イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆびさきと恋々:第7話『Let me introduce you to my girlfriend』感想

 恋が成就し季節は春、遠い貴方を青空に想う。
 折り返しを過ぎて新章開幕、”こたえ”が形になった後の景色を追いかけるゆび恋アニメ第7話である。

 想定を超えるスピードと熱量でもって、初恋成就おめでとうとなったこのお話。
 カップル成立後のダダ甘イチャラブで押してくると思いきや、渡り鳥気質な逸臣さんが東京を離れ、雪ちゃんなりに過ごす時間をどっしり切り取ってきた。
 『会えない時間が愛を育てる』などと古い歌には詠われているし、携帯電話を通じて思いは通じるのだけども、恋とは関係なく……というか恋すればこそ自分ひとりの人生を頑張る少女の姿を、ちゃんと書こうとするのは好きだ。
 キャラの心情としても物語の重心としても、雪ちゃんと逸臣さんが隣になったら磁石のごとくひっつき、ラブが画面に満ちて全てを支配する感じではあるのだが、愛さえあれば全てが叶うわけでも、二人だけいれば十分なわけでもない。
 ステンドガラスの檻から出て、ハンディキャップから目を背けぬまま、両の足で立つ自分でいるためにはどうしたらいいのか。
 あくまで健気に慎重に、雪ちゃんが自分なり生活を頑張り、だからこそ逸臣さんに逢いたいと願う気持ちが春景色にゆっくり刻まれていて、大変良かった。
 ろう者にとって生活やコミュニケーションがどんなものか、大学デビューのワクワク感を交えつつ掘り下げていく筆先が、恋が成就した後も良い手応えを保っているのは、やっぱいいなと想う。

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第7話より引用

 逸臣さんの隣にいるため、バイトに勤しむ……前段階で、色々苦労がある雪ちゃん。
 自分を守ってくれた温かな場所から、健全に巣立とうと頑張っている彼女のスピードに、桜志くんは追いつけずついていけないまま、知らないところで恋戦の決着は付いてしまった。
 逸臣さんがいかに素敵な人か、照らす鏡としてガキっぽく、執着心強く描かれもした桜志くんだが、そういう徒花としての書き方にしっかり、彼なりの想いと彼らなりの時間が確かにあったことを、このアニメは丁寧に切り取る。
 幼馴染として、家族までひっくるめた付き合いがあるのは揺るがし難い事実であり、桜志くんにとっては雪ちゃんと自分を繋げる大事なアンカーなのだろうけど、彼女にとっては望む空へ羽ばたくをの邪魔する重荷ともなり得て、でも切り捨てるには愛おしすぎる。
 なかなか難しい距離感で、雪ちゃんと桜志くんの距離感が成立している様子を、視線の中のタイムスリップで見せてくる演出は良い。

 逸臣さんが知らない、幼く弱い時代の雪ちゃんを桜志くんは良く知っていて、自分の瞳の中の思い出だけが糸瀬雪なのだと、思い込んでいる感じもある。
 自分の足で進み出し、どこで働き誰と恋するか自由に選べる強さを得つつある雪ちゃんにとって、それは遠い過去になりつつある。
 それを遠い過去にする手助けを、爽やかな風をまとった青年が優しく手渡してくれたから、雪ちゃんは逸臣さんを特別な”ぜんぶ”に選んだ。
 桜志くんがそんな雪ちゃんの望みを知らず、助けれず、動けないまま情勢は決まってしまったわけだが、恋に繋げぬのならばすべての関係は無意味になってしまうのだろうか?
 今後物語は桜志くんの燃えてすらいない想いとか、望みにたどり着けなかった辛さとかを描いていくとおもうけど、その前景となる今回の描写が、残酷なだけでなく優しい慈しみを向けていたのが、とても良かった。

 

 雪ちゃんが別の男に盗られると思うと、灰色にくすんでしまう桜志くんの世界。
 『そういう足踏み後ろ向きが、出発前に音速で勝負キメに行った逸臣さんとの、決定的な差なんだよなぁ……』などとも思いつつ、雪ちゃんは純情ボーイが隠そうとする本心を、覗き込もうと身を乗り出す。
 『口元が見えないと、伝えたいことが伝わらない』という、ろう者特有のコミュニケーションをマスク越しの面接で描いた後に、想いを隠してしまう桜志くんと、それを聞き届けようとする雪ちゃんの現状を、豊かに削り出して来た。
 雪ちゃんにとって桜志くんは扱いがめんどくさく過干渉で嫌なこと言ってくる人なんだが、隣り合って大事にしてくれた人であるのも間違いなくて、恋が関わると関わるまいと、かけがえないものを共有した間柄なのだろう。
 そういう相手が自分に求める未来が、別の人間と叶っちゃったからこそ今後面倒なことにもなるとは思うのだが、しかし繋がりが無惨にねじ切れて終わるには、思い出の中現在に揺らぐ幼い二人は、優しい色で描かれすぎている。

