イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ひろがるスカイ!プリキュア:第50話『無限にひろがる! わたしたちの世界!』感想

 生きて笑って戦って、冒険と別れを終えてなお続いていく、私達の物語。
 ひろがるスカイ! プリキュア、遂に最終回である。

 大変良かった。
 『おうおう、ドラマ的な盛り上がりを終えてなお戦闘ノルマは残っておるからな! 変なデケー蛇も最後の始末大変じゃのう!!』とナメてたダイジャーグとの決戦も、『最後の花火だ! 残ってる作画力全部ぶっ込め!』とばかり、暴れまくったキメ絵ラッシュに後押しされて、しっかり盛り上がってくれた。
 溢れる作画力は別れを描くBパートでも大変元気で、やや湿った情感と眩しく張れる空、細やかな仕草に色んな意味を宿してきたこのアニメらしさを、最後の最後に感じることが出来た。
 前回はソラちゃんが力の闇に飲まれる弱さを見せたが、今回はましろさんが別れを前に微笑えない脆さを顕にし、それをソラちゃんが精一杯の強がりで抱きとめるというバランスも、正しさと優しさ、眩しさと暖かさをお互いに分け合って進んできたお話の、最後に相応しかったと思う。
 Bパートはましろさんが己の心情と進んできた物語を、自分の言葉で語る構成でもあり、普通過ぎると自分を見ていた女の子が選んだ、絵本作家という夢……物語る職業にふさわしいまとめだった。
 色々新しいことに挑戦し、大胆過ぎる構成に挑み、凸凹整ってない所もとっても素敵な部分も、色々あったプリキュアだったが、先週勇み足で口にしていた言葉を、最後まで見通してもう一度堂々言える。
 俺はこのアニメ、このプリキュア、この物語、とっても好きだ。

 

 Aパートは蛇野郎を相手にバトルの総決算であり、勝負回でゴリゴリ暴れたこのアニメの強みが最後の最後、最高速でブン回っていて素晴らしかった。
 もうダークヘッド相手に作れるドラマがないため、余計なことほざいてアクションの邪魔しないように言語中枢を切除され、自認してたとおりの言葉なき暴力装置になっていたのは、似合いの決着だなぁと思ったりもした。
 『もうちょい積み上げてくれれば、もっと刺さったろうなぁ……』という後悔を大きく上回って、ブタが誰かのために傷ついて誰かのために道を開く展開が良くて、負けて変われたキャラと、負けてることを認められず変われないまま消えていくキャラの差が、ひろプリらしい変なシビアさで描かれる回でもあった。
 最後にぬいぐるみ見て『かわいい~~』って言えてるのも含めて、カバトンが女々しくて優しい自分を負けたからこそ認められるようになり、傷つけるのではなく傷ついて満足する生き方に踏み出してた描写は、アイツのこと結構好きだった自分としてはとてもありがたい。
 美味しい決着になったからこそ、そこに導くまでを主役との対話で削り出してほしかった気持ちもあるのだが、そういう作り方をカバトン相手には選ばなかったのがひろプリであり、バッタ野郎相手にはいい具合の交流生んだのもひろプリである。
 実際門田三部作があったおかげで、『まぁ……門田に起きたような人生の岐路が、豚どもにもあったんだろう……』と勝手に納得して、結果を腹に収める素地が出来てもいるので、ましろさんの夢さがしと重ねながらゴミクズ野郎の更生掘り下げたのは、良かったなぁと思います。

 前回ラスボスの身勝手なエゴイズムを自分の身に引き寄せて翻弄されつつ、ド正面から愛でぶち抜いたので、勝ち確ムードの漂う戦いではあったけども。
 迫力ある肉弾戦、各キャラの最強技乱舞、タイトル回収、英雄遂に社会に見つかる、生身での対峙と、ここまであんま触ってこなかったヒーローものの美味しい所、全部回収する勢いの気持ちいいケレン山盛りで、大変良かった。
 プリキュアの枠を超えて蓄積された、ヒーローフィクションの王道を踏まえつつ、自分たちだけのヒロイズムをどう可視化していくか、アクションや見せ方にオリジナリティと工夫が見えてたのが好きなんだけども、最後の最後で強いからこそ何度も使われてきた、ストライクが取れる速球投げ込んできたのは素晴らしい。
 母なる闇から己を引きちぎり、新たな存在として生まれ直したカイゼリンが手に入れた強さでダークヘッドの憑依を拒み、最後のキメを担当するのも王道踏破、きっちりまとめた感があった。
 ずーっとこの調子だと胃もたれしてたと思うけど、話が幕を閉じるこのタイミングでの王道勝負は収まるべきところに物語が収まっていく納得があり、それを気持ちよく見送れるだけの一年だったと思える感慨もあった。
 前回は迷う主役としてのソラちゃんを、今回は迷わない主役としてのソラちゃんを、それぞれ書いてヒーローガールの卒業証書にした感じだなぁ……粋だ。

