イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜:第10話『討伐隊を追って』感想

 猛る衝動を抑えきれないまま、若人は龍を追って故郷を出ていく。
 四人初めての冒険は竜退治、ライザアニメ最終章開始の第10話である。

 ここで親との関係に一話使ってくるの、マジでこのアニメらしい呼吸で面白かった。
 クラウディアと手を取って冒険に出るのがこのタイミングまでズレ込むの含めて、閉鎖的な島に漂う空気、それに縛られてるからこそ飛び出したい子どもたちの気持ちに、腰を落として向き合うアニメだ。
 そういう年頃の子どもにとって、親というのは自由を奪う枷でもあり旅立ちを見守ってくれるシェルターでもあり、なかなか複雑な存在。
 いろんな色合いを宿すその関係性を、三者三様な親との対峙を通じて描く場面が、ワクワクの竜退治を前にちゃんと書かれる。
 ……やっぱ17歳のお話ではないよなーコレ。
 そのミスマッチひっくるめて好きだけどさ。

 

 ライザにしてもレントにしてもクラウディアにしても、実の親は血縁で繋がっているゆえに結構重たい存在で、キラキラな夢を無条件で支持してはくれない。
 だからこそ島の外から来て、血の繋がらないアンペルさんやリザさんに”よい大人”を見出し懐いていた部分があるわけだが、彼らは自分たちの責務を果たすべく村を去って、もう頼ることは出来ない。
 誰にも命じられず、支えられず、自分で自分の未来を選ぶ。
 子どもが大人になるうえで最も大事な決断が最後に据えられるのは、このアニメが自分を作ってきたスケール感に嘘がなく、大変良い。
 この原動力が年経るごとに失われてしまった、ボオスくんとの友情にあるのもまた良くて、今までやったことがない大きな決意と、取りこぼしてしまった大事なものを取り戻す行為が、竜退治に進み出す中同居している。
 未来を掴むことは、過去を取り戻すことと繋がっているわけだ。

 大人抜きでの竜退治なんて土台無理と、やらずに諦めてしまう自分は夏休みの前にもう置いてきているわけで、ライザの決意に引っ張られる形で、悪童四人は進み出すことを選ぶ。
 この決断をする前に、錬金術で新しい爆薬作るのが良かった。
 良くわかんねー原理で動作し、モノと創造力突っ込むと不思議に夢を叶えてくれる錬金釜は、このお話においてはイマジネーションの具現だった。
 自分は望む何かを作り出せて、それで未来を変えられる。
 そう信じさせてくれる手がかりがあの釜であり、それに触れることでライザは強気で前向きな自分になれたのだ。
 ここら辺、魂の位階をあげる精神修養としての錬金術を、ポップな青春小説的味付けで料理している感じがあって結構好き。

 

 かくしてそれぞれの家で親に向き合うことになるのだが、アルコールがしみ過ぎててぶっ壊れてたマルスリンク家が、彼らなりの再生を遂げていたのは面白かった。
 酒浸りのクソ親父は命をあっけなく奪う戦場に食われて、勇気を砕かれ戦士ではなくなってしまった。
 しかし戦士でいたい気持ちはまだ微かに残っていて、だからこそ甘っちょろい夢を戦場に抱く息子を認められない。
 『ガキにこの剣は渡せねぇ』としがみついていた刃は、戦士最後の矜持を示すように錆びつかず鋭いままで、これをレントくんが受け継ぎ龍と向き合うことは、戦えなくなってしまった父の代理闘士(チャンピオン)に、彼がなることを意味する。
 逆にいえばもう抱えていられない戦士としての自分を、真っ直ぐ強く己に向き合ってきた息子に預けることで、最後の最後親父は戦士である自分を取り戻し、あるいは手放せたのだろう。
 他の親が良いとこ結構ある、飲み込みやすいキャラだったのに対し、レント父はマジクソカスのダメ人間と描かれてきた。
 旅立つこの時、それだけじゃない微かな輝きが父子の交流に瞬くことで、大嫌いだった親父の”良いとこ”を少しだけ見つけられるようになった、レントくんの成長も際立ったと思う。

 クラウディアは……三話も使って自分と自分たちを認めさせる試練やってきたわけで、あんま新たな関係性という感じもなかったけど、逆に言うと今まで積み上げてきたものを生かして、裕福な家の庇護下にあったお嬢様が自分の足で進みだす決着となった。
 どっちかっていうと親に向き合ってない時、ライザの隣でゴロゴロしつつ心のわだかまりを共有してる距離感が、このアニメらしい実在感ある友情で良かったな。
 無論ルベルトさんがもつ、愛すればこその鎖を引きちぎって旅立っていく様子も、その先でライザの手を取って船に乗る姿も、じりじりお転婆お嬢様の変化を積み上げてきたお話の総決算という感じで良い。
 穏やかな日常に許された、思春期の可愛らしい跳ねっ返りで鍛え上げたものがどれだけ、厳しい現実に通用するかは、龍に挑む冒険で証明されていく部分だろう。

 

 そんな仲間を引っ張るライザと、お父さんとの交流も良かった。
 声帯からして”格”が漂ってるライザパパだが、娘にとって錬金術とはどういうモノなのかずーっと見守ってきて、自分なり噛み砕いて新しい地平へ送り出そうという、鷹揚な姿勢が眩しい。
 この圧倒的人間力にたどり着けず、娘が行くべき場所へ巣立つのを止めてしまうだろうと、自分を理解して扉の向こう側、ライザの旅立ちを見送っていた母の切なさも、また良い。
 『お父さんなら、私が出来ない正しい決断をしてくれる……』と、ある種の逃げを含みつつも絶大な信頼を預けているのも、顔を合わせちゃったら絶対引き止めてしまうと必死に自分を抑えているのも、愛だなぁと感じた。

 ライザが見えない扉の向こう側、一体何があったのか気づくのは多分、竜退治を終えてもう一度家に戻ってきた時だろう。
 自分がどれだけの愛に包まれ、鎖に思えたものは守護のお守りだったのだと実感するためには、幼く狭い視界のまま行く所まで行くしかない。
 そのためにライザは錬金術と出会い、出来っこないと思えることに挑む自分を作り上げ、父と母に見送られて島を出ていく。
 そして帰ってくるのだ。
 ムチムチ脂っぽい、いかにも”JRPG”めいたポップなパッケージの中に、芯が太い行きて帰りし物語をしっかり入れ込んでいる所が僕は好きだし、このアニメのどっかチグハグなところは、そういう生真面目さから出ているのだろう。
 でもやっぱり、僕はそういう所が好きなのだ。

 

 というわけで出陣前夜、それぞれが家族と向き合うお話でした。
 ここでここに時間使って丁寧にやるの、アニメが選んだ語り口を最後までやりきる気概を感じて俺は好き。
 ……タオくんの家族描写はなかったがなッ! あってよかったんじゃないかな流石にッ!!
 とまれ、向き合うべきものに向き合って進みだした先、かつて刃が立たなかった竜が待つ。
 子ども達が一夏の冒険を経て何を得たか示すには、ドラゴンとの激戦は良いキャンバスでしょう。
 そこに何が描かれるのか、次回も楽しみです!