 俺は完璧に過ぎる逸臣さんが、取りこぼしてしまう未熟な人間味を桜志くんが背負ってくれているのが、とても好きだ。
 雪ちゃんとの恋が成就することで、逸臣さんの自由で爽やかな生き方はより望ましく、力強く育っていくと思うわけだが、”負けた”桜志くんの人生もまた、雪ちゃんが大事であったこと、それが恋という形にはならなかったことを通じて、より善い未来へと繋がっていって欲しい。
 桜志くんに善い物語を歩いてもらうことで、雪ちゃんと逸臣さんの間で描かれた恋の温かな可能性が、また別の角度から豊かに照らされ、複雑な味わいを生み出してくれる感じもある。
 確かに恋にはならなかったが、恋がすくい上げられない豊かな色が幼馴染を繋いでいると、ここで書いてくれたこのアニメなら、自分の幼さに振り回されつつも誰かを大事にしたかった青年のことも、蔑ろにせず描ききってくれる……と思う。

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第7話より引用

 ここら辺の『負け犬をどう負かすか、そこから彼ら自身の物語を立ち上がらせるか』つうのは、エマちゃんにも言えることだろう。
 メッセージアプリの呼びかけに、一週間答えがないのは逸臣さんなりのケジメなのだろうけど、職場で頑張っている姿など描かれてしまうと情が移り、『もうちょい温もりのある対応を……』などとも、思ってしまう。
 まー爆モテスーパー彼ピをゲットした雪ちゃんとしては、勘ぐる余地のある行動は極力やめて欲しいところだとは思うけど、そもそも広い場所へと羽ばたける可能性を感じたからこそ逸臣さんに惹かれたわけで、独占して閉じた関係になるのもまた違うだろう。
 自分たちがカップルになることで蔑ろにしてしまいかねない、踏んじゃいけない他人の頭をどう捌くか……自分的には結構大事な要素だったりする。

 そもそもエマちゃんとどういう過去があり、今に至ってるかが見えないと、どういう未来に進み出せば良いかも見えてこないわけで、次回心くん交えた過去エピが描かれそうなのは、皆が幸せになっていく物語を期待する自分としては、なかなかありがたいことだ。
 雪ちゃんと逸臣さんが、ノイズも迷い道もない純愛一本道を超速で駆け抜けた物語を柱にして、そんなふうに望むまま恋人同士になれなかった人たちの話に横幅広がっていくの、独特ながら面白い語り口だよなぁ……。
 ここまでただの書割ではなく、好感の持てる生きたキャラクターとしてエマちゃんや桜志くんを描いてきたのは、負け犬なりに思いや尊厳がある彼らの”それから”を、自分たちが語るべきお話として描くための種まきだと思うしね。
 せっかく温かな春に舞台が移ったので、色んな花を豊かに咲かせて欲しいもんだ。

 

 とか言ってるうちに、メインカップルが凄いLOVE風速出してきたんですけど!
 先週店長が感じていた、逸臣さんがLOVEに浮かれている様子が、『オイ浮かれすぎだろ!!』とツッコみたくなる春一番で吹き荒れて、見てるこっちがポッポしちゃうよ……。
 逸臣さんがいない東京で、雪ちゃんなり頑張ってる姿をしっかり描いたからこそ、春の車窓を見上げながら逢いたいと思う気持ちにも素直にシンクロできるし、そう思える相手がいる幸せも、見ているこっちの身に染みる。
 ろう者の世界がどうなっているか描く筆もそうなんだが、清潔感満載で綺麗にまとめつつも、生活に根ざした実感を描写にしっかり宿して、身近に物語を転がせている手触りの良さは。このアニメの武器なのだろう。
 電車での出会いから始まった物語が新章を迎えるにあたって、話の中心に立つ二人が再開する前に再び”電車”を描くリフレインの詩情とかも、大変いい。
 俺は少女漫画原作アニメには詩が上手くあってほしいので、セリフで編んだものも映像で作るものも、両方上手いこのアニメは凄くありがたい。