 勝敗決まっての落下/浮遊/飛翔シーン、あげはさんだけが急に空に投げ出されて全てが終わった状況に戸惑わず、目の前の現実を素直に受け入れる姿勢だったの、凄く好きなんですよね。
 あの人は夢を探す時代をとうに終えて、というか見つけ踏み出した夢の真っ只中に今こそいて、飛び方を探している幼い弟妹をどう見守るのか、そうすることで自分がどう生きるのか、ずっと考えている。
 そういう人だから、他の三人よりも落ち着いた心持ちで、自由で高い空に身を置くことが出来てるんだと思う。
 こういう、キャラクター性を身体表現の中に埋めて読ませる表現がひろプリは結構多くて、そういうフィジカルな詩情がしっかりあったのは、戦いに身をおき時に傷つくヒーローの物語として、シンプルに好みの語り口として、自分には嬉しい表現でした。

 

 戦い終わってBパート、今まで物語に関わった全ての人が顔を見せる、心地よいエピローグ……と、虹ヶ丘ましろの湿り気が最後の最後に吹き上がる、大変いいまとめであった。
 最終戦で存在感があったので、青の護衛隊がソラちゃん待ってる描写が心に染み入ったし、ベリィベリーちゃんが最後の最後に発揮したツンデレ火力の高さを思うと、『一話……もう一話、ソラベリで欲しかった……』という欲も出る。
 クズハゲの陰謀で300年渡しそびれてた、ノーブルへのプレゼントを新たに紡いで新生の寿ぎとするカイゼリンも、何かと贈り物の描写が多かったこのお話らしいフィナーレであり、芽生えかけてた奪うばかりだけで終わらず生み出す強さをついに捕まえた感じがあって、大変良かった。
 まー相当に駆け足だったんだが、加害者であり被害者でもあり、少女であり顔なき力それ自体でもあったカイゼリンを救うべき存在として、想いを向けれるキャラクターにしてくれたのは、やっぱありがたかったな。
 もしかしたらキュアノーブルと”ふたりはプリキュア”になれたかも知れない運命を持ちつつ、ゴミの詐術で運命捻じ曲げられて力至上主義を再生産する装置になってた彼女が、主役の鏡になってくれたおかげで気持ちよく、語り切って終わってくれたからなあ……。

 一年の同居生活を終えてついにお別れであるが、情感たっぷりに最後に描くべきものを描き切ってくれて、大変良かったと思う。
 エルちゃんの自己定義がどうなってるのか、赤ん坊なのか少女なのかどう受け止めたもんか分からないのは……まあマジェスティ変身以来の難題であり、どうにもなんねぇな! と自分の中では決着させた。
 無力な赤ん坊であるがゆえの可愛さ、小さく一つづつ出来ることが増えていく頼もしさと、少女戦士であるがゆえの可憐な力強さをよくばりに両方取ろうとして、どっちにもならなかった印象がプリンセス・エルには濃くある。
 俺はエルちゃんを見守り育てることで、自分たちも力強く地に足つけて家族に、自分自身になっていく虹ヶ丘邸の人たちみんなが好きだから、どっちかというと”エルちゃん”であってほしい気持ちは強い。
 でもここら辺は、彼女にどんな夢や憧れを託すかによって望ましい形が変わってしまう部分で、正しい正しくないのはなしではないんだろうな、とも思う。
 まーあれだ、キュア赤ん坊をどう扱うかは常に難しいし、各シリーズごと個別の描かれ方と収まり方がある、つう話なんだろう。

