イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

異修羅:第8話『新魔王戦争』感想

 戦乱に燃え盛る街で、修羅達は死を踊る。
 群雄それぞれの思惑が戦地に渦巻く、開戦直後の異修羅アニメ第8話である。

 新公国側が開いた戦端が、木っ端のごとく人命を飲み込みながら拡大する中、それぞれの物語が転がっていく感じのエピソード。
 ヒグアレを実験台に、このお話において修羅がどう退場していくか、テストケースを見せられた感じもある。
 死ぬ時はあっさり終わる無常感は、こういうジャンルの大水源たる山田風太郎作品を思わせて結構好きであったが、ヒグアレなかなか面白いロクデナシだったので、惜しい気持ちも少しある。
 捕虜に秒殺グロ死ぶっ込める毒ガス散布が、無条件殺傷権限のトリガー引いちゃったのは不運であったが、やっぱチート同士の潰し合いは具体的な戦力比べというよりは、そこに体現されている概念のぶつけ合いって感じがするね。
 あくまで対人レベルの問答無用だったヒグアレを、紡ぐ言の葉すべて叶うキアと、殺意を向けられたら無条件で殺せるナスティークのチートスケールを越えられなかった……つう決着。

 この戦いの要点は『ヒグアレが殺された』ことでも、『ナスティークが殺した』ことでもなく、『キアが殺せなかった』事かなぁと感じた。
 殺伐レベルが上がってきて、いよいよ”世界詞”のインチキっぷりが暴れざるを得ない状況になってきたけども、彼女はスパイの本性も知らぬまま友達を助けようとするし、力はあくまで自衛のためにしか使わない。
 力ある言葉がキアの意思によってしか紡がれない以上、彼女の認識、彼女の覚悟がその能力の限界であり、それを捻じ曲げるだけの圧力はエレアにはない。
 必要とあらば嘘もつくし人も殺す、理不尽で冷たい現実主義でキアを”運用”しようにも、ごくごく真っ当に優しい彼女は”先生”の思惑を超えて、勝手に正しく動く。
 制御が難しい最終兵器を、どうだまくらかして自分に都合の良い展開を持ってくるのか……エレアの勝利条件達成は握ったチートに比べて、かなり難しい印象だ。
 自身の独力ではなく、謀略で情勢を揺るがさんとする人形繰りにはそれなりの難しさがあると示されたが、沸騰していく情勢の中でどんだけ小細工通せるか、今後が楽しみではある。
 ……少女の自由意志なんていう不確かなモンにトリガー任せず、望んだタイミングで奇跡を生む装置に洗脳なり改造なりしちゃえばいいのに、それをしない(出来ない、するためのチートを持ってない)つうのがエレアの限界なんだろうなぁ。
 いや、この世界観だったら絶対洗脳チートの極限みてーな、都合よく状況作ってくる超厄介な輩いるだろー多分。

 

 一方国境の町はボーボー燃え、ハルゲントのおっさんが英雄志願者らしい威勢を放って、黄都サイドの反撃開始……といった塩梅。
 髙地優位を確保したまま統率の取れた攻撃仕掛けてくる、レグネジィ配下の軍勢が大変厄介だが、アルスという航空戦力が第三勢力として飛び込んできたことで、どんだけ状況が動くのか。
 レグネジィ側の武器が、有象無象を束ねて手足に使う統率力だけだと、集まってきたチート野郎に牙突き立てるにはどうにも弱い感じだし、その統率にもカラクリありそうな気配だしなぁ……。
 ワイバーン狩りには一家言あるらしいおっさんが、復讐に燃える市民をどんだけ上手く使えるかを見てみたいが、志ある群れよりも好き勝手絶頂ブッこく個のほうが、圧倒的に強い……てのがありうる世界でもある。
 因縁濃そうなレグネジィとアルスの対峙は、群れるしかない俗人と逸れるしかなかった異物を対照する鏡になってく……のかなぁ?

 戦争状態を俯瞰できる立場にいるタレンは、魔王亡き後の世界に仁治の余裕はないと断じて、絶対の恐怖による支配を行動理念としている……らしい。
 しかしたかだか古代遺産ビーム一発程度、チートまみれの殺伐世界を治めきるには火力が足りないように感じ、隠し玉あっての態度なのかネタ出しきって吠えてるのか、その内側を確認したくもなる。
 ロクでもないのはお互い様なので、正義は新公国にも黄都にもあるとして、掲げた看板を裏打ちするには意思を通すための実力、他人を物言えぬ弱者の立場に押し込めるだけの強制力が必要になるだろう。
 緒戦を押せ押せで進めつつも、随所に反抗の気配を残すこの情勢、タレンが掲げる『絶対の恐怖による支配』を押し通せる秘策がまだ隠れているか否かは、新公国の底を探る大事な材料と感じる。
 つーかタレンが真っ当な王道諦めるに至った、魔王が撒き散らした荒廃の実情とかその終わり方とかが、未だ伏せられた情報なんであんま読みきれない部分も多いけどね。
 『魔王の死』という結末から始まり、その真相や影響を後から暴いていく転述ミステリ的側面があるお話なので、時系列と作中の描写を整理・再統合する必要が視聴者サイドにある作りなの、今更ながら挑戦的ね……。

 

 こういう大局的な絵を、個人レベルに落とし込んで発火させてるのがユノとダカイの対峙……なんだろうけど。
 メラメラパチパチ吠えるばっかで、噛みつく牙がないユノを舐め腐りきっとるダカイの態度は、まさに共感能力に欠けた生来の強者って感じで、大変良かった。
 ここら辺のメンタリティは、相棒ッ面してぶら下がってるソウジロウも大差はないわけで、許しがたいクズのおまけとして生存を許されている惨めさと矛盾を、ユノがどう飲み込むか……あるいは開き直ってスケールデカいクズになっていくかは、個人的にはなかなか面白い見どころだ。
 アニメが切り取れる範囲で当然、ユノの遍歴が描かれ切るわけではないと思う……つうか、そのサワリも書けるか否かって画角とボリュームではあるんだが、ただの口だけねーちゃんから”やる”存在へと剥ける、一歩目くらいはアニメでも見たい気持ちだ。
 ……いろいろ壮大な群像劇のタネを巻きつつ、壮大だからこそ絶対アニメの風呂敷では包みきれず、描ききれないままはみ出すだろう部分がこの段階から結構見えてしまっているのは、1クール作品としてはなかなか厳しい作りだ。
 『ああこれ、完全にスカッとはしないんだろうな……』という気配が、語り口のスピード、作品世界を切り取る画角から透けるというか。

 まぁ、そこまでひっくるめでアニメは楽しむ腹キメてるので、描ききれないことそれ自体とは自分の中で話がついている。
 大事なのは悲惨極まる戦争というキャンバスに、どれだけ印象的にそれぞれの物語を刻んで、ロクでもなさとか焼き付く思いとか、印象に残してくれるかだろう。
 群像劇が絡み合いながら回りだして、舞台からあっさり退場するものも出だしたこのタイミング、色々気になることも多い。
 そんな物語のタネを、犠牲者の生き血を注いでどれだけ可憐に咲かせるのか、あるいは半ばに踏みつけるのか。
 盤上に乗っかったキャラの数がとにかく多いので、語り切る手腕などにも注目しつつ、戦況とドラマの今後を見届けたい。
 次回も楽しみだ。