イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アンデッドガール・マーダーファルス:第10話『狼の棲家』感想

 探偵の鋭い瞳が真実を暴くよりも早く、引き剥かれた化けの皮。
 金色の人狼が月夜に吠える時、誰かが奈落に落ち果てる。
 アンデッドガール・マーダーファルス、第10話である。
 大丈夫静句さん、水ポチャは生存フラグだから……つうか滝がゲートになって人狼村に行けるんだから、人狼サイドの描写やるための一時離脱だわな。

 前半ジリジリと証言を集め、後半ロイス乱入からの人狼覚醒と話が転がっていく今回。
 未だ曖昧な事件の輪郭を掴むように、色々ヒントと謎が出てくるターンである。
 <鳥籠使い>に<夜宴>にロイス、魔人集団の野蛮なぶつかり合いを活かす形で、アニメだと見せ方が難しい謎解きを、上手く視聴者に差し込んでいく形だ。
 疑心暗鬼に曇った村人の視線、闇夜に燃え盛る松明、疑念通り伏せられていた危険な秘密。
 じっとり重たい山村の空気が、色々明かされつつまだ真実を見通せない情報と絡んで、なかなかに面白い手応えである。
 現状ブリーディングによる遺伝子改良で弱点を潰し、敵を強くする作用ばかりが目立つ人狼の交配儀礼がかなり強めの腐臭を漂わせてて、この要素が真相にどう絡んでくるか気になる。
 人狼事件はここまで描かれた二つの事件(浅草での出会いも含めると三つか)に比べて、怪物を駆り立て人類が生存領域を広げている世界観に似合いの重たさ、暗さ、生臭さが濃く嗅げているので、おぞましき生殖の影が伸びてるこの因習、ただの強敵ブースターではない気がすんだよなぁ……。

 

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第10話より引用

 というわけで、生首探偵のスーパー聞き込みフェイズ!!
 全体的に傾いで息苦しいアングルを生かして、誰も彼も信用しきれない暗中模索な状況を上手く可視化してくれていて、このじっとりした感じが大変良い。
 事件解明のために情報を集めてんだから、物事が前に進んでいる手応えってのが画面に滲んでも良さそうなのに、偏見と悪意と疑念に閉ざされた村の空気をそのまんま、進んでも進んでもどん詰まりな気配が濃いのが、独逸の片田舎って感じで最高(迷いのない偏見ぶっぱ)
 同時に鋭い舌鋒と観察眼でもって、証言と反応から霧の中の真実をえぐり出していく鴉夜の颯爽も印象的で、『やっぱ名探偵はカッコよくなきゃな!』という思いを強くする。
 鳥籠の中の生首という強烈なヴィジュアルが、しかし異形の美としてしっかり機能していて、体がないからこそ頭が冴えるアンバランスな探偵機能の冴えを強調しているの、やっぱ強いわな。
 聞き込みシーンの冴えてる感じが、荒事で貨物扱いされ窮地を招くよわよわっぷりと対になってるのも、長所短所が背中合わせにドラマを回してる。

 さて鴉夜の詰問は目の前の連続少女誘拐事件だけでなく、そこに結びついた過去の人狼狩り、村と異形種族の在り方に及んでいく。
 母親すら見間違えるほど良く似た少女が、人狼の秘密を暴く側と暴かれる側にいたってのは……まー入れ替わりトリックを疑うポイントだわな。
 母狼の死骸は”人狼”と明言しているのに、子狼は”獣”と供述されているの、『遺骸を確認した』という事実を煙幕に、ここら辺のギミックを覆っている印象もある。
 仮にルイーゼが人狼であり事件の首謀者だとすると、少女殺しの理由も現状表に立ってる『怪物による本能的殺戮』とはズレてくる感じがあって、そこらへんは更に過去の奥深く踏み込んで、ようやく見えてくる感じか。

 少女たちの遺影と鴉夜の肖像画を並べ、漂わせた不穏さは後に、金の人狼が目覚めることで回収もされていく。
 アルマのなにかに取り憑かれたような危うさ、尋問相手で唯一、その場で嘘を暴かれている不信感も、どこかズラしの気配というか、見えている凶暴さだけが全部ではない感じを受ける。
 彼女が人狼に変わる場面は直接描写されず、犯行告白をBGMに悪趣味な影絵のように流れていくわけだが、ワンクッション置かれた描写には手が入ってるという、ミステリ読みの疑心暗鬼を挟み込みたくもなる状況だ。
 いかにも異常で怪しい人物が、いかにも異常で怪しい因習村で引き起こす事件に押し流されず、奇妙な違和感がザラリと刺さる。
 ここら辺の手触りをアニメでやるのはけっこう大変だと思うが、アヴァンギャルドな画作りなども生かし、とてもいい感じにやってくれている。
 そのものズバリ答えが見えても直線的すぎるし、スルッと流されて印象に残らなくても意味ないし、さじ加減難しいんだろうなー。

