イマワノキワ

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菜なれ花なれ:第8話『What a busy summer』感想

 菜なれ花なれ 第8話を見る。

 夏だ! バズった!! ここからが本当の地獄だ…
 って感じの、回マタギ下げ調子エピソードである。
 前回が頭のネジぶっ飛ばした”陽”のヘンテコ回だったとすると、今回は”陰”のヘンテコ回って感じがあり、今時珍しい空気の悪さで次回に続く塩梅といい、やっぱこのアニメが持つ独特の味わいを堪能した。
 個人的に杏那がスイッチ入った時、体温一気に冷えるのがファベーラの匂い感じて大変好きなので、かなたの独走がバレた時のピリ付いた空気は、実は結構好みだ。
 いざとなったら、後ろ回し蹴りで肋骨を三本持っていける女特有の、静かに燃える青い炎…チアアニメで書くべきものかは知らん!

 

 トンチキ応援合戦により世間に見つかったポンポンズが、過重労働捌ききれずにどんどん荒んでいって、ついに”応援を断る”という決断をチームとして下したはずなのに、かなた一人が相談もなく依頼を受けて…という展開。
 忙しい夏休みがあっという間に過ぎ去って、気づけば秋の気配が漂うスピード感とか結構好きなんだが、乗り越えるべき課題が重くになるにつれ、それぞれの個性が表に立ってくるのが、なかなか面白かった。

 気楽に元気に、出来ることとやりたいことを矛盾なく重ねられていた時間は、ポンポンズを求める人が増え、露出と摩擦が増すことで終わっていく。
 求められれるすべてを叶えたいけど、叶えられない厳しい現実。
 これを前にワーワー姦しく仲良くやってた序盤の空気が抜けてって、女たちの”素”が出てくるのが、なんかこのアニメらしい味で良かった。

 序盤のハッピー&ライトな味わいで、それこそ前回の応援回みたいな感じでずっと進めてもいいのに、プラスチックな萌え萌え造形の奥にあるガニっとした”芯”が表に出て、ぶつかり合い火花を散らす様子を、かなり唐突に突きつけてくる作風。
 ぶっちゃけ人によって好みと評価は分かれると思うのだが、僕はこのやや古びた語り口が結構好きだし、それで掘り下げられていくキャラクターの影にも、いらだちより好ましさを感じ取った。
 「疾風に勁草を知る」という言葉もあるわけでね…。

 

 いつも明るい太陽小町であることを、意識して自分の仕事として引き受けている杏那は、連日徹夜の疲弊を表に出すことなく、イケイケゴーゴーで先頭を走る。
 ここで何かと後ろ向き、面倒くさがりでやる気薄めな穏花が、ポンポンズがオーバーワークに陥っていて、休息する必要があるといい出すのが、なかなか面白かった。
 依頼が少なかった頃はアクセルベタ踏みで走ってりゃ良かったが、自分たちの限界を超えた量が押し寄せてきたのなら、工夫するなり断るなり、現実的な対応ってやつでこなしていくしかない。
 その必要性に一番最初に目が行くのが、一番チア活動に体温低い穏花だったわけだ。

 しかし実際に優先順位をつけて、私情を挟まず適正な判断を下す段階になると、首切り役人の仕事を穏花はやりたがらない。
 感情が表に出にくい鉄面皮に変わりはないけど、仲間と彼女なり打ち解けてきた様子が可愛かった小父内さんが、ここで自分の性格と能力を冷静に判断して、仕分け担当を買って出るのは…ちょっと寂しかったな。
 他の子が皆優しくてやる気もあって、「断る」ことに忌避感強いのを見て取って、自分なら出来る、やるべきこととして仕分けを引き受けたんだろうけど、多分小父内さんだって本音を言えば、受けれる応援は全部受けたいんだと思う。
 その上で基準を明確にして、断るべきを断る責務を自分に引き受けた。
 その難しさや辛さも、なかなか表に出ないのが小父内さんという少女だ。

 もともと善意と熱意で成り立ってるおせっかいな私的チア、断る行為へのハードルは高いし、メンバーの中で一番向いてるのは自分。
 過負荷に軋んでいる仲間の現状を見据え、やらなきゃいけないことを冷静に判断して実行できる能力って小父内さんにしかなかったわけだが、バスバススケジュールに✕入れる時、小父内さんは私情を見せない。
 その奥でミニ小父内がワーワー泣き喚いているんじゃないかと、勝手に想像し心配してしまうくらいには、あの気持が分かりにくい子のこと、僕は好きになってんだなぁと感じる回だった。
 見えにくい心の奥を、想像したくなる造形と立ち回りしてんだよなぁ小父内さん…いいキャラだ。

 

 重さを増していくポンポンズへの期待、軋んでいいくチームの現状は、普段は健気に耐えてる恵深を押しつぶしてもいく。
 病床に横たわっていても、全員で獲った優勝旗だから。
 美談で終わりきらない無念を、人当たりのいい笑顔で覆い隠すことで恵深はなんとか生きているわけだが、ついにその仮面の奥から泥が吐き出されて、逆に良かったな、とも思った。
 第1話以来、リハビリに焦る姿があんま描写されず、車椅子でもチームの一人だと描かれ続けてきた恵深だけども、自由が効かない身体にも、増えてく重荷に苦しむ仲間の様子にも、何も感じないわけがない。
 そういう、夏の眩しさの奥にある影が暴かれていく回なのだ。

