イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「渋谷事変」:第31話『宵祭り』感想

 また一つ青春の遺骸を積み上げて、祭りの準備が終わっていく。
 さらばメカ丸こんちわ惨劇、止まることのない運命が加速する呪術アニメ第31話である。

 

 

 

画像は”呪術廻戦「渋谷事変」”第31話より引用

 いやシモンじゃんッッッ!!!!!!

 思わずフォントサイズいじり芸もするぐらい、全力で本家スタッフを招いての”グレンラガン”パロであった。
 あの話もよくよく考えると後ろ向きで暗いわけだが、メカ丸最後の戦いは希望と幻想を詰め込んでいかにもな熱血ロボアクション味に仕上がり、何も生み出さない無惨な終わりと成り果てた。
 そもそもドリルギュンギュン言わすのが、ニタニタ笑いで邪魔者ぶっ潰しにかかる悪役な時点で、メカ丸に勝ち筋なかったとも言えるが、活動限界=溜め込んだ呪力=友達との思い出をブチ込んでなお勝てない様は、最終的には根性でどうにかなったパロディ元とは違うルールで、このお話が動いている証明にも思えた。
 ……いや、単純にやりたかっただけなんだろうなコレ……。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦「渋谷事変」”第31話より引用

 というわけでサイズ感とスピード感満載、大変迫力あるバトルが展開されるメカ丸 VS 真人戦は、約束された惨劇の前座として終わってみればあっけない。
 血まみれのファックサインで最後の意地を示したが、現状夏油陣営に痛手を追わせた感じもなく、というか渋谷閉鎖の試験として便利に使われ、余裕綽々終わらされてしまって、メカ丸の無念が夕日に屍を晒して終わる。
 戦っている最中の大興奮と、終わった後の『冷静に考えてみると、全然何も為せてないなこのバトル……』という落ち着きの落差が、痛切と微かな快楽を入り混ざらせて面白い。
 願いや祈りや思いをさんざん積み上げて、一瞬で横から蹴り飛ばす残酷な語り口は”玉折・懐玉”でも同じなわけで、その悲痛に取りすがってなにか意味をもたせようとする人間と、嘲笑って飛び越えていく呪いの戦いを描く物語としては、必要かつ適切な語り口なんだと思う。
 むしろハイクオリティに力んだ作り込みが、そこら辺の残酷をしっかり裏打ちして、腰の強い物語を支えているというか。

 アニメーションとしての見どころはド派手なエフェクトでも激しく飛び交う立方体破片でもなく、色んな生き物の形をモーフィングして窮地を乗り切る真人だった気もするが、今回奴は常時嘲笑い続ける。
 ”真の人”を名前に背負うキャラがキモい嘲笑か、何も面白いモノないというシケたツラ、どっちかしかしていない所に、作品が睨みつけてる人間像が透けて面白い。
 何者にも為れて何者でもなく、例えばメカ丸が土壇場で思い出したような縁や絆など持たぬまま、何もかもを踏みにじりあざ笑う獣。
 それこそが人間であり、血をたぎらせ美しいものを思い出して闘う”人間”らしさを、あくび混じりに否定できる特権を持つ。
 そういう在り方を作品に刻む絵の具として、メカ丸の命がすり潰された感じがある。
 残酷だが、鮮烈な闘いだった。

 

 前回描かれた、呪力抜きのありふれた青春の終わりと同じように、三輪ちゃんは甘酸っぱい夢を語って届かず、夕日のオレンジは極めて残酷だ。
 たとえ死に別れるとしても、目の前の青春は本物だから、精一杯””人間らしく”。
 眩しく美しいお題目が、本物の激戦で今まさにぶっ壊されている現実を知らない道化っぷりが、なぜ呪術師が壁一つ作って地獄に挑んでいるかを、何より雄弁に語っていた。
 三輪ちゃんの青く真っ直ぐな思いは、かつて夏油の魂を打ち砕いた銃弾と同じ味わいでぶっ壊されて、事態は渋谷事変へと接続されていく。
 その中心にいるのが夏油傑の残骸で、今虫けらのように踏み潰した誰かの青春と同じものを、ぶっ壊されてそこに至ってしまっている構造は、たっぷり時間を使って青い季節を描いて見えやすくなった。

 傷つき壊されたからこそ、今柔らかな季節を生きている子ども達を守ってあげる教師的な優しさは夏油にもあって、しかしそれが適応される範囲はひどく限定的だ。
 誰にでも優しくなれるほど強くはなれなかった夏油傑が、幾度もぶっ壊され踏みにじられて行き着いた場所は、今回メカ丸と三輪ちゃんが守りたかった脆い思いの残骸を、何重にも折り敷いた先にある。
 ハロウィンで賑わう渋谷にごった返す、幾万もの人生や思いを全部ぐちゃぐちゃにかき混ぜて、何かを生み出し封じようとする巨大な蠱毒
 そのおぞましいスケール感を予感させるのに、酷くあっけなくメカ丸が終わっていくのは、適切な語り口だなと思う。
 『良い語り口』と言わないのは、ここで描かれた与幸吉の願いと思いをあっけなく蹴り飛ばすことが、”良い”わけないからだけど。

 

 

 

画像は”呪術廻戦「渋谷事変」”第31話より引用

 かくして新型帳の試験も終え、万聖節に地獄が宿る。
 渋谷を閉鎖した結界を前に、呪術師オールスターが続々現着していく様子、それを人類最強の呪術師が〆るまでの流れは、『こっから超ロクでもねぇ事態が始まっぞ!』というワクワク感が高まり、大変良い。
 メチャクチャ『結界の中は平穏です、血みどろのぐちゃぐちゃとかにはなってません』と強調するのが、すなわち『これから”そう”なります』という無言の前フリになってて、ホラーの文法としてあまりに正解なんだよなぁ……。
 見た目通りの平和な渋谷じゃない気配は、駅に吸い込まれる人混みとか闇に閉ざされる月とかできっちり見せているわけで、緩急の効いた良い始まりだと思う。
 『そもそもメカ丸の青春とその挫滅を”前座”にしている時点で、平和に進むわけがねぇだろ』つう部分含めてね。

 わざわざ話数を開け、黒幕が背負った悲嘆と絶望を色濃く描いて始まる。”渋谷事変”の壮大なスケール。
 呪術師も呪霊も呪物も、全力注入てんこ盛りの大惨事に必要な期待感を、しっかり高めてくれるスタートでした。
 ここに至るまでの前説が、凄いクオリティで三つもあるのが、凝った作りだよなぁ……全然焦ってない。
 物語の階段を一個一個、これ以上ないほど丁寧に踏み固めて進んでいく呪術アニメが遂にたどり着いた、秋の大本命。
 一体どんな風に綴っていくのか、次回も大変楽しみです。