 つーか雪ちゃんが超可愛く描かれているので、『そらー浮かれるしキスもするよ……』という、羨ま微笑ましい納得はある。
 いつもぴょんぴょん元気で、ニコニコ笑顔を振りまいてくれる透明度激高ナチュラル美少女が自分を慕ってくれる、想いを釣り合わせてくれる幸福って、まーとんでもねぇだろうからな……。
 こんな地上の天使のFirst kissを奪う役、前世でどんな徳積んでたら担当できるか解んねぇけど、突然のキスも”ぜんぶ”が”こたえ”だと確認している二人には、嬉しいハプニングで収まる。
 『同意さえあったら、基本何やっても良いのが”自由”やねん!』つう、極めて現代的なコンセンサス意識が根っこにある話だとは思うので、ここら辺の『二人だからこそ生まれていく特別』が素敵に、見てる側に納得行く形で描かれているのは重要なんだろうなぁ。

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第7話より引用

 身体的な触れ合いにしろ、社会的な距離感(『奢る/奢られる』など身近な問題含む)にしろ、あるいは精神的な繋がりにしろ、とにかくお互いが納得し同意し、適切な敬意と愛情で繋がっている、満たされている感覚を大事に紡いでいるのが、このお話だと思っている。
 逸臣さんはちょっとアウトなくらいフィジカルな距離感覚が近く、自由闊達に時に他人を置き去りにしていくが、それこそが心地よいから雪ちゃんは”ぜんぶ”を受け入れ、手渡せると思った。
 それは原則に支配された固定的な事象ではなく、相手や場合、事情によって変化する流動的な事柄で、流れ行く不定形な関係性の中でどう、揺るがないものを掴むかも大事になってくる。
 逸臣さんはここら辺の、何がダメで何をしてほしいかをかなりズケズケ踏み込んで聞いてくる人で、このあけすけな感じが雪ちゃんには丁度いいんだとも思う。
 聴覚にハンディがあって、世の中で当たり前とされている様々なサインを受け取れないことがある彼女にとって、自分が理解できるかたちでメッセージを出し、受け取り、交流してくれるってことはとても大事だろうし、ぶっきらぼうで無神経に見えてその一線を守ってくれてるから、逸臣さんを愛しく思うのだろう。
 手話を積極的に学んでもらえるのもそうだけど、ありきたりの言語セットでやり過ごすんではなく、糸瀬雪専用の暗号を一個一個学び取って、丁寧にコミュニケーションしてくれてる実感が、モテの秘訣なんだろうなぁ……。
 ここら辺の相互尊重、的確なメッセージの送受信が、携帯電話と繋がる掌でもって象徴的に、適切に描かれているのは、凄くこのアニメらしい場面だった。

 逸臣さんとしてはマブダチである心くんに、一番最初に最高の彼女を紹介したいわけだが、それは自分の気持で勝手にやって良いことではない。
 第一印象がベロンベロンの大虎だったので、雪ちゃんにとっては苦手な印象の心くんであるが、アレは惚れた相手と親友の板挟みで、どうにもならない気持ちを酒でごまかした果ての乱行ではあってだなぁ……。
 つーかこんだけのクールボーイがあんだけ乱れるのは、エマちゃん相手だからこその特別ではあって、そこら辺の降り積もった思い合ってこそ、親友が紹介した”彼女”がエマちゃんじゃなかったことに、瞳揺れたりもするのだろう。
 マージで心くんは人生の荒波、色恋の波濤を全身に浴びる苦労人&防波堤ポジション過ぎるので、逸臣さんが真っ先に届けたいと思った真摯なメッセージが良いところに落ち着いて、幸せな一歩を春に刻んで欲しいよ……。
 つーか友だちになったら気持ちのいい男だと思うから、雪ちゃんも心くんの良いところ沢山教えてもらって、楽しく一緒に過ごしてね!!
 こういう気持ちで恋愛群像劇を見守れるの、マジありがてぇ話よ……。

 

 つうわけで、冬の後に動き出す春の序章でした。
 色々良いところがあるアニメなんですが、季節感の切り取り方、描き方、活かし方に図抜けたものがあると感じてきたので、寒いからこそ伝わる温もりを印象的に描けた冬を終えて、春の物語をどう書くか。
 そこに期待したくなる、良いスタートでした。

 逸臣さんを一回画面の真ん中から外したからこそ、恋に背中を押されてもっと高く飛ぼうとする雪ちゃんの頑張りとか、まだまだ物語の種子が埋まったまんまの群像の諸相とか、色んなものが良く見えた。
 同時に作品のエンジンであるピュアラブっぷりも超絶元気で、春風に負けじとビュービュー恋嵐が吹き荒れておりますが、さてそれが暴くのはどんな過去か。
 ずーっと知りたかった三人の過去を、ようやく見れそうで次回も楽しみっ!