 恵深の弱った両足じゃ支えきれない焦りが、確かにそこに在るのだと描いた上で、んじゃあその危うさをどう乗り越え、支え、変えていくのか。
 重要なのは暴かれた後の再出発であって、これは主人公にも同じだ。
 第1話でイップス乗り越えて再出発を果たしたように見えて、抱え込みすぎる気性はそうそう変わらず、ワーカホリックと独走気質の合せ技で勝手に突っ走って、泡立つ不和を加速させる。
 「杏那もキレすぎだろ…」と思わなくもないが、メイン回で抱えた影と”暴”の強さは解っていたわけで、かなたの突っ走り方への反応としては、自分としては納得がいく。
 杏那の魂の尖り方、マジ”新宿鮫”とか”眠り猫”なんだよなぁ…。

 

 恵深のよろめく体重と、健気な笑顔の奥に隠されていた焦りを両手で受け止めてしまったから、かなたが一人で突っ走った感じもある。
 ここで仲間に相談して、気持ちを打ち明けるだけの信頼関係がポンポンズに作られていなかった…て話でもあるんだろうけど、こんだけ拗れちゃうともう本音でぶつかる以外の突破口がないので、否応なくヒビは埋まっていくと思う。
 他人に荷物を預けられない奴がトップなの、ベースとの信頼関係が大事なチアの特性を考えると、かなり致命的だよな…。
 そこを正すきっかけを、暴走の果てに掴む展開なんだとは思う。
 しっかし杏那のキレっぷりといい、持って生まれた気質を根深いモノとして書くアニメだ。

 明るく楽しいポンポンズの表層を、曲りなりとも保っていた笑顔の繋がりが、今回のオーバーワークと不協和で嘘になるかというと、そんなこともないと思う。
 学校も体格も性格も、何もかんもバラバラな連中が顔つき合わせてチームになっていく中で、まだまだ見えない場所も見せていない場所もあって、それが衝突した。
 一見いい具合に直ったかのように思える傷も、そうそう簡単に変わるものではなく、だからこそいびつで頑なな自分らしさとどう付き合うのか、衝突や失敗の中から学ぶのが大事なのだ。
 軋轢を生むと解っていても、気づけば牙を剥く自分の中の獣を、非実在美少女がそれぞれ飼ってる話なんだな。
 …変なアニメ!

 

 スタウトレコードの件では一人で思い詰め空回り気味だった杏那が、チーム全員で決めた方向性に従いブレーキを欠けていたのとか、経験に学び自分を少し変えれるという、希望のある描写だったと思う。
 だからこそかなたの独走は杏那にとって”裏切り”に見えただろうし、カポエリスタの荒ぶる魂も暗く燃え盛るわけだが…。
 ここら辺、お話始まった時はソロで勝手にパルクールやってた小父内さんが、信頼こそがチアを支えるのだと解ってるから「今は出来ない。止めよう」と判断する描写とも重なるんだよな、個人的に。
 あの子なりにポンポンズが好きで、大事だからこそ現実的判断担当頑張ってくれてんだな、って思う。

 いかにも美少女アニメ然とした、ふわ~っと柔らかで心地よい表層から、なかなか簡単に変わってくれない自分らしさに苦しみ、助けられる暗く重い深層へ。
 結構な二面性のあるアニメで、それが独自の魅力的なヘンテコさに繋がってんのかなぁと、改めて思わされるエピソードでした。
 最初想像し、見ているうち「あんま間違ってないなぁ…」とも感じたライトな手応えと、それを裏切るヘヴィで揺るがないキャラ造形の重たさが、凄く独特の感性で同居してる感じする。
 ここら辺の見た目と内実のギャップを、魅力と感じるか違和感覚えるかで、かなり評価が割れる作品かなとは思う。
 俺は好き。
 マジ深夜アニメって感じする。

 

 

 今回炸裂したかなたの抱え込み体質って、イップスの根っこにぶっ刺さってるのと多分同じだろうから、大きく飛躍するチャンスでもあろう。
 顔のない悪意がコメント欄に溢れ出してもいるが、こっちの対処は野苺パイセンが頑張ってくれる…のかな?
 昨今流行りの作り方だと、ストレス引きずらず一話で解決しそうなネタをあえて、長く引っ張ったことで描けるものを、次回はちゃんと見届けたいと思います。

 なんだかんだ、プラスチックな外装した美少女の奥に、それぞれ譲れぬ”獣”がいる造形、好きなんだよな。
 「それをチアの話でやるの!?」という、根本的なトボケ感ひっくるめてね!

 

 

・追記 六匹めの獣が覚醒る日を、僕は心待ちにしている。

 あ、未だ個別回のない詩音ちゃんの”獣”が、どんなもんなのかはマジで見たくて、次回トラブルを乗り越えた後の掘り下げは本当欲しいんだよな…。
 杏那にあれだけの”暴”を背負わせ、何度間違えても変わりきれない業をかなたに宿したこの話が、万人に愛される瑕疵のない妖精に、どんな傷を用意しているのか。
 「傷がないという傷」に踏み込んでいく可能性含めて、今後の詩音ちゃん掘り下げには注目し、また期待もしています。
 詩音ちゃんにカメラが向くと、自動的に小父内さんがおいしい立場になるってのも、もちろんある。

 俺は小父内さんが好き。
 面白いし、可愛いし、器用に生きれない自分と頑張って取っ組み合ってるから