イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Dr.STONE NEW WORLD:第22話『BEYOND THE NEW WORLD』感想

 お宝持って戻ってきたら、ラスボス復活味方になって、往くぞアメリカ太平洋!
 夢ワクワクの世界編に向けて、司帝国の置き土産を軒並み始末して、未来に漕ぎ出すDrSTONE”三期”最終話である。
 ぜーんぜん終わってねぇっつうか堂々の新章開幕であるけど、ファイナルシーズンやってくれると最後にぶち上げてくれたんで、全く全然問題なし!
 正直こっからの分厚い展開をどうアニメでやり切るのか、色々気になるところはあるが、しかしここまでアニメスタッフがやり遂げてくれたことを思えば、夢は間違いなく月まで届くでしょう。
 そういう風に、続きを心待ちに出来る最終回になってとっても良かった。
 それは四期があるってだけでなく、龍水特別編含めて三期スタッフが自分たちの物語を、とても頑張ってくれたおかげだ。

 

 というわけでメドゥーサ最後の力で司を死地から引き戻して、かつての強敵であり友でもあった男が正式に科学王国入り。
 すっかり生死の境を飛び越えるチート科学になってきた、石化装置によるインフレを一時停止させるためには、ココで電池切れにさせとくのが得策だよね。
 自分のことはいつでも後回しな千空を、一人孤独な成人にしないために決意の戦化粧をゲンちゃんが言い出すの、明らかに千空好きすぎるムーブで最高だったけども、この儀式がかつて敵対した司が、味方に馴染むためのイニシエーションとしても機能してるの、メンタリストの面目躍如だな、と思った。
 ああいうアガる流れに乗っけないとわだかまりは(作中のキャラも、読者も)消えにくいだろうし、千空を慕う仲間と同じ傷を刻むことで今司がどういう立ち位置なのか、無言だからこそ雄弁に伝えられるのは強い。
 ここら辺の心遣いと計算の入り混じった、ゲンちゃんらしい妙手の意味を司もしっかり読み解いてて、かつて『最悪』と言い放った舌先三寸コウモリ野郎の凄さを、認める場面も良かったしね。
 三期の幕が下りる今回、あさぎりゲンがどんだけ優しく賢く強い男なのか、クールに描いてくれたのは彼のファンとして嬉しかった。

 司復活に立ち止まることなく、大風呂敷を具体的に広げて太平洋横断、次なる目的地に向けて手早く動き出すのは、このお話らしくていい。
 これで続きがね~なら暴動モノなんだが、キッチリ最後まで描き切るとぶち上げた上での世界編プロローグ……唆るぜマジ。
 えっほえっほと額に汗水垂らして、地道な準備の先頭に千空ちゃんが立っているのもらしくて良かったし、やっぱこういうクラフト感ある地味な場面にこそ、このお話の強みがあると思った。

 色んな超人が集っている科学王国だが、王将である千空含め一人で出来ることはたかが知れていて、個性や価値観や能力がバラバラの皆が手を携え、協力するからこそ成し遂げられるもんがある。
 平等な民主思想と科学技術はその実個別に孤立しているのだが、常時個人のエゴに振り回される科学は危険で、本来的なものではないと語り続け、書き続けている作品でもある。
 ここら辺の手応えを司という強ユニットを加えるタイミングで、フランソワという文化系チートユニットに語らせるのは、最後にいい念押しだなぁと思った。
 司が大人しくそれを受け入れているのは、二期ラストの激闘を経て自分も大いなる理想のためのコマの一つだと、独善で世界や人間の在り方勝手に決めていい存在じゃないと、思い知った結果なのかなと思う。

 

 司が危惧していた技術独占、不平等の再生は杞憂でもなんでもなく、千空たちほど賢くない人類が幾度も、繰り返してきた事実だ。
 科学の有益性が再現性にあるのなら、人類の良い部分だけではなくどうしようもない業もまた再演されるはずで、科学を扱う社会がどうあるべきか、社会学的アプローチは大事だろう。
 ただ少年漫画というジャンルコードは、答えが出ない倫理と業の編み物を扱うにかなり難しいし、千空というナチュラルにクールに”正しいこと”を実行できる主役の人間力で、掘り下げるべき難題を見えないところに埋めている操作が、このお話には結構ある。
 そこを突っつくからこそ各章のボスはボスたり得ていて、敵だった時に痛い所突っついた矛先をちょっと丸めて、繕った部分から問題が再噴出しないよう気をつける必要もある。
 司が仲間に入り、新たな旅に漕ぎ出す直前のこのタイミング、ギャグに交えて集団としての限界点とか、属人的科学倫理の危うさとか、色々誤魔化しに来てたのは面白かった。