 ツバサくんとあげはさんの別れ方は……しみじみ良かったな。
 初の男性レギュラープリキュアと、初の成人プリキュア
 ここまでの蓄積を思えば必然でもあり、同時に大きな挑戦でもあった彼らをどう描くかは、メチャクチャ繊細で難しく、作品の味を決める大事な勝負だったと思う。
 そしてこうして終わってみると、無論至らぬ所描ききれぬ所はあったけども、未来を夢見る少年として、いつか探した夢の真ん中にいる大人として、凄く良い物語を編めたと僕は感じた。
 別れを前にちょっと茶化した態度で上手く乗り切ろうとしたあげはさんが、ツバサくんの真摯な瞳を受け止めてマジな顔になり、自分たちの物語はとても良かったのだと、最強だったのだと、満足そうに終わっていく姿は良かった。
 空を自由に飛ぶ翼を求めてきたツバサ君が涙をこらえるときは視線を落として、保育士という身近で地に足付いた英雄であり続けたあげはさんが空を見上げるの、めっちゃ良いなと思いました。
 お互いらしくない仕草ななんだけど、それは眼の前の誰かと一緒に生きて、年も性別も関係なく好きになって、尊敬しているからこそ相手の”らしさ”を自分に引き受けたから、生まれた姿勢なのかなと感じた。
 そういう風に感じるだけの、お互いの色が交わり広がっていく旅路を、やっぱこのアニメは一年やれたんじゃないかなぁ。

 

 そして始原の二人にぐぐっとカメラが寄って、物語が終わっていく。
 ”普通過ぎる女の子”虹ヶ丘ましろはヒーローガールとともに過ごすことで、前回堂々と示したように無敵の光へと己を育み、誰よりも強くなった。
 しかしそれは虹ヶ丘ましろらしさを捨て去り、別の何かになるということではなく、心の奥底に眠っていてまだ見つけていなかった可能性を開花させたり、自分にはない誰かの強さを身に着けたり、いろんな刺激と学びによって、もっと虹ヶ丘ましろらしい自分になったから、可能な”変身”だ。
 そんな彼女が必死に、自分に大したことじゃない当たり前のお別れなのだと言い聞かせて、全然涙を止められない様子を語って終わっていくのは、そういう湿り気に真摯に向き合ったからこそ面白かったアニメの終幕として、虹ヶ丘ましろらしさ最後の発露として、めちゃくちゃ良かった。
 このナイーブで柔らかな感性があったから、自分が信じた英雄を最後まで信じ続ける強さも、揺るがぬ信念で陰りを照らして光を取り戻す優しさも、キュアプリズムに宿ったわけで。

 エルちゃんにより善く育ってほしいと、個人的な営為として始めた絵本作りが将来を定める大きな夢となり、書き綴り物語ることを生業として選んだましろさん。
 その”語り”でもってお話が終わっていくのは、彼女の等身大の成長をすごく楽しみながら見届けた自分としても、”物語る”という行為に大きな希望を持ちたい自分としても、凄く嬉しい終わり方だった。
 それは登場時から”ヒーローガール”という在り方がビシッと身に定まっていて、揺るがぬからこそましろさんの憧れにもなれた、ソラ・ハレワタールとは違う道だ。
 確信と迷い、正しさと優しさ、眩しさと暖かさ。
 ふたりが体現してきたものは相反するのではなく相補い合うであり、お互い大好きで尊敬しあって、影響し合ったからこそ自分らしさにに新たな色を加えられる、幸せな出会いと歩みがそこにはあった。
 だからこそ、別れが辛すぎて直視できないましろさんの弱さを、愛なのだと納得できる。

 ここで『やっぱお別れ明日にしない?』と揺らいでしまうましろさんの弱さと、『それでも、笑ってお別れしましょう!』と泣きながら微笑めるソラちゃんの強さを、最後に鮮明に描ききってくれたのは、前回優しさと愛が最強だと非日常の中で示したことの、見事な対置となっていた。
 ソラちゃんが体現する眩い正しさが、ましろさんが身にまとう無垢な優しさと交わり相照らすからこそ、一人だったらどんだけ正しくても時に行き先を見失う正しさは行くべき場所に行けるし、優しいからこそ道に迷ってしまった時、進むべき未来へ手を引いてもくれる。
 キュアプリズムとキュアスカイのクライマックスが前回にあったとすれば、今回は虹ヶ丘ましろとソラ・ハレワタールのフィナーレであり、それぞれ勝つ役・負ける役がここまでの担当領域を交換しながら入れ替わるのは、凄くバランスの取れた、陰陽和合する決着だったと思う。
 拳で壁を打ち壊すスカイの強さは時に危うく、だからこそプリズムの無限の愛が最強の力になる。
 穏やかで暖かな日常を手渡してくれたましろさんは、だからこそ別れを前に進めなくなってしまうのだけども、二人で過ごした日々が眩しく誇らしいからこそ、ソラちゃんは微笑って終わろうと涙ながら、正しく告げてもくれる。
 そういうふたりで在ったし、そういうふたりに為ったのだ。

