イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

オーバーテイク!:第5話『炎のランナー ―It's just luck.―』感想

 一等賞品黒毛和牛のために、競って見えてくるなにかのために、走れレーサー自分の足で!
 秋の御殿場を健康的に走り語る、肩の力が抜けたコメディ回、オーバーテイク! 第5話である。
 全体的にゆる~い雰囲気で進行し、運命と関係性がバチバチ火花散らしていた今までの空気とは結構味が違うが、やられてみると結構良かった。
 ここに至るまでの四話で、それぞれの重荷を抱えつつなんとか走る姿、それを運命的な出会いの中で分かち合って新しい場所に進み出す姿を見ているから、気の抜けた徒歩での走りにむしろホッとしたというか、こういう時間が彼らにあって良かったな、というか。
 今回はある種のセルフパロディ回でもあり、普段はマシンに運命を預けてギリギリの勝負している連中が、自分の足でコースを走る中で、見えなかった表情が描かれていく。
 座って茶飲み話しててもおかしくない内容なんだが、それでも”走らす”あたりレースのアニメというべきか。
 肩を並べて話す余裕があるスローペースで、各キャラクターの人間味を削り出してくる感じのエピソードは、話単体というより今後どう活きてくるかで値段が決まる感じもある。
 このゆったりした展開の中、お互いの顔や事情を見つめておいたことがこの後の物語で、どう効いてくるのか。
 ふにゃっとした展開の中、結構布石が打たれてる回でもあるなと感じた。

 

 

 

 

 

画像は”オーバーテイク!”第5話より引用

 というわけで、コミカルなマラソン大会の中いろんな人達の肖像が切り取られていく。
 亜梨子と小太郎の幼馴染チーム。
 レーサー三人の不思議な距離感
 小牧のおじさんとベルソリーゾオーナーに漂う、かすかな苦味。
 悠くんと孝哉を話しのど真ん中に据えるここまでの作りだと、なかなか踏み込めなかった所にカメラが回り込んでいて、色々新しい発見があったのは良かった。

 小太郎くんと亜梨子ちゃんは恋に発展しきらない絶妙な距離感で、サブキャラながら見ていると楽しい二人だ。
 亜梨子ちゃんの恋心は露骨に春永くんに向いているが、当人は極めて爽やかに公平に、個人的感情を誰かに向けることなくNo1を爆走しているので、あんま実る気配がない。
 そんな報われぬ恋情に湿った視線を向けるわけでもなく、しかしお互いを大事に思っている様子はドタバタ走る姿からも伝わってきて、なかなか面白かった。
 この話の中軸は、悠の走りを追う中で孝哉が頑張り方を思い出し、孝哉と触れ合うことで悠が置き去りにしていたものを取り戻していく、二本柱で駆動している。
 だから直接走らない脇キャラが食い込む余地はあんまりないんだが、この幼馴染コンビの気持ちいい距離感が今後なにか変化していくのか、変わりなく穏やかなのかは、今回の描写でちょっと気になるようになった。
 ステアリングを握るものも、ファインダーを覗き込むものも、それぞれの勝負があって必死に走っていると描く話なので、この二人を通じてもっと色んな人生が書けると、多角的な魅力が出るかなーと思う。
 素材としての良さはここまでのお話と、今回の掛け合いから感じ取れたので、膨らます余裕があるのならいい塩梅に煮込んで欲しい。

 あと笑生オーナーと小牧のおじさんが、財布の分厚さ関係なくいい塩梅の関係維持してる描写も、二人とも好きな自分としては嬉しかった。
 貧乏プライベーターの奮戦を描くこのアニメ、金満ライバルチームのオーナーもエースも嫌味なく描いて、別の角度からレースに挑んでいるだけとずっと書き続けているのは、品があって好きだ。
 笑生さんはサラッとした態度に確かな情熱を秘めて、レースに勝つべくして勝ちに行く。
 結果を出せなかった徳丸くんを切り捨てる不要な焦りもなく、肩の力が抜けたイベントに引っ張り出してメンテナンスしようとする、粘り腰の育成姿勢も良い。
 これが雨の日の悲劇を後悔し、重荷と背負っての生き方だとすると、思わぬ所で主役と縁が繋がり、なかなか面白い。
 春永くんが唐突にパナシてきたニキ・ラウダの逸話と合わせて、かつての惨劇が再演されそうな気配も漂ってきてるけど、過去に縛られず未来へ走り抜けていく力強さは、孝哉のトラウマ克服と合わせて重要なのだろう。
 それは運命の遺児である悠くんだけでなく、オジさん達なりに親友の死に傷ついてなお生きてる人たちにとっても、大事な勝負になるはずだ。

