イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

葬送のフリーレン:第6話『村の英雄』感想

 震えながら握る斧に、新たに進み出す旅路に、宿る想いは一体何か。
 恐怖の意味を知る凄腕戦士をパーティーに加え、戦乱の北部へと進んでいくフリーレンアニメ、第6話である。
 前半でVS紅鏡竜の決着を付けて、後半は関所の街での一休み。
 シュタルクが仲間に加わることでフリーレンとフェルンの旅にどんな変化が生まれるのか、相変わらずの落ち着いたハイクオリティで紡ぎあげていくエピソードとなった。
 凄まじい作画で龍殺しの激闘が描かれもするんだけど、全体的に穏やかな雰囲気は新入り加入でも崩れることなく、むしろシュタルクの謙虚でトボけた味わいが、旅路に新たな味わいを足してくれる。
 伝説の魔法使いとその秘蔵っ子に、加わるだけの凄腕もしっかり証明し、斧を振るうだけではない交渉能力なんかも描いてくれて、シュタルクを頼もしく感じる回だった。

 フリーレントの二人旅では見えなかった、フェルンの新たな表情が同年代・同種族の青年と並ぶことで際立って、ここから何かが芽生えていく期待感に胸も踊る。
 故郷をクソ魔族に焼き払われて以来、年長者とばっかり付き合ってきたフェルンのぎこちない冷たさ、それが下らない日常を共有する中でちょっと解れていく手応えが、凄腕戦士の戦わない強さを教えてくれる感じでした。
 やっぱこういう、血圧上げない地道な勝負で延々勝ち続けてる作りはスゲーよな……派手な味付けに頼らないことで、異世界紀行をゆっくり噛みしめる贅沢な楽しみ方も許してもらえるし。

 

 というわけで前半は龍殺しバトルの続き、臆病な戦士が最初の勝利を手に入れるまでの物語である。
 第一印象でシュタルクを下に見ていたフェルンが、その腕前を認め弱さの奥にあるものを見定め、手を差し伸べて一緒に進んでいくまでの歩みを、丁寧に追いかけていたのが印象的だ。
 何しろフリーレンもフェルンも、感情が表情に出にくいので全体的に控えめだけども、何かを感じたり心を動かされたりする感性は普通に……あるいはその生き様を反映して常人よりも豊かに備わっている。
 シームレスに現代と繋がる回想から、自分が受け取った感慨を言葉にして伝え、新たな仲間が前に進む助けにしていく。
 その手触りが手渡された側を動かして、心を開いて何かを手渡し返す。
 こういうやり取りが、細やかな仕草を見落とさない演出に拾い上げられてエピソードに満ちているので、静かな話運びなのに凄く豊かな視聴感を生んでもいる。
 『ああ、この子はこう感じたんだな』という気づきを、作品ががなり立てるのではなく視聴者に見つけてもらう場面が多く、なおかつ親切で誤解が少ない作り込みが出来ている……コミュニケーションしやすい作風だと言えよう。

 アイゼンが弟子に誇った、下らなく楽しい旅。
 ヒンメル一行が成し遂げたことを思えば、それは歴史に残るほど大した偉業だった訳だが、当事者にとってはかき氷の魔法にギャーギャー騒ぎ立てる、十年分の日常の積み重ねだった。
 そういう下らなく愛しいものをぶっ壊すのが魔族という存在で、その根源を断ち切ったからこそフリーレンは伝説なのだ。
 お宝に大喜びするチャーミングな俗っ気を隠さないフリーレンは、大した存在として敬して遠ざけられるよりも、下らない日々を誰かと一緒に過ごしていくことを喜ぶように変わった。
 そう思える日々がヒンメルとの旅の中に……あるいは死に別れた後に永生者にあったからこそ、生きることを満たす下らなさを大切に、例えばどーでもいい日常魔法を必死にかき集めたり、勝手に死んじゃう短命種とともに過ごしたり、するようになった。
 合理主義者なアイゼンの心を変え、喧嘩別れした弟子に確かに通じていた下らなさの肯定は、ドワーフだけの専売特許ではないわけだ。

 