 

 ましろさんが新たに綴る物語が、ここまで一年僕らが見届けてきた冒険に内包される形で、物語は決着していく。
 俺はフィクションがフィクションであることの強さを信じ切り、語りきったからこそ作中新たに紡がれるフィクションに内包されていく構造がめちゃくちゃ好きなので、この流れにはビリビリに痺れた。
 ましろさんがキャリアメイクしていくエピソードはどれも、地に足付いた地道な手応えと苦難を乗り越えて前に進んでいく力強さ、夢を見つけ大事にしていく希望に満ちててメッチャ好きなので、人生変えるほどの大冒険を愛しく抱きしめつつ、自分の中だけで抱えず本として世に問う”作家”の生き方に向き合ってる勇姿が、最後に見れて良かった。

 そこで手紙に封をするのではなく、現実のほうがひどく気楽に幸せにましろさんに追いついてきて、異世界へのゲートがガバっと空いて友達が訪ねてくるのも、想定していたハッピーエンドを軽々と追い越された感じがあって、メッチャ良かった。
 『そんなスナック感覚で良いのかよー!』と思わなくもないんだが、ツバサくんの研究やアンダーグ組の協力もあって、大魔女ですら気楽に開けられなかったゲート技術が一般化した結果、異世界トラベルが実現してると思うと、若者の可能性を信じたこのお話らしいフィナーレだろう。
 俺はプリキュア(つうか児童に向けた物語)には、現実の重苦しい難しさを正面から見据えつつも膝を曲げず、明日はいい日になるのだと、そこを進む君たちは無敵で最高なのだと、心の底から吠えてほしいといつでも思っている。
 色々ガタピシ問題あった旅だが、ひろプリはそういうメッセージは常時強く出し続けて、高く輝く理想を譲らず掲げ続けてくれた。
 それは当然に見えて凄く大変で、自分たちが作り上げている物語にプライドと信頼がなければ成し遂げられない、一つの偉業だと思う。

 だから、冒険が幕を閉じた後もましろさん達の人生は続き、物語には新しいページがどんどん増えていく。
 この終わり方になって、ソラちゃんが地球で学んだことを刻むノートをましろさんから貰ったのは、大きな意味がある描写になったと思う。
 人生という物語を描く手帳には、自分だけが孤独に答えを書く必要なんてなくて、好きになれる誰かが手渡してくれたことを、それがあるから見つけられる新しい自分を、どんどん書き加えて良いのだ。
 虹ヶ丘邸で育児に明け暮れ、地理的にはそこまで広がりがなかった”ひろがるスカイ! プリキュア”であるが、一年を通し子どもたちが心と未来を大きく羽ばたかせ、自分たちの可能性を広げていく物語としては、凄く良いところへ羽ばたけたのだと僕は思った。
 そこに自閉と独善の暗い狭さではなく、あなたがいてくれるからこそ見つけられるより善き自分を、私と世界と貴方の前にある無限を置いたのは、晴れ渡るソラをモチーフとした物語として、自分たちが選んだものに嘘偽りのない決着だった。
 そう思うのだ。

 そして最後の幕、ソラちゃんはかつて自分をヒーローへと導いた誰かと同じように、かつての自分によく似た誰かを助ける。
 そうやって時を飛び超えて、いつかの憧れに自分を近づかせていく翼が、何によって生まれたのか。
 一年間、虹ヶ丘邸で共に暮らした日々に強く足場を置いて進んだこの物語は、その答えを揺るぎなく示せていると、僕は思う。
 ご飯食べてご本読んで色んなところ行って、幸せに暮らす当たり前の日常の中から。
 あるいは時に厳しく試され、へし折れる寸前まで追い込まれる超常の戦いの中から。
 愛と勇気を、優しさと正しさを、混ぜ合わせて自分の色としてその身に刻んだからこそ、ソラ・ハレワタールの背筋は真っ直ぐに伸び、その微笑みは爽やかで眩しい。
 彼女が一年の幸せな旅の果てに総示したように、僕らはそうやって広がっていけるのだ。
 そう思わせてくれるお話を編んでくれたことに、やはりありがとうと言いたい。
 とても面白かったです。