 そんな運命の結節点の、当事者になりそうなレーサー三人組。
 真ん中に立つ春永くんはあくまで気さくにカラッと、なんにも考えてないように思える明るさで、あらゆる人に公平に向き合う。
 それが勝負をギリギリで分ける運を、自分の方に引き寄せるために選び取った生き方だと、彼自身の口から語らせるのは結構大事だったと思う。
 こういう考え方をする人、トップクラスの現代アスリートには結構多いなって印象で、現状F4の頂点に君臨するスーパー高校生が”いい人”なのは、このアニメの好きなポイントだ。

 いかにも行事参加しなさそうと、孝哉オジさんから勝手なイメージを持たれていた悠くんが、思いの外マラソン大会に乗り気だったり。
 どす黒い勝負の沼に魂ごと引っ張られていそうな徳丸くんが、肉体労働の苦労の果てに今のポジションを獲得していたり。
 レースに邁進しているとなかなか削り出せない、各キャラクターの”らしさ”を視聴者に見せ、キャラクター同士に共有させる回だったかな、と思う。
 このスローペースな競争を通じて、お互い『あ、こういう奴なんだ……』と分かったことが、より高速で、危険で、余裕のないギリギリの勝負にどう反映されてくるのか。
 結果だけが全てのトップ層ではなく、プライベーターが夢を持つ余裕がギリギリ残るF4を舞台にしている物語、それぞれの人となりが走りに影響してくる余地は、結構あると思う。
 つーかそっちの方が、ドラマとしてみると面白いしな……。

 寡黙でストイックな孤独に自分を追い込み、父の遺志を継いで表彰台を目指してきた悠くんは、孝哉と出会ってから少し柔らかくなった。
 今の自分を支えてくれるオヤジに賞品のうなぎ差し出す孝行息子の顔を、結構素直に差し出せるようになったのは、出会いの良い影響なのだろう。
 それは孝哉にもお互い様で、取れないはずの人物写真が悠くんを題材に取ると、シャッターが切れてしまう。
 『撮れてしまう、体が勝手に動いてしまう』という無意識の行動は、彼をF4沼に引きずり込んだ悠くん自身が、抑えきれない衝動に突き動かされて走っている様子と良く似ている。
 失われた夢が再生する触媒、思わず体が動いてしまう理由として、悠くんの特別さがしっかり描かれているの、主人公の主人公たる資質を鮮明に書いていて好きだ。
 そしてそんな眩い情熱は、F4ドライバーだけの占有物ではない。

 

 一心不乱に、本気で夢に頑張る姿が人を動かし巻き込んでいく様子を、肯定的に描くこのアニメ。
 孝哉が無意識に切り取った素晴らしい写真は、彼自身が応援されるに足りる情熱をまだ失っていないことを、主役になれる資質を、穏やかなコメディの〆に描いてきた。
 若きドライバーと夢破れたフォトグラファー、年も夢も違う二人が共鳴しながら未来に進んでいく様子がちゃんと描かれていることで、題材に選んだF4が幅広い影響力を有し、サーキットの中でも外でも人生を走るキッカケになる特別さが、いい手応えで見てる側に迫ってくる。

 走ることは素晴らしいけど、それだけが全ての答えではない。
 少し違った雰囲気でキャラを”走らせた”今回、作品が持っている広範な視線が確認できた感じで、とても良かったです。
 俺は『どんなやつだって頑張っているし、頑張って良いんだ』と告げてくれるアニメが、やっぱ好きなので。
 次回も楽しみです。