イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「渋谷事変」:第32話『渋谷事変』感想

 帳が作る檻の中に、呪詛と人命と謀略を詰め込んだ大迷宮。
 鬼が出るか蛇が出るか、遂に渋谷事変本格始動の、呪術アニメ第32話である。

 前回輪郭まで描いた大惨事がどんな塩梅か、現在の虎杖悠仁の仕上がりをバッタ相手に確認しつつ見せる回となった。
 駅の外側でのんびり文句たれてる一般人が、想像もできないほどあっけなく人が死ぬ状況が、まだまだ前座に過ぎないのだろうなと思わされる不気味さが、なかなかいい具合に気持ちが悪い。
 張り巡らされた罠、姿を見せない強敵とぶつかる中で状況は加熱し、取り返しがつかない惨劇が生まれ、死んではいけない人が死ぬ。
 そういう限界点が日常茶飯事なのが、呪術師という仕事だってのは過去編で既に描かれ、そういう残酷が当たり前だからこそ、夏油傑は壊れた。
 彼の残骸が手づから組み上げ用意した、地獄は一体どんな形なのか。
 まずは虎杖悠仁の視点から切り取っていく、渋谷事変のスタートである。

 

 

 

画像は”呪術廻戦「渋谷事変」”第32話より引用

 というわけで、程よく強く程よく頭悪く程よく最悪な蝗GUYくんを生贄に捧げて、一級術師に肩を並べる虎杖悠仁の実力を、しっかり示す前半戦。
 呪術廻戦、メチャクチャ最悪に人死んでるってのにスルッとギャグ盛り込んでくるので、どういう温度感で話に向き合ったら良いのか戸惑うときがあるのが、独特の味で面白い。
 まぁ人間一人肉塊に変えられていようが、事態は立ち止まらず転がっていってしまうものだし、そういう残酷な世界の中でも全部終わった後は犠牲者に両手を合わせるのが、虎杖悠仁という人間である。
 こういう状況でも愛弟とキャッキャウフフする冥冥さんも大概行かれているが、どんな状況でも”立派な人間”で在れてしまう虎杖悠仁もまた、どっか壊れている……って判断をするのは、虎杖くんに失礼な感じもある。
 彼が異常な世界で正常であり続けているのは、破綻の結果ではなく努力の成果であって、順平にまつわる惨劇に傷つけられてなお、思い出を呪いにせず戦っているから、こうして呪いを祓って死者に祈るのだ。
 そのマトモさが、この惨劇を生み出した夏油にも確かにあって、あるいは未だどこか残っているからこんな事になっているのだと、過去編でたっぷり示した上でこういう話を始めるの、このお話っぽいなぁと思う。
 ”呪術”がいかにもジャンプ的な異能バトルの駆動装置になった上で、人間が呪いを生み出し呪いに人間が食われる世界の根源は揺らがず、敵味方あらゆる連中がそのルールに縛られている作り方よね。

 人食いの怪物を鎧袖一触殴り倒し、強引に道をこじ開ける強さと、”人造人間殺し”は冥冥に担当してもらう脆さ。
 両方を抱えて虎杖くんは、悪霊渦巻く迷宮と化した地下鉄へ踏み込んでいく。
 初戦は主役の強さを誇示する形で快勝したが、しかし確実に一人血みどろに食い殺されて死んではいて、今後闘いが激化する中でそんな犠牲は加速していく。
 呪霊との闘いはどこまで転がっても、そういう後味の悪さと血生臭さがつきまとって、スカッと爽やか異能バトルとして消費するには、なんとも重たく苦い。
 そういう作品の基本が、チラホラ顔を見せる闘いだったと思う。
 そういう戦いの中をどこまで、死人に手を合わせるマトモさを守ったまま虎杖くんが進めるかは、戦況の変遷次第ではあるが……まぁ厳しいよね。
 小沢さん相手に見せた透明度の高い善良さ、素直さが全部を救うわけじゃなく、あくまで虎杖悠仁一人の個性としてフラットに扱われて、誰かには救いになり、何かには無力であり、状況に応じて描かれ方を変える中立性は、結構好きだ。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦「渋谷事変」”第32話より引用

 教え子のそんな奮戦の裏で、いきなり策謀のど真ん中に引き込まれた五条先生だが……過去編で微かに見せた未熟さが消し飛んで、人類の規格外たる怪物性が前面に押し出されている感じがある。
 舞台の上では強者を演じ(半ば本音混じりだろうけど)殺戮に興じるけども、その準備をしているときには冷静にターゲットの脅威度を推し量り、自分の命が天秤に載ってる……しかもかなり自分に不利に傾いている事実を見据えている漏瑚のほうが、”人間味”があるとすら感じる。
 彼と夏油がロクでもない策謀を練るのが、シャボン玉飛び交うパステルカラーの公園なのが、いい塩梅にキモい緩急ついてて素晴らしい。
 理子ちゃんがぶっ殺された後の教団とかもそうだが、最悪な状況に白々しく清潔な絵面を混ぜると、血みどろより悪趣味が際立つってのを、良くわかって効かせてる印象。

 泡のように儚く危うい所に乗っかっているのは、弾除けとしてギュウギュウ詰めにされた一般人の命なのか、20分の時間稼ぎのために全霊をかける呪霊なのか。
 たった一人で盤面を制圧できる、五条悟の圧倒的な力が呪術界で恐れられているからこそ、彼はたった一人で事件の中心に投げ捨てられている。
 この腐った体制を変えるには、自分がどんだけ強くても無意味だと思い知らされて、彼は教師になった。
 同時に現役バリバリの人類最強でもあって、そういう怪物を相手取るにはこの程度の仕掛けでは全く足りないと、正統な不遜さで六眼が輝く。
 この期に及んで戦力の逐次投入、政治的身振りを重視しての腰の引けた対応を選んだ””呪術界”をぶん殴れない代わりに、五条悟が振り下ろす拳には、鬱憤ばらしの意味合いも多少は乗っかるだろう。
 漏瑚に同情したいところだが、コイツも人命なんとも思ってないクソカス呪霊なんで、せいぜい怪物なりの魂のきらめきを見せつけて、激しく散っていって欲しいもんだ。
 誰が敵で味方で、”人間味”がどこにあるのか解んなくなる酩酊感が、重苦しい呪詛バトルの中にフラッと立ち上がってくるのも、このお話特有の質感よね……。

 

 という感じの、渋谷事変開始でした。
 こっから各チームを飲み込み巻き込んで、暴力の嵐が加速していくわけだが……まだまだ発火点にはちょい遠い感じ。
 当たり前の青春を必死に生きていると、前段でしっかり強調されていた呪術師たちには生き残って欲しいと同時に、それがなんもかんもメチャクチャになる負のカタルシスを、心のどっかで待ち望んでいる感じもある。
 まぁどんだけ祈っても、どうせ超ロクでもないことはなるのだ。
 血しぶきと呪いの絵の具で今後、何を渋谷に刻んでいくのか。
 次回も楽しみですね。