イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第22話『妖精と人と』感想

 雪深き囚われの城で出会ったのは、無垢なる片羽根の残酷。
 キモキチ妖精の好き勝手絶頂が加速する、シュガーアップル・フェアリーテイル第22話である。
 ダイレクトな暴力叩きつけてアンちゃんとシャルを拉致った先で、ラファルがここまでする理由を語ったわけだが……まー通じるわけもねぇわなッ! っていう理念だった。
 自分を要請にした少女と、その面影を残すアンちゃんに見つめられることで今の形を得ているシャルにとって、ラファルが絶対視する妖精王の血統は遠いお伽話であって、『その責務を分かち合え』と言われても他人事だ。
 おまけに彼がひっくり返そうとしている妖精支配のやり口を、シャルのみならず配下の無垢な妖精たちにも強いているとあっては、全く通じるわけもなく。
 狂気と暴力と執着の合わせ技で、距離を取られるべくして取られているラファルであるけども、それでもシャルが自分の隣に来ることにこだわっているのは……彼なりに寂しい、のか?
 最悪の横取り女だったブリジットさんがどういう状況にあって、何を求めてシャルに縋ったかを掘り下げていった第2クールを思い出すと、彼女の愛玩妖精だったラファルもどこか通じ合う鏡合わせで、満たされぬ何かに手を伸ばしている感じはある。

 だからって斬糸で他人の喉や眼球を引き裂き、罪のない砂糖菓子職人襲わせて最悪を無理強いする権利が、あのカスにあるわけでもねぇのだが。
 直接的な死体描写は避けたにしろ、シャルが強要されてとはいえ人を傷つけた描写がガッツリ入ったの、終盤に向けてずっしり重い。
 アンちゃんがあの場にいても殺せなかったし殺さなかったと思うけど、アンちゃんの為ならばあれが出来てしまうのがシャルであり、その強さに救われてきた事もたくさんあったしで、なかなか複雑だ。
 既成事実を積み重ね、人間社会をひっくり返す共犯者として引き返せない所までシャルを追い込むのがラファルの狙いなんだと思うが、妖精王の継承者として為すべきことが、はたして人殺しなのか。
 ここまで描かれてきたもの(特にアンちゃんの職人人生を大きく変えた、品評会での天啓)を思うと、ヤツがぶん回す傲慢と残酷が答えだとは思えない。
 銀砂糖師としてのキャリアも結構順調、やりがい満載で人生進んできたタイミングでむき出しの暴力と悲劇を叩きつけられて、アンちゃんもすっかり弱っている。
 奴隷解放者が同志を、打ち倒すべき敵と同じやり方で縛り苛んでいるやるせなさを前に、銀砂糖師に何が出来るのか。
 常に形のない希望にかたちを与える仕事として描かれてきた銀砂糖細工が、お話の最後に差別とテロの現場に”妖精と人間”を描く準備が、しっかり整えっていくエピソードでした。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第22話より引用

 暴力に急き立てられる形でたどり着いたラファルの根城は、雪に閉ざされてあまりに寒々しい。
 アンちゃんが追い込まれていく場所がどんな手触りか、優れた美術でしっかり伝えるこのアニメらしさは今回も元気だ。
 こんな世界の果てで頼れるのは愛する人の温もりだけで、シャルと暖炉の灯火に身を寄せるわけだが、このオレンジの光から遠い闇の中に、ラファルは身を置いている。
 極限状況にすっかりヘロヘロなアンちゃんにとって、シャルだけが暖かな光であるように、人間に絶望し戦いに明け暮れていたシャルに、希望を取り戻してくれたのもまたアンちゃんだった。
 お互いを見つめ合い、想いを寄せ合う絆がラファルにはなく、それが彼の周囲に孤独な暗黒を産んでいる。
 ここら辺の対比を、いろんな難儀と冒険を経て”我が城”になった亡霊城の温もりと対比する感じで、全く冷たい廃城を舞台に描いていく回でもある。

