イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「渋谷事変」:第38話『揺蕩』感想

 猛者、怨霊、怪物、邪神。
 高楼立ち並ぶ蠱毒の壺と化した渋谷に、数多の血が飛沫く呪術廻戦アニメ、第38話である。

 冥冥 VS 疱瘡神、呪術師連合 VS 陀艮と、二つのバトルが並走する今回。
 呪術廻戦最大のケレンといえる領域展開の面白さが、アニメならではの表現力で力強く迫る回となった。
 勝敗の天秤がどう揺れるのか先が読めない、同時多発限界ギリギリバトルの面白さも相まって、犠牲者の多さと状況の悲惨に目をつぶれば、なかなか血湧き肉躍る展開である。
 ワクワク心躍る異能バトルをやりつつ、スポーツ的な力比べの爽やかさはどっかに遠くて、おどろおどろしい呪いの質感、暴力振るえば血が滲む当たり前の感覚が常時つきまとうのは、このお話の好きなところだ。
 秘技”神風(バードストライク)”一閃でひと足お先にラスボスに挑む、冥冥のあっさり感と、血は飛び散り腕はもがれる泥臭い激戦を特級呪霊と繰り広げている、呪術師四人組の対比も良い。
 一手一手が命がけ、能力と策謀の限りを尽くして死闘に挑む張り詰めた感じが、まさかまさかの魔人降臨、伏黒甚爾電撃参戦でぶち壊しにされて続くのも、最高の引きだ。
 いやー、甚爾楽しそうだったなぁホント……。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第38話より引用

 というわけで冒頭を飾るのは、言葉なく呪詛を体現する疱瘡神と当代切っての武闘派術師の対決。
 存在するだけで不幸を呼び込む疱瘡神のオートマティックな怖さが、地下鉄線路内に突如展開された湿度の高い呪的空間と良いハーモニーを奏でて、個人的にめちゃくちゃ好みの画作りだった。
 呪術を元ネタにした異能バトル要素も濃いこのお話、なんだかんだ正統派の”呪い”がどういうものか、時折思い出してしっかり良い作画で動かしてくれるので、そういうのたっぷり食いたい自分としてはありがたい限りだ。
 条理を無視して棺の中に引きずり込み、石に埋めて呪い殺してくる”現象”の唐突な理不尽さ、コミュニケーション不能な異質感が、パッと現れては消える演出でシャープに描かれていて、見ごたえがあった。
 つうか怖かった。
 この後バトル要素は更に濃くなって、Jホラー的味わいは薄れていく傾向があるのだが、二期第1話前半にも分厚かったこの湿った魅力は、僕としては幾度でも味わいたい。

 勝負の方は”現象”でしかない疱瘡神のやり口を見破り、対領域要因である憂憂のイカれた忠誠を最大限活用して、冥冥の貫禄勝ち。
 システマティックに呪いを繰り出してくるブレなさは、変化する状況に対応する能力の欠如ともなり、ルールを見破られると脆い呪霊の弱点を、歴戦の呪術師が上手く貫いた形だ。
 無論見破っただけで勝てるわけでもなく、”神風”という切り札を用意していた冥冥の実力あっての勝利なのだが、不気味で息苦しかった異形の空間が払われた後こそ、真の魔境が顕現する。
 地下鉄の暗がりにうっそりと立つ、偽夏油が風格満点に描かれていて、ここも大変良かった。
 疱瘡神の領域を打ち破り、現実に帰還したから一安心……と思いたい視聴者の心理に先回りして、『真の地獄はここ、渋谷にこそあるんだよ』と突きつけられたような見せ方だった。
 疱瘡神の領域を青く染め上げていた呪いの色が、偽夏油を変わらず照らして、むしろこっからが本番だと教えてもいる。
 色々強いところのある作品だが、カラーリングが冴えて適切であり続けているのは、呪術アニメの強みだよなー。

 

