イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第14話『再び、挑むとき』感想

 愛しき妖精を悪女から取り戻すべく乗り込んだ場所で、話は意外な方向に!?
 旧弊でガッタガタになった老舗の、個性豊かなイケメン職人共の頭となって目指せサクセス!
 作品の開始時から示されていたトロフィー取ったら、お仕事アニメの色合い濃くなってきた職人、第14話である。
 まぁ今までもイカれたクライアントにクズどもの妨害、男社会の嫉妬と、”仕事”のイヤーな側面は結構強調されてきたわけだが、ペイジ工房は景気と風通し悪いだけで働いてる人たちは良さげだし、アンちゃんも結果出して立場が上がってきてるしで、砂糖菓子細工師のポジティブな側面を書けそうな塩梅。
 それが妖精ダーリンを奪ったクソアマへの復讐戦と抱合せなのが、なかなか独特の触感だけども、ブリジットさんの追い込まれっぷり孤立ぶりがどんどん際立ってきて、曲りなりとも好きな仕事をバリバリやれてる主人公との、対比が残酷さすら宿してきた。
 心臓病んだパパンのマトモすぎる一発で、唯一の救いとすがったシャルも取り上げられちゃって、このまんまクソアマざまぁで終わってはなんとも居心地悪い感じであるが、さてアンちゃんお頭の”仕事”はそういう、自分の歪な鏡像も救いうるのか。
 小娘らしい狭い視野でガムシャラに走り、だからこそ色んなことを成し遂げてきたアンちゃんのライフステージが、ちょっとずつ変わってきてる手応えなんかも感じつつ、新章大変いい感じです。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第14話より引用

 というわけで最初にブリジットさんの話をすると、今回とにかく何かに押し固められ、窒息寸前の窮屈さを生きていることが、レイアウトを通じて強調される。
 画面の真ん中、開けた場所を堂々占めて世界の主役でございと、胸を張って生きてはいない息苦しさが、男たちの影や椅子の背もたれ、望んでいたはずの美しい妖精に追いやられて、傾いだバランスで立たされている絵面からよく匂い立ってくる。
 一期終盤でそう描かれていた(から、視聴者が誘導され誤解した)ように、彼女が欲望のまま他人の大事な人を奪う悪女であるなら……というか、それだけがブリジット・ペイジの全てであるのなら、彼女の”家”に主役が足を踏み入れたこのタイミングで、こういう描き方はされないと思う。
 既にアンちゃんが幾度か土足で踏まれた、銀砂糖細工業界の腐ったマチズモ。
 女が女であるというだけで在り方を縛られ、夢を殺される荒波にあらがって主役は結果を出したわけだが、ブリジットはそうやってアンちゃんがぶち壊した(ぶち壊すことを許された)檻に、ギチギチ囚われている。
 その息苦しさが在り方を歪め、シャルを奪うことでしか救いを見つけられない過ちに、彼女を飛び込まさせた。
 そんな裏事情が、じっとりと見えてくる。

 愛を命じて生まれる抱擁は、そんな心を溶かす温もりには程遠く、暖炉に火は点っているのに画面はいかさま冷たい。
 そらー惚れた女がいる男を奴隷契約で縛って、強制的に愛の真似事させてんだからシャルも絶賛シケヅラであるけど、ブリジット自身がそうして手に入れた救済が、自分を温めてくれないことを良く知っている。
 アンちゃんとシャルが色んな困難を真っ直ぐ乗り越え、プラスの方向で描いてる『真実の愛』を、その欠乏を通じて裏打ちするのがブリジットさんの仕事かなぁ……と思ったりする。
 そういう機能を果たすなら、『真実の愛(多分、古典的ロマンスの様相を強く持つこの作品のメインテーマ)』を知らないバカとして書いても良いわけだが、特に二期になってから彼女を切り取る筆には痛みと憐憫が、色濃く宿っている。
 ぶっちゃけメチャクチャ見てて痛ましく、救われて欲しくなるよう視聴者を引っ張っとるよな……。