 

 

 というわけで、ひろプリ一年の歩みが終わった。
 ヒーローと空をモチーフとして展開する物語は、タイトルに刻まれた”ひろがる”があんま炸裂しないまま結構狭い範囲で転がり、敵さんへの彫り込みは極端に少なく抑えられ、赤ん坊を真ん中に置いた家族劇としての色合いが濃かった。
 その狭さがすくいそこねたものは多々あろうし、終盤ギリッギリのところで回収した種々の描写も、『もうちょい敵に尺回してくれえばもっと……』と、正直思わなくもない。
 ここまで定番だった構図を大胆に変更するのであれば、相応の物語装置を用意しなければ歪みが生まれるわけで、ヒーローを照らす歪んだ鏡にもなりうる”敵”を削り飛ばす構成を、成立させうる新しい何かがそこにあったか、疑問は尽きない。
 少ない尺ながら刺さる描写は随所にあって、強さ第一主義のマチズモをどう乗り越えていく勝手個人的な興味もあって、見てる側で勝手に補足して納得した部分も多かった。
 まーここらへんは、削った分プリキュアサイドの描写が分厚くなって、見たいもん見れてる多幸感が倍増してるって部分とも繋がってて、評価難しいとは思うが。

 自分の手で飯も食えねぇ赤ん坊から、一個ずつ出来ることが増えていくエルちゃんの成長を、じっくり見れたのも、そういう挑戦の賜物ではあって。
 実際エルちゃんを中心に構築させる、虹ヶ丘邸の家族描写は凄く見てて気持ちが良くて、一話一話どっしり着実に大事なモンが育っていく手応えを、僕に感じさせてくれた。
 ここら辺も痛し痒しで、おそらく必須のオーダーとして決まってただろうマジェスティ参戦と、赤ん坊であるエルちゃんの存在感があんま上手く繋がらず、一足飛びに少女になってしまった彼女をどう受け止めたものか、結局答えが出なかった感じもある。
 キュアマジェスティを最終的にたどり着くべき”正解”とするには、生きた実感に満ちて成長の過程を見守ってきたエルちゃんの存在は自分の中であまりに大きく、『このまんま、当たり前の歩調で人生歩いていきゃいーだろ!』という思いが、どうしても捨てられなかった。
 (ここを俺が腹に収められなかったからって何になるわけでもねぇんだが、好きな作品最後の感想に書き残しがあるのも良くないので、正直な気持ちを刻んでおく)

 

 鳴り物入りで展開した初の男性プリキュア、成人プリキュアは、プリキュアサイドにどっしり時間を取る構成も相まって、かなり良い収まり方をしたように思う。
 センセーショナルな初の試みを過剰にデカく受け止めすぎず、ツバサくんという一少年、あげはさんという一成人それぞれの在り方を物語の中でしっかり見せようと、楽しくも眩しく彼らの歩みを描いてくれた。
 俺はツバサくんの夢が自分だけを飛ばしてくれる翼で収まらず、あらゆる人を守る大きな盾となって世界に認められたことも、妙に生っぽい手触りのあるスカイランド市街戦の中で大いに役立ったのも、凄く好きだ。
 あげはさんが徹頭徹尾夢を探す幼年期にではなく、見つけた夢の真ん中に立つ生き方をしていると描かれ続け、しかし子どもが大人を見上げる時抱くような無敵の幻想存在ではなくて、離婚に傷つけられた過去を持ち今も別れに涙する、震えながら誇り高く優しく生きている人だったのも、凄く好きだ。
 年齢差があるみんなが、それぞれのライフステージに合わせた向き合い方で自分と、自分の隣りにいる大事な人と、そんな人が指し示してくれる未来に自分なり向き合って、支え合い力強く進んでいく姿が、俺は好きだった。
 そういう場所にいる人が放つ朗らかな眩しさを、どっか気の抜けたのんきさとともに描いて、好きになれるキャラクターとして彼らを描ききってくれたのが好きだ。

