イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

星屑テレパス:第10話『泣虫リスタート』感想

 私たちはもう、この暗い荒野からしか星に進み出せない。
 暗さや痛みや弱さから目を背けず、孤独な宇宙で出会えた奇跡を涙ながら抱きしめていく少女たちの記録、星屑テレパス第10話である。
 前回どん底からの再出発に進みだした海果が、弱気な態度の奥に眠っていた燃え盛る情熱をガンガンぶん回して、天使ッ面してた遥乃の闇を開いていく。
 灰色の孤独に揺蕩っていたのは皆同じで、誰かに見つけてもらう瞬間を今も待っているのなら、閉ざされたガレージの奥に思い切って踏み込むしかない。
 一回挫折の地面に着陸したロケット同好会が、何をえぐり出しながら前に進んでいくのか、コミカルでチャーミングな雰囲気を取り戻しつつ描くエピソードである。

 ユウが海果実に差し出した無条件の受容と理解と同じように、遥乃の濁りのない優しさはとても心地よく、都合よく、嘘っぽかった。
 その奥に何もなく『この子はそういう子です』でも別に良いのだが、姫たる影が確かにそこにあって、満ち足りているように思えた少女にも欠落と孤独があって、その影こそがお互いを繋いでいくというのなら、遥乃からも重たい本音を絞り出さねばいけない。
 前回彗に受け止められ進み直した恩義を返すように、海果は涙ながら自分の至らなさに向かい合い、それでも確かに成し遂げられたものを受け止め、なりたい自分へと真っすぐ進んでいく。
 そんな海果に不確かな自分を見つけてもらったユウは、持ち前の直感性を適切に発揮し、遥乃が何を隠しているか突き止め、海果がそこに踏み込む道をつける。
 ふわふわ優しい世界に包まれて、砂糖菓子みたいに甘くて歯ごたえのない交流で満ち足りていたように思える少女たちが、夢の残骸をあさってもう一度、今度は汚れも痛みもあるコミュニケーションを再生させていく。
 その時、地べたに叩き落されたからこそ見つけられた情熱は確かに伝播していって、隠されていたものを暴き新たな色をつけていく。
 何かが好きであること、何かを求めること。
 自分のダメダメなスピーチを見返すことでしか、進み直せないと思い詰めた海果の心に燃えている炎が、遥乃のロケットに点火して天使を空までぶっ飛ばす。
 それが瞬がこもる、暗いクローゼットをこじ開けるにはもう少し時間がかかるが、しかし確かに思いは届く。
 届く場所まで、少女たちはお互いを押し上げていくのだ。
 そういう青春のうねりが、可愛らしくも力強く描かれていて、大変良かった。

 

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第10話より引用

 地面に足をつけるこの行為が、全てを終わりにする墜落ではなく新たに始めるための着地だと分かれば、周りの人たちの暖かさにも気づき直せる。
 かわいいかわいいSD演出が戻ってきなどしつつ、前に進むべき自分を掴み直した海果はようやく、惨敗だと思っていた地区予選で自分たちが何を生み出してきたのか、見つめ直せる場所に立つ。
 クラスメートが凄い凄いと、天を貫くロケットを褒めてくれるのは遥乃がそれを記録してくれていたおかげであり、自分が投げ捨ててしまったものも誰かが覚えてくれているから、もう一度歩き直せるありがたさが確かにある。
 自分のことは自分が一番良く解ると、扉を閉じて灰色の孤独に身を投げる独善からは寂しさしか生まれないわけで、同好会に集ったパステル色のきらら少女全員が、実はそういう場所から自分を始め、今もそこに隣接しながら灰色に染まらないよう、必死に戦っていることが解る回でもある。

