イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

蒼穹のファフナー THE BEYOND:第6話『その傍らに』感想

 幾度目かの戦争が、幾度目か失われてはいけないものを奪う。
 血も湧かないし肉も踊らない、戦争の悲痛な顔を削り出していくファフナーBEYOND第6話である。
 まぁ……そういう話だって理解ってはいるんだけども、だからこそ辛いわな……。

 

 おそらく里奈ちゃん経由で開いたバックドアで、アルヴィスの情報はベノンにだだ漏れ。
 戦争やるにはあまりに不利な状況で、ジワジワ首を締め上げる絶対停止領域に囚われて、解決策は龍宮島にしかない。
 その座標を知る道標としてソウシの覚醒が必要で、しかし身勝手なガキンチョを大事に取り扱っているのは、そういう冷徹な目的意識だけで生きてると、人間が人間じゃなくなっていくからだろう。
 ソウシが抗議した美羽の(というか島の)自己犠牲意識は、”ファフナー”が今回のように壮絶な戦いを幾度も繰り広げ、そこで消えていくのが人数ではなく人間であることに向き合ってきたからこそ、ある種当然の常識になってしまっている。
 誰かの未来のために誰かが犠牲になることでしか、未来を切り開けない厳しすぎる状況に適応した結果、誰よりも人間が人間であることを大事にしてきたはずの人たちの、何かが歪んでしまっている。
 この状況を客観し直感できるのは、島の外でフェストムと過ごした記憶のあるソウシだけで、そういう”ファフナーっぽさ”を作品内部から批評し突破するために、彼が運命の主役として選ばれてるのかな、と思った。

 究極の力を求め”ライバル”に宣戦布告カマすソウシの子供っぽさは、美羽ちゃんが身にまとった成熟を引っ剥がして、彼女もまたただの子どもでしかない事実を再確認させる。
 微笑ましい……というにはあまりに痛ましく切ない、こういう形でしか切開されえない、美羽ちゃんの幼稚さ。
 それは急速に成長させられた体や、重すぎる宿命と沢山の死を背負ってきた心と同じくらい本当のことで、しかし島で過ごし絶滅戦争SFの主役やっている限り、そんなもの表に出している場合じゃない。
 生存こそが何よりも優先する戦時下で、個人だけでなく人間全体が色んなモノを切り捨て、闘争の機械に成り果てていく流れにあらがって、龍宮島は海に漕ぎ出したはずだ。
 しかしそうして選んだ戦いが、気づけば大事な何かを取り落として、でもそうやって進む以外に選べる道もなくて、今回千鶴さんは愛する人を守るために死んでいった。
 これからも、そういう事を繰り返しながらどこか彼方を目指すのか。
 それとも”ファフナー”が今まで描いてきた以外の道が、ソウシと美羽ちゃんがガキっぽく喧嘩し、触れ合っていく中で見えてくるのか。
 その探求が、血の絵の具でしか描かれない事実を幾度目か確認して、なんとも重たい。

 美羽ちゃんがエスペラントのイメージ伝達力で、効率よく設定情報を伝えるのにためらいがないところとか、”島”が気づけば異質化している何よりの証拠なんだろうな、と思う。
 エスペラント人間どもがヒュンヒュンワープしてたりとか、気づけば人間存在の在り方もすっかり変質しているが、フェストゥム襲来をなんとか生き延び、闘争し適合しかすかな対話を重ねた中で、必然的な変化ではあろう。
 その渦中にあるものは、変わり果ててしまっている自分たちには気づかぬまま未来へ進んでいて、島の外側から来たからこそソウシにはその歪さが見える。
 千鶴さんの死は幾度目か繰り返された悲劇であり、慣れっこになるなんてことはけしてないけども、その悲愴な自己犠牲に意味を見出しすぎて、物語上必要な薪だったと納得しようとする意識が、モニタの向こう側の僕らにも、物語内部の人々にも、かすかにある気がする。
 人間が人間らしく生きることを許してくれない場所の中で、愛の為に死ぬことが唯一人間の証明となりうるなら、そうするしかない。
 果たしてそれは、”ファフナー”が描いてきたもの、描き切ろうとしているものに合致しているのか、猛烈に異議申し立てする存在としてソウシは最終作の主役に選ばれて、自由に暴れているのだろう。
 その身勝手な批評性を必要で愛しいものだと、受け入れ変化していく可塑性が島に残っていることが、大きな希望なのかもしれない。

 

 それはさておき、戦う前も戦闘の最中も人はすれ違い、暴力でもって対手を否定する。
 『死人に慣れてて助かるよ!』とぶっぱなす操のエイリアンっぷり……よりも、そうやって言ってしまったことが人間を傷つけるのだと、羽佐間ママンとの触れ合いを踏みつけにしちゃって泣いてる姿が、どうにも刺さる。
 人間を知ろうとしたフェストゥムがこうも、人を解かろうとして解らず、それでも解かろうと不器用にもがいている様子は、島でおぞましい家族ごっこしてたフェストゥムたちにも多分通じるもので、しかしそいつらこそが島を襲ってきて、千鶴さんを殺した。
 解りあえるはずなのに解りあえず、剣を握って殺し合うことしか出来ない哀しみはずーっと続いてきて、心の底から解り合っているからこそ命の土壇場で千鶴さんは、自分より愛する人の命を守った。
 人の生死が絡む以上、答えが出ない難問ばかりが突きつけられるわけだが、それにしたってやっぱり辛い。
 ……EXODUSドロップした時の気持ちが、ちょっと蘇ってきたぞ!