 ラファルは己の生い立ちと価値観をシャルに語り、それに染まるよう強いてくるわけだが、既にアンちゃんという灯火を手に入れたシャルは、ラファルを包む闇に身を預けれない。
 気まぐれに飛び去ってしまう鳥に見つめられ一人で生まれたラファルと、無情な世界がいつか二人を引き裂くとしても、側にいる誰かの瞳によって形を得たシャルは、人との触れ合いに決定的な違いを抱えている。
 シャルも己をこのように生み出した温もりを引き裂かれ、一度は世界も人間も信じられなくなっていたわけだが、痩せっぽちのお人好しがずっと側で彼を見つめてくれたことで、自分がどこから来てどこに行くのか、既に揺るがない答えを得ている。
 それはラファルが捕らわれている暗い想念、暴力で他人を踏みにじる傲慢とは、けして相容れないものだ。

 ラファルがどれだけ望んでも、ダイヤモンドから三人目の兄弟は生まれない。
 『形のないものを、想いが宿った視線と掌で形にしていく』という営みが、妖精の誕生と銀砂糖の製造……作品タイトルに宿る二つのテーマで共通しているのは、大変面白い。
 2クールに及ぶ物語を終わらせるにあたって、妖精はどのように生まれてきて、その生存に不可欠な銀砂糖は何を形にしうるのかを、極めて苛烈だからこそ純度高く、偽りなく抽出できるのは、なかなかいい感じだ。
 それはともに、揺るがぬ信念と明日への希望、暖かな愛が生み出す奇跡であり、奴隷解放を歌いつつ最も残酷な奴隷主になってしまっているラファルには、けしてなし得ない営為なのだ。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第22話より引用

 ヒロイン二人がが地獄めいた氷の城苛まれる中、取り残された職人たちはシコシコシコシコ銀砂糖を練る。
 ペイジ工房のタフガイに、キャットとジョナスを加えオールスターの様相を呈してきた新聖祭の準備であるが、ここにキースが追加されていよいよ大所帯である。
 俺はヘラヘラ戯けてた輩がわからず屋の言葉に温度上げて、抱え込んでいた本気を表に出すシーンが大好きなので、キースの寝言にエリオットがキレた場面は最高だった。
 自分のコンプレックスから逃げる形で工房に背を向けて、アンちゃんがそこで何を変えて何を生み出し得たか知らねーくせに、苦い不安を噛み締め寡黙に汗を流す男たちにギャンギャン吠えるの、マジ良くねぇからな……。

 まぁ外野から見ればごもっともな意見ではあって、これにちゃんと反論しておくのは現場作業班としても、大事なシーケンスだったと思う。
 こうしてぶつかったことで、キースが抱えていた重荷も降ろせて、親との因縁とか余計な思い込みとか、全部捨てて身一つで仕事する所にこれたわけでね。
 こういう魂のぶつかり稽古を主役として担当してきたアンちゃんが、クソボケに拉致られているからこそ、彼女が体現してきた”熱”をエリオットが自分のものにして、彼もまたただ一人の職人として、”仕事”に向き合っている感じがあった。
 元々銀細工を作り上げる指先のクローズアップが、場面ごと印象的なアニメではあるのだが、平然と仕事をしようとこらえてきたエリオットの指が、キースの言葉で遂に熱を宿して歪んでいく様子とか、思いがこもってて良かったな。

 ブリジットさんの歪み方にしても、職人としての熱量にしても、エリオットはそれが問題なのだと認識する視野の広さと、自分では解決できないと諦める距離の遠さが同居していた。
 だから何かを変えうる触媒としてアンちゃんに期待し、露悪的なやり方で工房に引っ張り込んだ。
 期待通り工房には変化が起こり、彼自身アンちゃんの熱血と純情を自分のものにして、アンちゃん不在の工房で自分に出来ること、するべきことをひたすらにやり遂げている。
 その一つとして、クソみてぇな想念にがんじがらめになってた一人の青年職人に、本気でぶつかって仲間に引き入れる、エリオットらしくない”仕事”があるのが、僕は好きだ。