 笑原先生が海果と語らうシーンがマジで良くて、学生が自分で自分を前に進めていく強さを信じ、自分にできる後押しを最大限頑張りつつも、あくまで学生個人が自力で立つ尊厳を大事に、教師としてあるべき距離感を探っていた。
 教師である自分に出来ないこと、踏み込めない領域が沢山あって、目の前の内気少女がそこを任せられる精神状態にあるのか、自分の目で確かめた上で託す選択をしているの、ホンマ子どもらのこと大事に思ってくれてると伝わり、極めてありがたかった。
 思春期なナイーブな感性が挫折に擦りむけ、赤い血を流している時隣で『解るよ……』と言える特権は、そこを通り越して大人になった自分ではなく、現在進行系で血まみれの仲間たちにこそある。
 そんな青春の決闘場に何を持っていくべきか、自力で学校に来て、砕け散ったものにも生み出されたものにも素直に向き合おうとしている海果に、『お前は瞬より強い』と伝えてくるのも、マジで良かった。
 前回彗が告げたように、ロケットは高く雄々しく美しく確かに飛んだわけで、何も出来ない己を自虐することで取りこぼすもの、救えないものがいっぱいある。
 そこで立ち上がるのが正しいわけだが、間違えている自分/そこから進み直したい自分を直視することは極めて大変で、涙ながらの頑張りを誰かに理解ってもらえなきゃ、リスタートなんて夢でしかない。
 そんな痛みへの処方箋を先生は優しく真っすぐ突き出して、教え子に出来ることを誠実に差し出していたので、大変偉かった。

 墜落したまま戻ってこない瞬を思い、暗い影をまとう遥乃に最初に気づいているのは、やはり海果ではなくユウだ。
 コミュニケーションの感度には個人差があり、ユウの鷹揚な優しさに抱きとめられる側である海果は、ダメダメスピーチを泣きながら直視して、ザリザリした現実の触感を自分の足で確かめている真っ最中だ。
 だからまだ器用に、自分の周りに何があるのか、自分に大事なものを取り戻してくれた人が何を背負っているのか、見ることは出来ない。
 しかし一歩ずつ、泣きながらでも進んでいくことで、強く優しくありたいと願った自分に近づいていくことが出来る。
 そこら辺のグラデーションを、丁寧に丁寧に積み上げている手触りが、やはりこのアニメ良い。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第10話より引用

 瞬が閉じこもった心の城塞を明けるには、まだまだ下ごしらえが足りない状況なのを確かめた上で、まずユウが遥乃の心をノックする。
 海果に特権的に差し出されていた、心の奥底まで踏み込み理解するおでこぱしーを遥乃に使えるようになったのは、不安定な自分を繋ぎ止めてくれる地面である、海果との関係が強固になったからだと思う。
 朗らかであけすけな態度に反して、ユウって相当暗くて湿度高いキャラで、そんな自分を見つけてくれた海果への思いって尖って深い感じあるんだよな……。
 だから理解る/理解ってあげる特別さを海果限定にして関係作ってきたわけだが、一番大事な足場が愛によって固められたので、一対一のクローズドな関係から半分踏み出す余裕ができた……みたいな印象。

 問答無用で心を暴く、おでこぱしーという異能は天使が抑え込んできた暗がりに目を向けさせ、遥乃は勝つだの負けるだのに本気にならないことで、抑え込み守ってきた己を吐露していく。
 俺は『コイツが菩薩になってくれないと、問題児だらけの集団が落ち着かないからなぁ……しばらくは傷ひとつ受けず何でも受け入れる、天使みたいな顔しておいて!』と物語の都合に抑え込まれていたキャラが、『アタシだって人間だよッ!!』と叫ぶ……叫べるようになる展開が大変好きなので、ここで遥乃が己の影を表に出したのは大変良かった。
 共通点がまったくないと遥乃の朗らかさを拒絶した瞬が、今身を置いている灰色の暗がりが遥乃の心のなかにもあって、実は同じ痛みや弱さを抱えたからこそ特別に出会い、隣り合って手を繋いでいる。
 そういう構図を暴くには、宝木遥乃が天使なんかじゃねぇことを暴き、弱さや暗さを叫び、どんな自己像に己が囚われているか教えて貰う必要がある。
 そのキッカケとして宇宙人のエンパシー能力を使うのは、サイコダイブものっぽい味もあってこれまた好みである。