 

 初の青主人公たるソラちゃんは、既に夢を見つけある程度体現し、だからこそ頑なで脆い部分をもつ、面白い英雄候補生だった。
 多分にマスキュリンな要素を背負って、ましろさんの騎士様として描かれ続けた彼女だけども、作中一度も『男の子っぽい』という発言が出なかったのは、プライドもってこのお話が徹底した一つの達成として、自分的には相当褒めたい部分だったりする。
 もっと脳筋で無遠慮な造形されてもおかしくないキャラだったが、とにかく他人のいいところ、世界の素晴らしいところを見つけて言語化し、どんどんプレゼントする。
 靭やかな知性と動的な優しさが元気で、凄く好きになれる子だった。
 強くあろうと心がけ、実際強いから誰かを守り誰かの憧れにもなれるソラちゃんは、もちろん完璧でも無敵でもなくて良く泣き、間違い、負けた。
 その敗北は彼女固有の特別な敗北であると同時に、色んな人に普遍的に訪れる困難の色を宿してもいて、傷つきくじける当たり前の人間がそれでも、自分の誇りと誰かの信頼にすがって立ち上がる姿は、泥だらけだからこそ眩しかった。

 そんな彼女の颯爽に引かれて、普通ではいられなくなった普通の少女、虹ヶ丘ましろ
 ソラちゃんとお互いを照らしあう鏡として、お姫様めいたフェミニンな意匠と、いかにもプリキュア主人公らしい白紙のスタート地点を背負った彼女は、道が見えないからこそ描ける確かな成長を、しっかり歩んでくれた。
 最終戦で見せた、もはや戦わないことで示される圧倒的な愛の強さからすれば、序盤の何事にも自信がない、未来に飛び出すのに気後れしてしまうましろさんの姿は、別人のように映る。
 でもそれが変貌ではなく開花であり、キュアプリズムとして羽化させた強さも正しさも、優しく穏やかなましろさんの中にずっと確かにあったのだと、思える物語をこのアニメは紡いでくれた。
 ソラちゃんに照らされ、良い所をいっぱい言ってもらって、涙や震えを受け止めてもらって、普通で好きになれない自分を、好きになれるようになっていく彼女の一歩一歩が、俺はとても好きだった。

 そんな彼女が見つけた、なりたい自分が”絵本作家”であることを、俺は凄く好ましく思っている。
 身近で大事な誰かに普通の言葉じゃ伝わりきらない願いを届かせるため、その夢が始まったてのも、何もかも順風満帆に進んでいくわけじゃなく挫折したり裏切られたり、人生に転がる当たり前の辛さにぶち当たりながら進んでいったのも、とても良かった。
 ましろさんが彼女だけのヒーロー像を見つけ、シコシコ絵本作ってそれに近づいていく道のりは、ソラちゃんだけだとどうしても足りない成長の実感、変化の面白さを作品に大きく取り入れ、活力を与えてくれたと思う。
 なにかに出会い、目を開き、憧れ導かれ進んでいくことは、こんなにも眩しく面白い。
 そんな実感を、虹ヶ丘ましろという少女が自分の人生を、そこに映る己の姿を選び取っていく中で感じ取れたのは、見ていて幸せな体験だった。

 

 というわけで、大変面白く、好きになれるアニメでした。
 一年の長丁場、どのプリキュアもそれぞれの形で素晴らしく、何かを必ず取りこぼすと思います。
 20作目の意欲作、いつもより更に大胆に何かに挑んだこのお話は、普段より評価が分かれるかなと思いますが、しかし自分にとってはかけがえない、とても素敵なプリキュアになってくれました。
 こういう気持ちになれるのはやっぱ、最終盤の仕上がりが良かったからだなぁ……。
 『終わり良ければ全て良し』には、『終わりだけが良い』が含まれかねないので扱い難しいといつも思うが、しかし真理ではあろう。

 プリキュアとしての冒険を終えて、なお続く人生の旅路。
 ましろさんの語りに乗せて、そんな”ひろがる”を描ききって終われたこのお話を、僕は好きでい続けるでしょう。
 そう思えるお話と出会えて、凄くありがたく、嬉しかった。
 面白かったです、ありがとう。
 一年間お疲れ様でした!!