黄昏アウトフォーカス 第9話を見る。
恋に恋する勘違い少年は、ルームメイトとの衝突を経て人生へとピントを合わす!
詩音ちゃんのコミカル&ビッチな魅力が、青春のエンジンに本格に火を入れ始めた黄昏アウトフォーカス、第三章第二話である。
ルームメイトの桐斗くんが無茶苦茶いい仕事をして、詩音ちゃんの周りにある恋とか友情とか部活とか、浮かれてピントが合っていなかった大事なモノにぐぐっと、主役の視線が集まってくる回だった。
ここまでの二章では最初から真ん中に据えられていた、人が生きる上で大事な物。
その表層しか見れていないアウトフォーカスから、だんだん青春の真芯を捉えてくる手応えが良い。
第1話では身勝手すぎてヤバい感じもあった詩音ちゃんの、正すべき部分を桐斗くんの青春体当たりが見事にぶっ壊し、そこにスルリと礼くんのセクシーが滑り込んでくるという、全体的な流れが良かった。
ここまでは恋愛のパートナーだったルームメイトが、今回は友情ど真ん中のアツい相手役になってるのも面白いし、ここの軋轢が礼先輩の意外な優しさ、映画への情熱を詩音ちゃんに伝える手助けを果たしてるのもグッドだ。
素敵な恋の輪郭だけを追い求めて、尻軽に部活を乗り越え不義理を重ねていた時代には見えなかった、自分を見てくれる他人の視線、それを伝えてくれる熱のある言葉、そんな熱量を生み出す場としての部活。
自分と同じ不真面目野郎と思っていた桐斗くんが、MV製作に燃え盛る本気を見せた時、詩音ちゃんはギリギリでその熱にちゃんと気づく。
一緒にいて楽しい大事な友だちが、どういう思いで映画部に籍を置いているのか、大事だからこそピントを合わせる。
それは詩音ちゃんがこれまで、唯一絶対の価値にしてきた恋情とは違う気持ちだけども、桐斗くんへの敬愛と友情こそが、何かとズレている詩音ちゃんのアウトフォーカスを是正する、最初の一歩になっていく。
このねぇ…恋愛を外れた所に決定機を置く横幅が、真央と寿を映画部に留めて終わらせなかった、このアニメらしくて好きなんだよな。
恋って詩音ちゃんが夢見るようにすごく素敵なはずなもので、でもその真価はあくまで、自分含めた眼の前の人間にしっかりピントを合わせて、向き合うことで生まれていく。
詩音ちゃんが求める本当の恋とエッチが、彼の前に訪れないのは、その形だけに憧れて中身に焦点を合わせられていないからだ。
桐斗くんは自分を踏みつけにする詩音ちゃんの最悪に、激情を叩きつけるのではなく、ちゃんと見てもらえているありがたみや大事さ、そうしてくれる映画部の特別さを、諭すように伝える。
自分のプライドや熱意に砂ぶっかける行動なのに、あの対応できるパンクボーイ…桐斗くん、好きだ!
彼の視点を借り受けることで、詩音ちゃんは本当に大事なものにフォーカスを合わせられるようになっていくわけだが、自分の身勝手と過ちに揺すぶられた詩音ちゃんは、すぐさま人生の真実へと素直に向き合えるわけではない。
ここでキャップと眼鏡…二重の”解らなさ”に思いを隠した最悪彼氏が、セクシーな誘惑をチラチラ見せつけつつ、しかしすぐさま恋と性には飛びつかずに、優しく受け止めてくれる。
絵物語のようなロマンス、その先にあるセックスという形だけを求めている詩音ちゃんのズレに対し、お預けかけてまずいちばん大事なものにフォーカスさせていく礼先輩の立ち回りも、今回凄く良かった。
「こんなクズビッチで本当のロマンスとか……できるワケねーだろッ!」というツッコミに、一話まるまる人格育成に使い、ロマンスの高みへと駆け上がるための滑走路づくりをしっかりやる話運び、俺は好きだぜ!