 マグマとかヨウとか、洒落になる範囲の悪党に人間の身勝手さを代表させて科学王国に取り込み、あるいは洒落にならないヤバさの相手を強敵と描いた後仲間にしたり、ガチで会心の余地がないイバラは石化刑に処したり。
 『科学と人間は素晴らしい』と言い切るためのカウンタープロットを、このお話はいくつか用意して……かなり手加減して扱っている。
 千空が突き進む人道を遮るものは、用意しようと思えばいくらでも山盛り理不尽に、苛烈に用意できて、彼がどんだけ天才でも、善人でも、ひっくり返らない最悪で世界は埋め尽くされているだろう。
 しかしあくまで前向きに、人間と科学の善き面を話しの真ん中に据えたこのお話は、そんな可能性を千空という主人公に体現させて、ちょいワルなカッコよさで着込ませて前に進んでいく。
 そこには無邪気な科学信奉っていうよりは、理想的科学/社会/人間ってのはこう慣れるはずで、こんだけの奇跡が当たり前に積み重なる営みから生まれるはずなんだという、祈りみたいなものを勝手に感じている。
 それをドラマの中から受け取れるから、僕は結構ツッコミ甘く、ヤバい部分をギャグで爆弾解除してるこのお話を、自分の中でかけがえない物語と受け止めているのかもしれない。

 このお話は”少年漫画”であることに無茶苦茶自覚的だと思っていて、ギャグの作りから展開の熱量までみっしり、王道ジャンプ主義の正統後継者だと思う。
 それはつまり、理不尽とどうしようもなさに満ちた飛び込んでいく子どもらが、この物語で紡がれた甘っちょろい理想を片手に握って、折れることなく戦ってもらうためのお話づくりを、常に心がけているってことだ。
 千空が人間として正しいことをし続けるのも、科学が社会をより善く変えていけるのも、ある種のお伽話としての理想であり、高く掲げた夢が説教臭くお話を壊さないよう、色々考えて描写も編まれている。
 そういう、色んなままならなさの中でそれでもなんとか、力強く美しいものを作ろうとする営みが、人類を救い月にすら至ろうとしている作中の科学少年達の奮戦に重なって見えて、俺には眩しい。
 フィクションが、それを作る者たちを取り囲む現実と重なり、飛び超えて受け取るものの未来を変えていけるのって、やっぱり凄いこと……人間にできる大した事でも最上位だと、俺は思う。
 そんな奇跡を幾度も引き寄せるために、作中にねじ込むしかなかったギャグ味の”保留”を、俺は無様で不格好というよりは、愛しいものとして見ているのだろう。

 

 そんなわけでDr.STONEアニメ三期、無事完結いたしました!
 既に完結済みの大長編、どこまで描くかは難しいところだったと思いますが、龍水復活の特別編から分割を挟んで2クール、上手く描いてくれたと思います。
 相変わらず原作のエッセンスを大事にしつつ、アニメだからこそ生み出せる絵力や感慨を要所要所で叩きつけてきて、原作の善さを再発見するような、それを越えてアニメだからこその面白さを受け取れるような、とても良い視聴体験になりました。
 イバラの極悪加減が青山穣の怪演もあって、マシマシになってたのは良かったなー。
 アイツが巨悪の存在感と、俗人のしょーもなさを併せ持つ良い悪役だったからこそ、最後まで楽しく見れた感じがある。

 石器時代の科学無双を可能にする、各種アイテムを手作りしていく過程も地道に面白く、主人公千空の人格が反映されて人の理想を諦めない、前向きな作風も元気でした。
 やっぱ作品のメインテーマと信じたものが、どんだけすげぇか絶対諦めないタフさがにじむお話ってのは信頼できるもんで、アニメにもそういう気概が強く宿っていました。
 信頼と決意で前に進んできた物語も、遂に日本を飛び越え世界へと、そこを更に超えて月面での決戦へと飛び立っていくわけですが、それもアニメでやってくれると、最後にしっかり約束してくれました。
 好きなお話、好きなアニメが至るべき場所まで走り切ってくれる……こんなに嬉しいこたぁない!
 来るべきファイナルシーズンを心待ちにしつつも、数多の困難とかけがえない輝きに満ちた宝島の物語を、無事語り切ってくれたことに感謝を。
 面白かったです、ありがとう!!