否応なく教育されていく。
 『なら、あなたが家族だ』と自然に微笑める夏油の優しさも、学友との楽しい日々を最後まで大事にしたい理子ちゃんの願いも、何もかも本当で、とても綺麗だ。
 でもその真っ直ぐな綺麗さが、グチョグチョに汚されバキバキへし折られて、自分たちを呪った怪物と同じ存在に変貌していくのが、呪いに満ちた人間の世界だ。
 むしろこういう楽しくて、眩しくて、『生きているってこういうことだな……』としみじみ思えるような笑顔や絆があればこそ、人間は世界と人間を呪い、それは力ある形を得てしまう。
 無様に引きちぎられた遺骸を、怪物の苗床とする者。
 そこに埋められた痛みを引き受けて、自身のあり方を決定的に変えてしまう者。
 楽しすぎる青春コメディに一切の嘘はなく、だからこそ惨劇の前駆として大変良く機能する。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第26話より引用

 このスーパーウルトラハッピー無敵モードはバトルにおいても継続していて、いかにも知略戦っぽいダラダラ長喋りを真正面からの肉弾暴力とオモシロ走馬灯で粉砕し、超余裕こいた無敵パワーで分身野郎を圧倒する最強コンビに、勝てないものはないように思える。
 この無敵っぷりは甚爾が見せ金で殺し屋たちを釣って、48時間かけてインチキ野郎の精神を削る理由付けでもあるので、超絶調子こいた圧勝なのはとてもいいと思う。
 フツーの呪詛師相手にはここまで圧倒できる二人が、術師としては無能であるがゆえに盤外戦に長ける”大人/ただの人間”にゴリゴリ削られ追い込まれ、惨敗する様子がそのまま、こんな風に無敵ではいられなかった未来に繋がってもいくのだ。
 それにしたって、礼拝堂でクラスメートや先生とキャッキャしてる理子ちゃんマジ可愛すぎて、ガッツリ『こういう子がクソみたいなシステムにすり潰されたり、理不尽な不幸に飲み込まれたりしちゃいけねぇよな……』と思えるの偉い。
 そういう気持ちを自然に生み出してこそ、それがベッコベコにされる痛みが作中人物とシンクロするわけだからなッ!

 この時代の五条悟くん(スーパー美少女)は神域の異能をまだ覚醒はさせておらず、インチキ能力を多彩に応用し、あるいは超絶スペックでゴリ押す強さにはたどり着いていない。
 ノリでイケそうだった”赫”をぶっ放すこともなく、素のパンチ一発でイカれた敵をぶっ飛ばしてはいるけども、果たしてそれが超一流相手にも通じるものか。
 破天荒を装いつつ、人生の最後に幸せな日常に包まれたかった抹殺対象の意を組んで、優しく攫っていく心意気含めて、若き五条悟がまとう鮮烈なる無敵は、とても柔らかく未完成だ。

 その生意気なハツラツ加減がまた可愛くもあるのだが、サングラスに過去シーンを反射させながら『この男の能力を今解説してますが、過去の異常現象の理屈はこうです』と伝える演出、この二期で初めて”五条悟”に出会う人のことをしっかり見てて、とっても良かった。
 シャープ&スマートに説明を削ぐことで、既に”五条悟”を知ってる人でも楽しく飲み込むことが出来るし、初見の人でもなんとなーくパワフルに、コイツのインチキっぷりが伝わるしね。
 ガチガチに理論立てて説明しても無下限呪術意味わからんし、このサクッと解説はすげー呪術アニメらしい食感でクールだったと思う。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第26話より引用

 最強無敵コンビとその護衛対象のまばゆい青春を横目で睨みつつ、最悪の強敵は食いもん蔑ろにして怪物敵存在感を示す。
 ギャンブルやるにしてもテキトーにダルい感じ、息子の名前も忘れダラダラくちゃくちゃ、年月の積み重ねがずっしり重たいイヤーな大人の姿は、青春ど真ん中な主役のキラキラ感といい対比を成す。
 こんだけロクでもないのに、仕事を果たす……理子を殺し切るための算段は全く抜かりなく、銭金で他人を動かして自分の有利な状況を作っていく、オトナなやり口が大変冴えている。
 こういく賢い薄汚さは方便として扱うには毒が強すぎて、貧すれば鈍する……ともまた違うけども、真っ当じゃないやり口はそれを握る相手を汚していく。
 そのなれはてが、伏黒甚爾がラーメンを踏みつけたこ焼きを弄ぶ、食事とはとても言えない立ち居振る舞いだ。

 悟と傑が必死に走り、だからこそ輝いている任務は、生きるの死ぬのにいちいち感動も絶望もしていられない、人生にスレきったオジサンには只の仕事だ。
 本腰入れて姿勢を正し、真っ直ぐ向き合うべき本当はもはや、彼の中のどこにもない。
 ないって事にすることで、ジグジグ嫌なことが多すぎる世界でそれでも息をしている現状を、ゲロ吐きそうになりながら飲み込んでいる姿は、その異形と異能に反して結構普遍的だとも思う。
 若かりし日のようにキラキラし続けられないからこそ、夏油傑がああなって、五条悟がああならないよう頑張っている姿を僕らは既に見ているけども、彼らの任務を殺しにくる甚爾はある意味、大人という呪いの体現なのだろう。
 皆こうはなりたくないと思い、なってはならないと己を戒め、それでも人生の重力に引きずり降ろされて塗れる、倦怠と退廃の泥。
 抜け出そうにも底なしで、一掃しようにも当たり前過ぎる、呪いの根源。

 そこに潜む怪物は酷くのったり、緩やかな動きをしながら瞳に凶気を宿して、自分が生み出した狩り場を睨みつけている。
 その牙がいつ、どのように鮮烈に、眩すぎる青春に届くのか。
 なかなかワクワクする見せ方で、大変いい感じです。
 やっぱり子安は最高やな……。(オールドファンの実感)
 次回もとっても楽しみですね!