 恐れに震える心も、勝利だけを求めるならば”下らない”かもしれない。
 しかしアイゼンはそれこそが自分を強敵との戦いに導き、理不尽に故郷を焼いた運命に勝利させると、強く握りしめる。
 世間一般に流通する謬見が、”下らない”と切り捨てるものにこそ人間の本当があって、そういうモノを抱きしめながら戦わないと、何かを損なう。
 アイゼンはそう考え……あるいはヒンメルと旅する中でそう考えるようになって、シュタルクを鍛え上げた。
 そんな自分の弱さと向き合う生き方は愛弟子にしっかり生きていて、三年間生活をともにした村人の祈りを裏切らぬよう、少年は勇者を演じようと斧を握る。
 その強がりは下らない大嘘で、しかし彼だけが気づいていない事実そのものでもあり、覚悟を固めて挑んだ龍殺しは見事に成し遂げられる。

 魔族との緒戦に逃げ出したフェルンを助けず、覚悟が決まる土壇場でしか教えられないものを学ばせようとしたフリーレンは、アイゼンの愛弟子にも同じ教導を選ぶ。
 自分は、既に十分強い。
 持ち前の才を不断の練磨、優れた師によって研ぎ澄まされた若人たちに、戦う力は既に備わっているのだ。
 それを絵で理解らせるバトルシーンの冴えはまートンデモナイことになっていて、人間サイズの超兵器がビュンビュン暴れまわる絵面が大好きな人間としては、大変なごちそうだった。
 やっぱ人類の規格外たる超戦士が、圧倒的な実力を一撃に乗せて大地を砕く激闘を成し遂げる場面でしか得られない栄養って、アニメに確かにあるってばッ!
 こんだけの実力を持ちながら、謙虚の美徳と裏腹な臆病さを持ち続けているのが、シュタルクの可愛いところだ。
 そんな彼だから、進みだした下らなくも愛しい旅路に、望むものを得れると思う。

 

 ほいで後半は落ち着いた感じで、フェルンとシュタルクの歩みを関所の街に追う話。
 デート……というには地味で落ち着いてやや苦い距離感でもって、ジンワリとお互いを知っていく手付きが大変に良く、しみじみと味あわせてもらった。
 師匠兼育て親の気質を受け継いで、どこか超然と人間社会になじまないフェルンを補うように、シュタルクが情報収集や交渉事に結構手慣れている様子を、しっかり確認することも出来た。
 臆病者から超戦士へ、そこから世知に長けた曲者の顔もあると、フェルンと一緒にシュタルクのいろんな側面を受け取れる話運びは、キャラの深い所に共感をいだけて大変いい。
 焦ることなく歩調を合わせ、時に懐かしき甘味を食べつつ距離を詰めていく様子を、全部見せてくれる豊かさがずーっと続いているのは、やっぱ良い。
 作品世界をまるごと飲み干しているような、豊かな面白さがある。

 若者たちが押しても引いても動かなかった国境封鎖を、勇者の高名は簡単に押し開き、二年間の停滞は無事に避けられる。
 それはフリーレンが”大したこと”を成し遂げ、それが下らないこともひっくるめた人間の暮らしを守ってきたから……今度も守ってくれると期待されているから、開く花道だ。
 フェルンもシュタルクも、そういう実績と期待はまだ持っていない。
 しかし華やかな祝福を背負って旅立っていく高揚感を味わい、戦乱の北部に進み出していく中で、否応なくその名声は高まっていくだろう。
 何しろ素養がある上に、バキバキに鍛えているからな……バトルのほうが、二人を放っておかないだろう。
 所々にフリーレンと若者たちの価値観、時間感覚、あるいは人生経験の差を見せつつも、二度目の旅の仲間として下らないことも大したことも、全部一緒に手に入れていくんだろうなと、思える描き方をしているのが良い。

 

 子供のようにはしゃいだかと思えば、賢者のように若人を導き、今まさに青春をひた走るかのように瑞々しい表情も見せる、フリーレンの複雑な魅力。
 それをここからの旅はより色濃く描いてくれると、しっかり思わせてくれるエピソードでした。
 大変良かったです。
 フツーの1クールアニメなら折返しの所まで話が進んだけども、一切焦ることなく丁寧に丁寧に、穏やかでありながら確かな手応えのある作風を崩さず面白いもの見せてくれて、大変いい感じです。
 アクションも美術も一切緩むことなく、むしろ新たな麗しさをバリバリ顕にしながら進んでくれているの、大変にありがたい。

 関所を越えて進む北の旅は、どんな下らなさと愛しさ、過酷な試練とかけがえない成長に満ちているのか。
 期待しかねぇぜ……次回も楽しみッ!!!