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第22話より引用

 そんな暖かな変化をペイジ工房にもたらした職人頭は、まじキツイ状況で誰かのために泣いているわけですがねッ!
 地に染まる看板一つで、惨劇を印象づける見せ方大変良かったです。
 どれだけ禊を繰り返しても消えることない赤い罪を、シャルに押し付けることで自分と同じ色に染めようとしているの、ラファルの妄執が嫌ってほど良くわかって最悪(最高)だな……キモいよー!
 シャルには永遠の寿命を突き刺す形でアンちゃんとの幸せを否定し、アンちゃんには永世者の玩弄を予期させることで心を揺らしてくるの、『とにかくカップルをバラバラにできればなんでも良いぞッ!』感が凄くて最悪(最高)だし、この問いは妖精と人間のカップル描くなら踏み込み乗り越えなきゃいけないネタでもあるので、良いぶっ刺し方だ。
 物語内役割を考えると妙手なんだが、人間相手のコミュニケーションとしては最悪中の最悪なので、評価が結構悩ましいぜッ!

 ラファルが押し付ける重く暗い闇に、まだ答えを出せないアンちゃんはかすかな光を求め、無邪気な妖精たちが集う食堂へと進み出す。
 ここでかつて、アンちゃんが見つめることで生まれた妖精が再登場してくるの、妖精を生み出してしまった側の責任を問いかける形になってて大変良い。
 アンちゃんはルスルを間近において、クズみたいな奴隷商人やクズ以下の妖精王に羽を奪われないよう、一緒に生きていく道もあった。
 しかしシャルやミスリルとともに過ごし、砂糖菓子職人という夢を追う彼女の物語に、ルスルの居場所はなかった。
 一度別れた物語が再びぶつかった時、彼女が生み出した妖精は魂の半分を無邪気に悪魔に預け、乱雑に踏みしだかれる未来を無邪気に微笑み、受け入れてしまっている。
 ルスルが植物の妖精であることが、ラファルが踏みつけた雪の中の花と重なって、アンちゃんの涙に説得力を与えている。

 ラファルは人類鏖殺・妖精解放の大義を掲げるが、羽を捧げさせて奪うその生き方は最悪な人間の戯画そのものであり、この残酷を目にすることでアンちゃんは、人間が妖精を当たり前に支配している世界の在り方と、相容れない自分の魂を自覚する。
 羽を奪い、無邪気で美しいものを虐げて成り立つ権力は、絶対に間違っている。
 それが間違っていること、自分たちが惨めで哀れな境遇でいることすら自覚できない、透明で美しい存在の代わりに、アンちゃんは泣く。
 それはアンちゃんが優しく無垢な存在だから流れるもので、それを失ってしまった(からこそ、アンちゃんに救われた)シャルは涙のかわりに、汚れた血を拭った禊の雫を、黒髪にまとわせている。
 その意味も理由も理解されないまま流れるアンちゃんの涙と、同じものをシャルも心から溢れさせているけども、愛する人のために罪を冒してきた(あるいは愛ゆえに世界に裏切られ、自分を裏切ってきた)シャルに、乙女のように泣く権利はないのだ。
 ここら辺、否応なく世知に長け、剣から生まれ剣を持つことしか出来ない戦闘妖精の男と、無邪気で純粋で若々しく在ることが許されている銀砂糖師の少女が、良く対比されていたと思う。

 そんな風に真逆だからこそ二人は身を寄せ合い、お互いを支えとして無惨な世界に立ち向かっていく。
 理解者多くやりがい満載な、ペイジ工房でお仕事頑張っているときには直視せずにすんでいた、不条理と残酷と狂気と妄執。
 世界を構成する、砂糖菓子のように甘くはないものをたっぷり叩きつけられて、アンちゃんも疲労困憊であるけども、こういう闇の中に光を見出し、それを美しい結晶に出来るのが、彼女の誇るべき”仕事”だと思う。
 ラファルに無垢なる忠誠(あるいは盲信)を寄せる妖精たちこそが、アンちゃんが苦悩の果てに形にするだろう銀砂糖を必要としている状況も合わせて、アンちゃんがもう一つ職人として、人間として先に進む萌芽を、感じる回でした。

 

 廃城に漂う、冷たく暗い絶望を打ち払うだけの灯火を、アンちゃんとシャルはどう見出し、形にしていくのか。
 剣を持って闘うものと、優しき指先で美しい夢を形作るもの……妖精と人が描きうる未来がどんなモノなのか、クライマックスに描く準備はしっかり整ってきました。
 次回も大変楽しみです。