イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

蒼穹のファフナー THE BEYOND:第10話『嵐、来たりて』感想

 停滞と絶望を打ち破る風が、激しく未来へと吹き付ける。
 激動の第六次蒼穹作戦を描く、ファフナーBEYOND第10話である。

 マイナスイメージが先行するサブタイトル、『”ファフナー”で最終決戦とくりゃよぉ……』と沈み込む気持ちを逆手に取って、立上芹大復活で次回に引く構成が大変気持ちいい。
 考えてみりゃ、赤い月が生み出す凪が人類にとって死の導きでしかないことは既に描写されていたわけで、破壊と変化をもたらす嵐はアルヴィスにとっては吉兆なんだな。
 止まることなく循環し、失われる哀しみと奪われる怒りに囚われることなく前へ進むことを肯定してきた物語は、いつだって嵐の中にいた。
 『龍宮島は動かない』ってのも固定した思い込みでしかなく、『おかえりなさい』はお互い様で、皆が終わりきった今日を終わらせて明日に進み出すために、必死で戦っている。
 その舳先に、島と”ファフナー”がいつの間にか積み重ねてきた固定観念の外にいるソウシが立って、新世界の鼓動を強く弾ませる姿。
 そんなソウシの変化に、最も強く島の子どもである美羽ちゃんが深く関わっていること。
 その響き合いの周囲と深奥に、普段着でパーティーを楽しむ人たちがちゃんといること。
 壮絶な激戦と同じくらい、最後の戦いに挑む前の幸せな時間を描く場面が、胸に何かを込み上げさせてくる回だった。

 

 ベノン側に戦術アドバンテージを与えていた里奈ちゃん通信を逆手に取り、Lボート自爆で敵主力をぶっ飛ばす奇策を嚆矢として、第六次蒼穹作戦が開始されていく。
 そこに至る前の、戦闘服ではなく暖かそうな冬服を着込んだ人達の姿がちゃんと描かれているのは、凄くファフナーっぽい光景だなと思う。
 エピソード内部でも確認されているように、ああいう人間として当たり前のものを見失わず、闘うことを諦めずに進んできたからこそ、物語は数多の犠牲を出しつつも歩みを止めずに、ここまで来た。
 これは絶滅前提の最後の日常ではないし、戦いが終わり”人間らしい”生き方をあの世界が取り戻した後も、必死に守らなければいけない大きな価値だ。
 それを戦いに挑む人すべてが解っているからこそ、彼らは良く笑い楽しむ。
 フェストゥム進行以来形を変えてしまった世界と人間の在り方を示すように、そこには人間以外も沢山いて、しかし高邁な理想やひどくありきたりの笑顔を共有することで、共に進んでいくことができる。

 その代表として、操がどのような人間になったかを特に濃く描いていたのが、心に残った。
 取り戻せない死生を前提に組み上げられた、人間の価値観をなかなか理解できず、”食べる”という言葉で表現される同質化と永遠の中にいた彼は今回、『食べようとしてごめんね』……そして『食べられたくない』と告げる。
 それは珍妙で人間離れした彼なりに人間をわかろうとしてもがき、与えられた優しさに感化されて人間に近づいていった果て、たどり着いた境地なのだと思う。
 コアに戻った彼が敵に囚われることなく、同じくコアとして生の岸に戻ってきた織姫ちゃん達に受け止められた決着は、哀しみは漂いつつもホッと出来るものであり、『あ、”ファフナー”本当に終わるんだな……』って感じがあった。
 続編あるんなら殺し切っていたタイミングだと思うけど、もうここまで来てコレ以上の犠牲出されるのもキツイわけで、美三香や零央と合わせて希望を残す退場にしたいんだな~って感じ。
 いや本当にありがたいよ……。

 ここら辺ベノンのフェストゥム人間どもも似た感じで、恐怖の奥に生存の意思を、虚無の先に奇妙な繋がりと暖かさを、薄汚ぇ疑似人間でしかなかったはずのセレノアやレガートが見せてきているのが印象的だった。
 希望と愛。
 言葉にすればあまりに儚く薄っぺらで、しかしそれを自分の中核としなければとても生きていけないモノをフェストゥムも学べるのだとしたら、同じものを抱えて死地に挑んでいる人間たちと、殺し尽くす以外の道を選べるかもしれない。
 愛ゆえに大きく歪むやるせなさもたっぷり描いてきたシリーズだけども、憎悪の傀儡になって何も見えなくなってるわけではないと一瞬、マリスの少年らしく人間らしい顔を切り取った所に、自分としては軸足を乗せたくなる。
 マルスペロ&偽ミツヒロとマリス一家の思惑がズレている感じもあるので、どういう決着になだれ込んでいくかは分からんけども、異質生命体との対話を求め続けてきたコミュニケーションSFの結末は、どっか良い所に行け……んじゃねぇかな。
 ここから先は平時の理念を厳しすぎるほどに試される、生きるか死ぬかの激戦の中で示すしかない部分もあって、だから最終決戦やるしかねぇって話でもあろう。