 ブリジットさんがブン回した独善は愛する二人を引き裂き、自分も救われない愚行であるけども、だからこそそれをアンちゃんが理解し寄り添うことで、かかし少女がもう一歩自分を前に進める、良い契機になりそうでもある。
 アンちゃんの修行時代は品評会に勝利したことで終わった感じもあり、だからこそ職人に使われる見習いではなく、職人を使う頭としてペイジ工房に足場を置く運びにもなった。
 恋に恋し夢を夢見る女の子が、恋も夢も一応叶えた上でやってきた試練は、思いの外自分と似通った痛みと息苦しさを、生々しく抱えている。
 シャルがこの苦しみを自分に引き寄せて解決する気が欠片もない様子も、ブリジットさんの悲哀と合わせてたっぷり書かれているので、問題解決の主導権はアンちゃんとエリオットにあんのかな~って感じ。
 オヤジは正論ブン回して娘の苦悩に寄り添わないし、つうか婚礼道具扱いして砂糖菓子職人という夢をへし折ったのはオヤジだし、どこにも味方がいない彼女の息苦しさを、誰かがどうにかしなくちゃいけない。
 ただどうにかしてもらうにはヤバいことやり過ぎてて、そこに踏み込んでいくためにどういう道の整え方をするかが、今後の見どころかなと思う。
 いやまぁ、クソアマはクソアマなんすよブリジットさん間違いなく……でも、クソアマになっちゃうだけの理由がドラマと画面構成に、いい具合に染み出してきてるわけで。
 この苦味とコクを上手く混ぜ合わせて、彼女が囚われた檻をどーにかぶっ壊す展開になってくれると、俺好みでいいなと思う。

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第14話より引用

 一方トンチキ四人組の頭になったアンちゃんは、色々厄介な課題を新たに抱えつつも、職場の風通しは良い。
 遮るものなく画面の真ん中に座り、未来に対し開けた立場を取れる主人公特権が、ブリジットさんを包囲する檻の重さと残酷な対照を為す。
 キースと再開した時も、一見ごちゃごちゃ不鮮明なしがらみに周囲を囲まれているように見えて、二人を覆い隠すものはなく、過去の事情を語ったあとはとても眩しく広々した場所へと、進み出すことも出来る。
 この特権をアンちゃん一人のものにしてほしくねーな、ってのが今の僕の感覚で、『女であること』という普遍的な属性で不当にクソ食らわされてきた彼女が、同じ属性故に窒息させられかけてるブリジットさんを、倒してシャルを取り戻すべき敵として見続けて終わるのは、まぁまぁ寂しい話でしょ。
 幸いにしてペイジ工房のトンチキ共は、嫉妬や性差別に狂ってきた今までのクズカスより人間が良いので、旧弊を取り除いた後はブリジットさんが本当の願いを落ち着けられる、居場所も確保できそうだしさ。

 アンちゃんの前に開けている未来はブリジットさんとの対比のためだけにあるわけではなく、何かがおかしいけど当事者にはそれが定かに見えない、ペイジ工房の行く末にもかかっている。
 一職人一仕事、近代的な”仕事”とはとても言えない非効率は、借金のカタに工房を取られる所まで職場を追い込んでいる。
 そういう状況があってなお、昔ながらのペイジスタイルを変えないこと、『それが当たり前で、誇りある俺達のやり方なんだ』と後ろ向きに歩くことを、職人たちは疑っていない。
 というかこんだけ荒れ果ててなお工房を去らないということは、ペイジの価値観を内面化しすぎて、疑うことが出来ない状況なんだと思う。
 この古臭さがブリジットさんまで縛ってる状況を見るだに、女で新米で野良という、三拍子揃ったアウトサイダーなアンちゃんこそが、何かをぶっ壊して何かを始めなければいけないのだろう。
 エリオットも、それを期待して交換条件出して釣ってきたわけでね。

 幸いアンちゃんは新しいことにやる気全開(じゃないと、常識をひっくり返して自分の夢を叶えられなかった)のモチベーションマシーンなので、誇りだらけの老舗を職人が白として、どうにか再生させる”仕事”には前のめりだ。
 それはシャルを取り戻す交換条件ではもはやなく(だから、オヤジさんがブリジットさんから羽を取り上げる流れにもなる)、やりがいある新たなミッションになっている。
 借金問題と工房立て直しを一気に解決するべく、コンテストに挑むぞ! って気合い入れたところで、オヤジがなんか旧弊バリバリ匂わせながら拒絶叩きつけてきたところで、今回はおしまいである。
 やっぱこの、やるべき課題が山盛り襲ってきて、ぜいぜい言いながら気合と負けん気と才能で殴り倒して進んでいく感じが、このお話の面白さだなぁ。

 

 今まで立ち向かってきた業界のクソっぷりとは、また違ったヤバさが随所ににじみつつ、キャリア的にも人間的にも一歩高いところにあがりかけのアンちゃんの現状を描くお話でした。
 癖強イケメンが一気に四人も出てきて、乙女ゲー色が豊かになった感じもあるけど、シャルとの絆が太すぎて恋愛関係でブレる気配は全然ねーな……その一途な安定感が、好きな話なんだけどさ。
 アンちゃんが持ってる前向きな影響力が、ペイジ工房を塞ぐ窮屈な空気を打ち破ってくれそうな気配はありつつ、しかし旧弊の支配は根深そうなオーラもムンムン。
 悪役令嬢からのダーリン奪還戦からちょっとずつ色が変わってきましたが、大変面白い流れだと思います。
 次回も楽しみっ!