 

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第10話より引用

 さてそんな予感を横に置いて、ゾロゾロと魔人共が雁首を揃えだす。
 遠巻きに状況を睨む<夜宴>の存在に、津軽も既に気づいていて対応を考えている描写が入ったのは、鳥籠持ちの与太郎がなかなかに鋭い視線を周囲に巡らし、暴力担当に相応しい仕事をちゃんとやってる証明になってて、大変良かった。
 俺は津軽の何もかも嘲笑って軽薄に飛び越えていく表層と、その奥で鋭い視線を世界に向けている在り方がいかにも道化師らしくて好きだ。
 彼が知性とニヒリズムなくしては成り立たない、道化師の高度な職能を果たしてくれているからこそこの怪奇な物語はファルスたり得ている。
 『おひい様……おいたわしや……』って感じで、”医療行為”に穢された鴉夜を静句さんが抱きしめてる様子とか、その純情を弄ぶ津軽の態度がなければ成立してないからね。
 こんだけ毛嫌いしてる間柄なのに、雫さんが瀧に飲まれた時は津軽が作中初めてのマジ声出してるの含めて、いいキャラ、いい関係だなーと思う。

 他人の家で即座に温度高いドンパチやりだすロイスさん達、倫敦激戦を経て『出だしは威勢良いんだけど、シメがちょっとな……』という評価になってきているので、これをひっくり返すだけの見せ場が今後あるのか……<夜宴>次第か。
 あっちはMとジャックが来ていない感じなので、戦力バランス的には前回ほど一方的にならない感じもあるけど、人狼っていうイレギュラーがどんだけ暴れて、どんだけ引っ掻き回すか次第か。
 倫敦ではダイヤ争奪戦と各勢力のせめぎあいが並走していたように、今回も超人たちの三つ巴と人狼村の因縁が絡み合う感じで、知略と暴力が混ざり合ってる独自の味わいが、やっぱ面白いわなこの話。

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第10話より引用

 ……とか言ってると、首から下も暴力適正も全くない鳥籠探偵が、人狼にぶん投げられて空を舞うことになるわけだが!
 それを追っかけて武装メイドが滝に落ち、ヘラヘラ野郎がマジ声出すわけだが!!
 メタ的に見ると、静句さんを人狼村に投げ込んで鏡の向こう側の状況をカメラに写し、人間村から出てきた情報と合わせて事件の全体像を削り出していく構図……なんだけども、笑劇に囚われてる張本人にそういう視線はないわけで。
 やっぱここで鴉夜と津軽が、いつもの余裕をなくしてシリアスで無防備な気配を出しているのは、なんだかんだ<鳥籠使い>の旅が楽しく大事なもので、壊れるのが嫌なんだなー、って理解った瞬間だった。
 俺はそういう、人でなし共が土壇場で匂わせる微かな人情が好き。

 流れメイドの行き着く先は次回描かれるとして、怪しさ満点の絵描きが金の人狼と同一人物なのかは、怪しい見せ方しとるなという印象。
 彼女自身が人狼だとすると、村外れの森を駆けていく金狼を見たって証言と矛盾が生じるけども、経歴詐称の嘘つきだからそこらへんも信頼置けないって話か、まだまだトリックがあるのか。
 遺影を汚す絵の具でもって、少女たちを貪った惨劇を間接的に描く演出が切り取ってるのも、今見えているのとはちょっと違うものかも……とは思う。
 ここら辺、後出しで超常的ななにかがあっても全然おかしくない世界観だし、こっからカメラが人狼サイドに切り込んでいくし、まだまだ見えない……だから面白いところだなぁ。
 吸血鬼城の事件よりは勢力多くて複雑で、倫敦騒乱よりはシンプルな話の作りは、バランス取れてて見やすいね。

 

 という感じで、ジリジリと陰湿な村で証言を集め全容見えるや見えざるや……って雰囲気を、空飛ぶ鳥籠と水ポチャメイドが引っ掻き回すエピソードでした。
 オーソドックスな寒村ミステリで進めていくかと思えば、意外な角度から横車が入って飽きさせない話運びは、ハチャメチャに見えて地に足付いた作風と相まって大変いい感じ。
 色々秘密や因縁が見えつつ、まだまだ不鮮明な面白さを残すお話は、瀧を越えた先にある新たな舞台でどう転がるのか。
 次回も楽しみです。