 ユウがこじ開けた心の窓に、海果は溢れる思いを不器用に言葉にしながら、意志を込めて踏み出す。
 彗が確かめてくれた自分の足元は、遥乃と共にあった思い出、差し出してくれた優しさで出来ていて、お前は弱虫でも嘘つきでもなく、確かに何かを成し遂げてきた。
 ここで海果の叫びが遥乃に届くのも、その手応えが彼女自身、彗に教えられて立ち上がった自己像の再生と重なっているのも、めちゃくちゃいい。
 誰かがしてくれたことを今度は自分が成し遂げて、目の前で壊れつつある大事なものを必死に繋ぎ止めて、何も無駄ではなかったと、一緒に進んできたのだと再生させていく物語の熱は、スタンダードで力強い。

 海果が差し出している真心が、携帯電話に反射する笑顔として演出されているのが僕は好きだ。
 それは失敗も成功も、遥乃が記録していてくれたからこそもう一度確かめられるものを捕まえているメディアであり、これがあったからこそ海果は、自分がどんな存在であるのか、何を成し遂げ何を求めるのかを、鏡写しに確認できた。
 そんな海果が今度は、自分は勝ち負けの辛さから逃げていたのだと己を否定する遥乃の鏡になって、自分が何を受け取ったのか、それがどれだけ嬉しかったか、不器用ながら必死に伝える姿に、熱があって良かった。
 痛みに耐えかねて瞳を閉ざし、自分も世界もこんなもんだと諦めてしまう闇をぶっ壊すには、無自覚に差し出していた強さと優しさを受け取った側が、それを思い出させて自分の輪郭を取り戻させる必要がある。
 彗とユウにそうしてもらって、自分の足場がどこにあるのか思い出した海果が、今度は天使の仮面の奥にある闇を暴かれた遥乃の鏡になるから、携帯電話には海果の笑顔が写っている。
 それは夢に突き動かされて前に進む人の眩い姿であると同時に、それに惹かれ一緒に進んできた自分がどんな存在だったか、愛しく思い出すための手がかりなのだ。
 だから遥乃は、灰色の宇宙で一人きりだった自分の手を引き、今自分がどんなン存在だったか思い出させてくれた少女に、頭を寄せる。
 豁然と目を見開き、誰かの言葉を受信して自分の現在地を思い出す仕草が、彗と向き合った時の海果と重なっているのと合わせて、めちゃくちゃ良いと思う。

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第10話より引用

 瞬が今閉じこもっている≒戻ってしまっている暗い場所は、勝ち負けの残酷さに傷ついた幼い遥乃が一度、自分を押し込めようとした場所だ。
 その外側に座って、世界がどんな場所なのか、自分がどんな存在なのか、自分よりよく見える他者の視線でもって教えてくれる存在がいたから、遥乃は誰かを助ける天使になった。
 でもそれは踏み込む痛みに背を向けることとイコールではなく、誰にも彼にも良い顔する八方美人な生き方でもなく、夢に向かって真っ直ぐ進む誰かの側で、自分も夢を見る熱い生き方だったはずだ。
 遥乃がおじいさんにどれだけの宝を手渡されていたか描かれるほどに、それを喪っても自分の力では灯台にもう一度灯をともせず、燃え盛る情熱を持った誰かが何かを動かしてくれる瞬間を、座って待っていた灰色の孤独が際立ちもする。