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第38話より引用

 一方慣れ親しんだ渋谷駅は未だ現実の色合いを残しながら、受胎の吐き出した髑髏の山で凶悪な色合いに染まり、ここもまた既に地獄なのだと語ってくる。
 一瞬だけ『お、可愛いかも』と思った陀艮幼生が、ジジイパンチで骸骨吐き出して『こ、このクソ呪霊ッ!!』ってなる流れ、なんでコイツラが人類不倶戴天の敵なのか良く解って、めちゃくちゃ好き。
 そんなジジイのAnimeな術式も、アニメだからこその演出とばっちり噛み合って、スゲー分かりやすくなってた。
 ここらへんは榊原ナレーションを解禁して、音声言語での補助線を積極的に入れ込むようにした、二期からの方針変更も生きてる感じ。
 種も仕掛けもある”最速”は、術として研ぎ澄まされた異能がどんなものか良く教えてくれて、そういうの全部関係なく剛腕でなぎ倒していく甚爾くんの晴れ舞台を、ひっそり準備してる感じもする。
 間違いなく強キャラなんだが、最悪のフィジカルギフテッドが冥界からとんぼ返りしてくる悪夢のハロウィーンで、無双噛ますには実力が足りなんだ……。

 押せ押せムードを一気にひっくり返す、陀艮の領域展開もめっちゃいい色合いで描かれてて、とっても良かった。
 南国の楽園みたいなパキッとした色合いの中で、無限に召喚され続ける式神は絶対的な死を孕み、強者達が次々ぶっ倒されていく展開の血生臭さと、馴染まない不気味さが踊る。
 たちの悪い冗談みたいな風景の中で、流れる血はどうしようもなく本物っていうズレが、気持ち悪いからこそ気持ちよかった。
 『ああ、呪いってこういう感じだなぁ……』と思える嬉しさ。
 女嬲ってたクズ野郎相手には、あんだけ怒りの鉄拳正義の制裁ぶち込んでいたナナミンが、眼鏡ぶっ壊されて血みどろってのも、いい具合に絶望感を煽るよね。

 

 ここで伏黒くんが領域使いの面目躍如、あえて死地に飛び込んでの命賭けで仲間の窮地を救うべく、鼻血ブーで頑張るのも好きだ。
 シビアでクールな現実主義者ッ面を頑張って維持しつつ、『命は賭けても、捨てるつもりはありません!』とあくまで前向きに、自分が出来ること、やるべきことに全霊を注ぐ静かな熱さが、やっぱ良い。
 ここでの伏黒くんは領域の綱引きに専念して、ダイレクトな殺し合いには噛まないわけだが、むしろそういうサポートの分厚さこそが勝敗を分ける感じも、力押しだけで終わらないバトルの奥行きを生んでいる。

 ……とかいってたら、力押しで何でもかんでも押し流す怪物がぬるりと登場なんだけどさ。
 どんな闇よりも薄暗い眼窩に宿る、狂気と歓喜の色合いも鮮やかで、大変良い再登場キメたなー甚爾くん……楽しそうだねぇ。
 オガミ婆の外法で再誕を果たしたこの凶漢が、どんだけイカれた大暴れを特級呪霊相手にぶちかますのか。
 覚醒前とはいえ、”あの”五条悟を一回は殺した男が、本来どこまでの実力者だったのか……数年の時をジャンプして、最悪の答え合わせが始まる感じもある。
 四人がかりで血みどろの大乱闘、現役世代を一蹴した陀艮をどういう塩梅で噛ませ犬にするのか、今から残酷ショーが楽しみである。
 いや、俺は原作読者だけどさぁ……このヒキから陀艮くんが生存できるルート、可能性世界のどこにもねぇだろッ!

 

 そんな感じで、色んな場所でドンパチドンパチ、渋谷はすっかり地獄の檻ってお話でした。
 五条悟戦ではあんだけ画面を埋めていたモブが、気づけばぱったりと消えてるのが不気味だし、そんな足手まといを庇ってられない只人の限界を、絵で語ってる感じもあるね。
 誰も予期していなかった魔人の乱入で、さらに混迷の色を増す渋谷事変。
 陀艮くんの墓前に供えるお魚を準備しつつ、次回を楽しく待ちます。