 

 この限界ギリギリバトルの真ん中に立つのが、ソウシと美羽ちゃんなんだけども。
 一騎との因縁に自分なり前向きな答えを出したり、美羽ちゃんとの絆に感謝を伝えたり、あんだけクソガキだったソウシくんが遂に遂にいっぱしの”人間”になってきて、諦めずに教育と生活を積み重ねてきたすべての人達良かったね……って気持ちになった。
 千鶴さん、見てはりますか……。
 戦場に立ちながら”お話”を求める美羽ちゃんのヌルさを、それを偽計に横からぶった斬るソウシの悪賢さが乗り越えていく……みたいに見えて、『どっちもどっちのクレヨン色じゃガキども! 対話と闘争の間にあるものを、ここからのラストバトルで探り当てるんじゃ!!』と告げる構図になってて、大変面白かった。
 マージでアイツら、デカくてつえぇロボットに乗っかってるだけのガキなんで、とっとと運命の戦い終わらせてお絵かき存分に出来る世界に辿り着こうぜッ!

 ”存在”を意味するザインに乗る美羽ちゃんが相互コミュニケーションにこだわり、”虚無”を意味するニヒトを操るソウシが敵を倒して消滅させる方向に舵を切っているのは、お互い一人きりだとたどり着けない場所に物語を止揚させるためのペアリングなんだろーな、とか思う。
 更にいうと、かつて同じ機体に乗っていた真壁一騎皆城総士ではたどり着き得なかった場所へと物語を進み出させるためには、二人を新たな主人公にしなければいけなかったんだろうな、とも。
 淡い恋心の種子なんぞもホッコリ蒔かれつつ、それだけで終わらない人間の根幹に関わる繋がり方を、二人はうまく作れたなーと思う。
 ここら辺を肩の力抜いて、ワーワーやかましく遊ぶ姿で描けているのは、命がけの日常ものである”ファフナー”の強さだ。
 たとえ明日に死が待ち受けるとしても今日笑い、亡骸に抱かれつつもかつてあった輝きを忘れない。
 流転する生死の中で人であり続けることはあまりにも難しいが、その難行をやり遂げるためのヒントは既に、物語に幾度も刻まれているのだ。

 

 それを衛星軌道上からド派手にぶん殴る、邪悪なる救世主堂々降誕ッ!
 人類に過ぎた力であるザルヴァートルモデルが顔見世する時、毎回メチャクチャいい感じの見せ方して大規模ロボアニメの醍醐味味あわせてくれるのは、重たく濃厚な人間味だけを武器にしない手の広さを感じさせてくれて、大変良い。
 いやまぁ、敵に回った奴のエグさを考えると良くはないんだけどさ。
 しかしマークレゾンが操を一瞬で屠る凶悪さを誇るほどに、この窮地をひっくり返す嵐の到来が頼もしくもあり、芹ちゃんおかえりって気持ちにもなる。
 この感慨を、芹ちゃん側が『おかえりなさい』と言うことでひっくり返してくるのが凄く好きで、そらー故郷はあっち側なんだから『おかえりなさい』言うのも当然だよな、とは思う。
 EXODUS最後まで見れていないので、島にいなかった芹ちゃんがどういう決断をして、どういう戦いの果てに海に沈んでいたかは解んねぇんだけども、『コア少女への過剰な愛に殉じたんだろうなぁ……』てのは解るよ。
 そして満を持しての帰還……あるいは歓迎。
 最終決戦に相応しい的確な上げ下げで、見てるこっちの気持ちを乱高下させるイベント盛りだくさんで、大変いい感じだ。

 龍宮島が戻ってきたってことは、封印されてるアルタイルと再接触して人類(とフェストゥム)の未来を決める特異点も近い、って話になる。
 その核心にいるのは人類最強のエスペラントである美羽ちゃんで、彼女に大事なものを沢山貰ったのだと既に告げてるソウシは、激動する運命の中で何を掴み取るのだろうか?
 僕はBEYONDを、島の外で育ったソウシという異物を触媒に、”ファフナー”に積み重なった要素を否定し、書き換え、再創造するお話として見てきた。
 ここら辺の決着を、より激しさを増すだろう戦いの中、ぶつかり合う宿命と感情の果てにどう付けてくるのか……いよいよクライマックスである。
 まさに”嵐”の相応しい盛り上がりで、来週もとても楽しみです。