やっぱこの物語は性とは愛の先にあるもので、順序が逆になると真実を見損なうというルールで動いている感じがある。
最悪な初体験から最悪な腐れ縁になだれ込んで行った寿もそうだし、ロマンスの外辺だけをなぞって他人を足蹴にしてしまう詩音ちゃんの生き方もそうだ。
まず名前のない大事な感情があって、それに恋やら友情やら個別の名前がついて、それに導かれて相手と自分の顔にピントがあって、たまらず伸びていった指先が相手の裸身へと触れる。
そういう心主導のロマンスこそが人間を変え、救っていくと考えているお話なんだと、僕は思う。
この古風なロマンティシズムが、やっぱ好きなんだな…。
詩音ちゃんは自分が何を求めているかも、相手がどう自分を見てくれているかも気にしないまま、心を置き去りに恋や性の形だけを求めてきた。
そんな振る舞いが映画部の活動を蔑ろにする態度にも繋がっているわけだが、礼くんの私室に招かれ、生真面目な映画バカっぷりとか、クズなだけじゃない優しさとかを己の目でちゃんと見ることで、ようやく作品の基準点へと自分を配置する。
眼の前の実相からかけ離れた思い込みや、歪んだ偏見に惑わされることなく、眼の前の相手の人間性を見つめ、湧き上がる愛しさに素直になる。
それが大事な話だから、真央は寿のセクシャリティを尊重する所から関係を始めたし、コンプレックスまみれの監督二人は奇妙な同居生活の中、相手の素顔を見て自分の気持ちを知るドタバタの果て、素敵なキスをした。
主役の造形も話の運びもこれまでと真逆な、”黄昏アウトフォーカス”らしからぬ物語に思えた第三章だが、こうして詩音ちゃんの青春に熱が入ってくると、いちばん重要な部分をしっかり共有し、多彩な青春を描く連作の一つなのだと解ってきた。
登場人物を変え、青春を漂う空気を入れ替えながらも、こういう土台の部分が同じなことで、群像が一つにまとまっていく連作の心地よさ、多彩な青春を見届ける楽しさが、ぐっと際立ってくるのも良い。
桐斗くんに本気でぶつかってもらい、生まれた動揺を礼くんに抱きとめてもらうことで、詩音ちゃんは人間が守るべきものへとしっかり、ようやくピントを合わす。
ここでテキトーに映画部に入った詩音ちゃんが、自分の頑張りを認めてくれる周囲の視線、感情を抑えてそれを教えてくれた桐斗くんとの友情、自分の中に確かにある映画部で頑張りたい気持ちに報いるべく、映画撮影にガチになるのが最高に良かった。
しょせん彼氏探しの腰掛け、映画になんて本気にならないビッチな自分を演出することで、毎夜綴る詩に込められてる柔らかな気持ちを守っている、弱虫な子ども。
詩音ちゃんの奥には、そういう影があると思う。
しかし桐斗くんの友情がその防壁をこじ開け、礼先輩の愛が震えを受け止めたことで、詩音ちゃんは眼の前のあるモノに改めて、ピントを合わす覚悟ができた。
いかにもトキメく彼氏仕草はしてくれないけども、震える自分の気持ちを聞いてくれて、心の奥にある思いでを伝えてくれる礼くんを、ちゃんと見れる自分とも出会い直す。
礼くんがどんな音を立てて映画に挑み、どんな顔で笑うのかしっかり、二人きりの部屋で見届けることが出来たのが、桐斗くんが伝えようとした”見る”ことの大事さを、詩音ちゃんに実地で教えた感じもある。
他人を見つめ大事に出来る自分がそこにあることを、詩音ちゃんは礼くんの香りに包まれながら学んだ。
このセックスに至るか未だ不鮮明な、恋とも友情ともラベルがつかない、曖昧でより大きな感情と関係性にまず受け止められること、それが自分の中にも自分の周りにも満ちていると気づくことが、憧ればっかが先行して他人を踏みつけにしてしまう夢見るビッチには、何より大事だったのだ。
こういう、少年が人間として目覚めていく普遍的な歩みを相当しっかり、しかし説教臭くなくコミカルかつ魅力的に描けている、地力の強さがやはり好きだ。
詩音ちゃん青春の目覚めに、桐斗くんや礼くん、映画部という”場”がガッチリ噛み合って、欠くことの出来ない大きな仕事を果たしているのも、作品のダイナミズムを力強くしている。
己の周りにある他者、他者に反射する己らしさにピントを合わせられず、アウトフォーカスだった詩音ちゃんの青春は、こうして真実本気になれるものを見つけた。
形だけのボーイズ・ラブに憧れる、間違えきったクソボケを主役に据えておいて、セックス行為からは遠回りな青春物語のど真ん中を全力で突っ走ることで、クズ彼氏との本当の恋への道を開いていく。
あえてテーマから外れている主役を設定することで、削り出すべき主題を改めて、別の角度から照らせる”第三章”の話運びとして、非常に腰の落ち着いた作りで良かったです。
やっぱジュブナイルとしての地力がある所が、俺このお話好きだ!