 羽佐間ママンが思わずぶっ放し返しててしまった憎悪に、自分自身戸惑っている所に、真矢が一言助け舟を出しているの、あまりに優しくて大人な態度で、ちっと泣いた。
 大人に思える人だって心が千々に乱れる時があって、いうべきじゃない言葉を投げつけてしまうことがあって、そういう時に誰かが手を差し伸べてくれなきゃ奈落の底まで落ちるから、微笑みながら気持ちを伝える。
 そういう人間がやるべき……でも果たすにはとても難しい行いへと真矢が進み出れたのは、子どもではいられない時の流れを自分自身生き延びてしまって、耐え難い別れや得難い出会いを幾度も繰り返して、柔らかい鋼へとその心を鍛えてきたからだろう。
 それはとても正しい。
 だからこそ、真矢が正しくないただの子ども……あるいは人間でいられるときが彼方に訪れてくれるといいなと、僕は願っている。

 酸いも甘いも噛み分けた真矢の成熟に対し、美羽ちゃんはまだまだ子どもな部分がソウシとコスれてようやく見えてきて、そこは良かった。
 千鶴さんが『憎まれる覚悟』を語ったリアクションが『ママを嫌いになる人いないよ!』なの、ホント幼い返答すぎて、見ていてとても辛かった。
 それは人間を死地に追い込むほど強い憎悪が世界に在るのだと、痛感し体感している千鶴さんの視点を、『好き/嫌い』までしか世界を分解できてない美羽ちゃんが共有できていなくて、そのズレが辛い……という話ではない。
 『好き/嫌い』が『憎い』へと変貌し、相手を否定し尽くすまで止まれない状況……今島が追い込まれている絶滅戦争の実相を、自分に引き受けて実感できない幼さのまんま、美羽ちゃんは運命背負って戦場に出てんだなとつくづく思わされて、とても辛いのだ。
 そういう子がサラッと『片手一本なら……』と言い出してしまう状況は、ソウシが叫ぶようになんか間違っていて、真矢が切望する忘却への抗いを銃後に託せる特別は、死に向かって己を投げ出しすぎる心根に、深く繋がってしまっているのだろう。
 んじゃあ人間を人数にして、何もかも忘れて殺し殺されしてればいいのかといえば絶対そんなこたぁないので、やっぱ難しい。
 零央が斬り伏せたソルダードの死骸を、『かつて人間だったもの、成仏させてやる!』とちゃんと見据えていたのが、短いが大事な描写かなと思った。

 

 久々の大規模戦闘はオレンジの描写力も相まって大変良かったが、『その興奮に飲まれてばっかりでもいけねぇな……』と、常時冷水ぶっかけ続ける作風が、やっぱ誠実でいい。
 今回の戦闘で、先週フリーマーケットで普通に過ごしてた人たちが沢山死んでんだろうし、そうやって戦死者を人数で把握させない重たい筆先は、”ファフナー”が獲得し得た大事な強さだ。
 操がある意味、悪い観客の視点を作中に持ち込むように死への慣れを言葉にしてしまったことで、今必死に戦場を生き延びている人たちはけして、喪失に慣れることはないのだと再度告げられもした。
 そういう気持ちでいるのに、愛して家に迎い入れたはずの操へ死を願う言葉を投げてしまうことと、その裏側に自分に死んでほしくない気持ちがあるのだと操が解っているのが、滅茶苦茶複雑な味がした。
 人間にフェストゥムが混ざった一騎・甲洋にしても、人間を知りうるフェストゥムとなった操にしても、島の傷を己の痛みと感じ取るカーマ様にしても、人外混じりたちはどうしようもなく人間であり、だからこそ思いの全てを伝えることは出来ず、それでも解り合おうとしている。
 人間以外を描くことで人間性の地金を鮮烈に描くことが、SFというジャンルの強みであるのならば、今のファフナーはめちゃくちゃSFしているなぁ、と思う。

 譲れぬ何かを解ってもらうために、それを抱えた己を世界に証明するために、剣を握れば誰かが死ぬ。
 ソウシが武器を前に怯えていること、暴力とはそういうものだと零央が教えたのは、とても大きな意味があると思う。
 自分がより強い、ロボットアニメの主役に相応しい存在になるための”訓練”と見ていた戦いが、誰の命を奪っていくのか。
 そうして砕かれたものは、故郷や家族の喪失に感じた痛みと何が違って、何が同じなのか。
 ただのガキンチョでしかねぇソウシが、叩きつけられるにはあまりに重たく硬いものが、否応なく降り注ぐだろう。
 彼を見守る大人たちがそうであったように、それだけが教えるものが確かにあるけど、でも叶うならば、そんな厳しい試練はない方が良かった。
 やっぱ俺は、そう思う。
 次回も楽しみです。

 

・追記 そういう情勢下で、ソウシと美羽ちゃんが子ども全開で言い合える場違い感は、凄く大事なことなんだと思う。