イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ひろがるスカイ!プリキュア:第38話『大空を救え! 浮き島のひみつ』感想

 点に瞬く導きの光を、守れる優しき龍たちの翼を取り戻すべく、賢者ツバサの冒険が今始まる……。
 ファンタジー要素マシマシでお贈りする秋の個別回祭りファイナル、ひろプリ第38話である。

 ここまで結構いい感じに物語内部での各キャラの成長をまとめてくれた、ひろプリ最後の個別回。
 ツバサくんはどう書くかな~と思っていたら、久々のスカイランドに舞台を移し、前人未到の浮島に航行の安全を確保し、思い込みに翼を折りたたんでいた竜族に勇気を与え、非常にファンタジックな活躍を見せてくれた。
 ツバサくん自身が冒険から何かを学ぶというより、安元ヴォイスも魅力的なドラゴンさんに勇気の翼を与えて、みんなとともに進んできたからこそ得た強さで何かを掴む感じの話になった。
 航空力学・気象学の知識も交えたナビゲーションとか、実体験に基づいた勇気づけ方とか、ここまでのお話でツバサくんがどういう人になったのか、ワクワク確かめさせてくれるお話で、凄く良かったです。
 風を巻き起こす不思議な葉とか、永遠に輝く導きの輝石とか、ファンタジー力強い小道具もモリモリ出てきて、ひろプリに求めていた異郷探検要素が最後の最後、ギリギリで回収された感じもあったかな?

 

 つーわけでややダイナミックに導入をかっ飛ばし、スカイランドでの冒険に挑むプリキュア一行。
 飛べない鳥だったツバサくんが、本職の運び屋もおののく乱気流に果敢に挑み、知恵と観察力を武器に風を乗りこなしていく様子は、なんとも感慨深かった。
 後に事態を好転させていくのも、勇気を持って未知に飛び込んだ経験が生み出した説得力なわけで、キュアウィングは勇気のプリキュアなんだなぁと、しみじみ思える回だった。
 幕引きが見えてきてるこのタイミングで、各キャラクターがどういう存在だったのか思い返せる、仕上がりのいい個別回があったのは、ひろプリの良いところだと思う。

 同時にキュアウィングは優しさのプリキュアでもあって、ツバサくん自身が空を飛ぶのではなく、飛べないと思いこんでいるドラゴンさんに飛ぶための知恵と勇気を差し出し、エールを贈ることで状況を打破していく。
 今回のシナリオヒロインが、安元声の他人に恐れられるドラゴンだってのが、初の男性プリキュアを照らす鏡としてかなり興味深かった。
 ツバサくん自身は他者を遠ざけるマチズモから縁遠い、可愛らしい(あえてその言葉を使うなら”女性らしい”)少年なわけだが、自分が選んだわけでもない巨躯で他人から恐れられ、居場所がないと思いこんでしまうドラゴンさんの苦しみは、凄く男性的だと思う。
 『自分は飛べない』という思い込み以上に、ドラゴンさんを地面に縛り付けていたのは、加害的な存在だと地上人に思い込まれ、そのレッテル貼りを内面化して縮こまってしまっている、自己像の萎縮だった。
 ツバサくんのエールはそれを開放して、未知に挑み自分の目で確かめること、挑戦を通じてセルフイメージを刷新していくことを、強く後押しする。
 心の翼が解き放たれたからこそ、ドラゴンは失われた翼を再び掴んだのであり、キュアウィングとひろプリを象徴する”飛翔”という行為が、ただの現象ではなく心の開放を伴うスケールで描かれていたのは、とても良かった。

 

 ドラゴンたちの開放は、スカイランドが実態を知らないままタダ乗りしていた、浮島との公平な関係も再生させていく。
 安全な夜間航行を可能にする魔法の石は、勝手に光っていたわけではなく、ドラゴンたちが灯台守を頑張ってくれたからこそ、適切に機能していた。
 乱気流によって分断され、お互いの実情が伝わらなくなったことで伝説化してしまっていたが、スカイランドは浮島の龍たちが差し出す献身を、無意識に濫用する立場になってしまっていたわけだ。
 ツバサくんが『行けっこない』という常識を知識と勇気で乗り越え、ドラゴンに自らの翼で地上に降り立つ可能性を取り戻させたことで、スカイランドは浮島の真実を知り、恐れる必要のない隣人としてドラゴンを向かい入れ直した。
 ここではドラゴンたち個人が、望んでいた居場所を再獲得すると同時に、居場所となるスカイランドがより善い共同体として再構築され、過ちを是正されている。
 ツバサくん個人の心から生まれた働きかけは、非常に大きな公共的価値の再生を果たしたのだ。

 そういうデカい仕事ぶりを考えると、王国の賢者として向かい入れるのはやぶさかではない……つうか、国家を危機に陥れたテロリストに、体張って立ち向かって平和を取り戻した勇者の一人だからな、ツバサくん。
 直接的に戦う強さだけでなく、個人に働きかける影響力、未知を既知に変え断絶を繋ぐ決断力を、ツバサくんは既に持っている。
 こういう多角的な心の豊かさを共同体が認める形で、自己評価の低かったツバサくんが自分を誇れる礎が作られていくのは、とても良いことだと思う。
 ツバサくんが思うがまま、自分が正しいと思うことを貫くと、ドラゴンさんやスカイランドもまた、善いあり方を取り戻していく。
 そういう広範で理想的な影響力を持った存在を”大人”というのなら、ツバサくんはとても立派な”大人”に、もうなっているのだろう。

 

 そんなことをしっかり確かめられる、賢者ツバサの大冒険でした。
 飛べない鳥と己を僻んでいたツバサくんが、仲間と一緒に過ごす日々にどんな翼を手に入れて、色んな人や場所を乗せて高く飛べるのか。
 浮島とスカイランドの関係是正を話に盛り込むことで、スケールの大きな話が展開できていたのが、彼が手に入れた宝物を眩しく照らしてくれていて、とても良かったです。
 この物語が彼に何を差し出し、導いてこれたのか描く最後の一筆として、好ましいエピソードでした。

 そして次回は久々季節モノ!
 ガチ異世界人を交えたソラシド市のハロウィーンは、どんな祭りになるのやら。
 予告の段階ですでに可愛くて、イイもん見れそうで楽しみですね!