詩音ちゃんようやっと青春のスタートラインに立った形なので、彼氏の内面に切り込んでいく恋本当の難しさなんてまだまだ先で、ずーっと詩音ちゃんがモノローグして礼くんが喋んないのが、内実を反映する形式選択として面白かった。
他人の心の内側に入っていくための根本が、全然整ってなかった今までの詩音ちゃんは、形だけしか恋をなぞらないんだから心の柔らかい部分に踏み込めるわけないし、その声も聞けない。
その分クソビッチな振る舞いの奥にある、どうにも制御できない危うさとか、そういう身勝手だけが詩音ちゃんの全部じゃないと告げる純情とか、分厚いモノローグの奥からキャラの魅力がたっぷり伝わったのも、すげー良かった
詩音ちゃんの自己開示って複数段階が用意してあって、今回その一歩目へ力強く踏み出したわけだが、その重要なステップとして『詩を他人に見せる』が用意されてるのも、ロマンティックで好きだ。
擦れっ枯らしなクソビッチの外装と、真夜中一人思いを詩集に綴る純情のギャップも最高だし、そういうナイーブな自分を他人にさらけ出せない怯えと純情が、透明度高く震えているのも良い。
その現れは人それぞれであるけども、極めて純情に青春を生きている男の子たちのピュアさを、バカにすることなくガッチリ腰を落とし向き合い続けているのも、このお話のとても良いところだと思う。
それは壊れやすい宝石で、嗤うもんじゃねーのだ。
自分の内側に壊れやすい結晶があるからこそ、恋と性の表面だけに憧れ、頑なにしがみつくことで自分を守っていた部分も、詩音ちゃんにはあるだろう。
しかしそんな自己防衛がどれだけ他人を蔑ろにしているかと、そういう柔らかさが最悪彼氏にもちゃんとあるのだと解ったことで、ビッチは映画に本気になることにした。
そうして体当たりで青春に向き合ったことで、自分がどんな存在なのか、世界がどんな色をしているのか、ようやくピントが合いだした。
アウトフォーカスだった詩音ちゃんの青春は、ここからずっと憧れていた本当の恋へと、進み出していくのだ。
ここら辺の迷妄と発見を可視化するように、詩音ちゃんが自分と他人を薄暗いアウトフォーカスに置いている状況と、それを部活動に前のめりな熱量で突破していく手応えが、今回しっかり機能していた。
最悪彼氏との、形だけの昼食。
ルームメイトが見せた本気の外に、置き去りな自分。
詩音ちゃんは自分が世界とズレている違和感を、しっかり感じ取って立ち止まることの出来る少年で…しかしどうすれば適切にピントが合うかは、まだ解らない。
「目を開けて、他人と世界と自分を見ろ」と告げてくれた桐斗くん、マジ聖人だよなぁ…。
このズレて曖昧で薄暗い、居心地の悪い場所から抜け出し、黄昏の中で自分が夢中になれるものに出会い、脇目も振らず眼の前の映画に本気な自分を見つけるまでの、青春の迷い道。
そこで弾む詩音ちゃんの心が、豊かなモノローグと美しいイメージに彩られしっかり描かれていたの含めて、大変良いエピソードでした。
自分と他人、自分と世界をどう繋げるかがなかなか見えない、思春期の子どもたちがどういう世界を生きているのか。
活き活き切り取ってくるアニメになっているのは、とても良いことだと思います。
かくして黄昏の中、アウトフォーカスな状況を突破した詩音ちゃんですが、自分と他人を大事に出来るようになったってことは、本物のロマンスへと飛び込む準備が出来たってことだ!
礼くんが持つ、ツラだけじゃない心の美しさにも気付かされてしまった所で、恋の輪郭だけを追いかけてきた少年は目の前に確かにある愛の種火を、どう燃やしていくのか。
今の詩音ちゃんなら、かなり良い感じにボーボーいってくれんじゃねぇのかと、期待モリモリ高まるエピソードにもなっていて、大変良かったです。
俺はやっぱ、この話”アツい”から好きなんだな……。
真実自分であるために、誰かとの触れ合いを必要とする人間の性に、少年たちはそれぞれ、どう向き合うのか。
詩音ちゃんが今回心の滑走路をしっかり見つけたことで、キャップと眼鏡の向こう側に見えにくい礼くんの心へ分け入り、そこに秘められているものを知っていく準備も整ったと思います。
次回もめちゃ楽しみッ!