 何でもかんでも受け入れサポートしてくれる、便利な天使にはそういう至らなさがあり、自分ひとりではどうにも動き出せない不自由があったからこそ、海果との出会いが持つ意味は大きい。
 それを再確認し、あの時自分はどんな自分になりたかったのか思い出すことで、遥乃は心のロケットを点火して、思いっきりぶっ飛ぶことを選ぶ。
 彗に火を付けられ、自分の失態を泣きながら見つめなきゃ再出発できねぇパンクス気質を開花させた海果の熱が、実は同じく燃え盛るパンクスだった遥乃に燃え移って、ガンッガンイカれた行動をきらら美少女取り出す連鎖……やっぱ最高。
 俺は砂糖菓子みてぇな美少女が、体内の熱をせき止めきれず暴れ狂う瞬間を見るために、きららアニメみとるからよ……。

 

 そしてあんだけ威勢良いことブッこいとった雷門瞬、闇の中で蹲って微動だにせずッ!
 意地がこもってるはずのゴーグルをゴミ捨て場に投げ捨て、ダチが開け放ってくれた光への出口にも身を寄せず、グジグジウジャウジャ後ろ向き……テメー一体何なんだッ!
 生粋のパンク野郎として覚醒した遥乃が、天使のお顔を引っ込めてビシバシ殴りつけにいく(かわいい)の、こっちのフラストレーションに先回りしてもらってる感じもあって良かったな。
 かつての自分はゴミだったと、何もかも投げ捨てて自虐と孤独に沈もうとしているこのタイミングで、守らなきゃいけない大事なものを遥乃が回収して、好きだからこその嫌悪を真正面から叩きつけたのは、”何でも大好き”の呪いから解き放たれたパワー感じた。

 遥乃が踏み込み叩きつけた本気に、向き合うだけの気力が今の瞬にはない。
 というか元々そういう、人格の足腰が弱いところをトンチキ同好会に惹かれ進み出して、自分一人結果を出さなきゃ何もかも終わりだと思いこんで、地面に墜落して痛すぎて動けないって状況なのだろう。
 自分で語るとおり、雷門瞬は弱い。
 しかしその弱さも情けなさも、全部ひっくるめで受け止め求めてくれる光は、閉ざされたガレージの向こう側にずっと瞬いている。
 後はそれに気づいて愛に飛び込めるか、否かってだけなんだが……瞬攻略マジで面倒くさいよッ!!
 散々自虐しているこのクソアマ、ド素人を率いてロケット飛ばすのに何が必要か、自分なり必死こいて考えぶつかりながらも伝えて、実際宇宙をぶち抜くスーパーロケットを作り上げて、大した女なのだ。

 でも(かつての海果と同じように)大した自分を認めずゴミ箱に投げ捨て、自分が成し遂げてきた物語を肯定できないまま、暗い場所に一人きり座り込んでいる。
 それは……とても哀しいことだろう。
 不器用ながら頑張ってきた人がかつての自分を否定して、暗く苦しい場所に座り込んでいるのを、同じく灰色の宇宙で一人きりだったと、そこからお前の光で這い出せたと思っている女たちが、救わなくて良いんですかッ! って話よ。
 コミュニケーションという話の軸に、救済と熱量つー俺好みのネタが強めに絡まってきて、今大変いい感じのグルーヴを受け取っている。

 雷門瞬はこの暗い孤独から進み出して、大間違いな自分が確かに何を成し遂げたか、他者を鏡にもう一度見つめる必要がある。
 そこへと踏み出す道のりは、くっそ面倒くさいメソメソ弱虫女を相手取り、手間と時間がかかりそうだ。
 だが人間が生きるってことは、灰色の宇宙から愛のロケットぶっ飛ばす旅は、キラキラ綺麗なものばっかりじゃない。
 挫折も敗北も、何もかも終わりだと思いたくなる墜落も、自分が確かに成し遂げてきた歩みへの帰還であるのなら、新たに進み出すために必要なものはなにか。
 トンチキ美少女たちが放つ、青春の光と影はそれを、鮮明に削り出してくれている。
 次回も楽しみです。
 良いアニメだ、マジで。