イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

NieR:Automata Ver1.1a:第20話『deb[U]nked』感想ツイートまとめ

 惨劇と灰燼の先にある未来を、新たに掴み取るべく大地に剣を突き立てるもの。
 加速する狂気に引きずられ、己の中にある奈落へ思い出を突き落とすもの。
 パスカルの村を防衛するA2と、実りのない復讐へ身を投げる9S…明暗分かれる二つの道を並走して描く、ニーアアニメ第20話である。

 2B死亡以来の路線であるが、覚悟してた通り村がボーボー燃やされ沢山ポンコツが死に、それでもなおこれ以上失わないために戦い続けるA2の団結と、狂った”ゲーム”に乗っかって心のなかにある思い出すら血みどろにしていく9Sの孤独が、的確に対照され辛かった。

 堅物なポッドですらA2のど根性に理解を示し、パスカルもまさかまさかの二段階変身で理想の守護者として体を張り、A2サイドは種族を超えた友情で結びついてアツい戦いしてんのに、9Sの方はポッドの忠言も聞かず、差し伸べられた手を跳ね除けどんどん狂って行く。
 闇の中にあるはずの微かな救いを目指し、魂を燃やして天へと駆け上がっていくA2の物語と、愛ゆえに奈落へ突き進んでいく9Sの復讐譚が交わった時、生まれるのはあんま救いがない話なんだろうなぁ…と思うと気が重い。
 花江くんの狂気演技があんまりにも脂のり過ぎてて、「あ…和解とかないやつだコレ…」と、この段階で覚悟させられるの辛い。

 

 

 

 

 

 

 

画像は” NieR:Automata Ver1.1a”第20話より引用


 同じく機械生命体を憎む復讐者だったA2と9Sだが、片方は戸惑いをふりちぎって百万の敵から”敵”を守るために剣を握り、もう一方は思い出に呪われて歪んだ刃を振り回している。
 パスカルがただの甘っちょろい理想主義者ではなく、いざという時は死もいとわずに戦いへ身を投げる、本物の戦士だと解ったり、全霊を振り絞って歯が立たない超大型期待を前にして、敵と同じ力を用いて最強の助太刀を果たしてくれたり、恩讐を越えて燃え上がる希望の炎は確かにある。

 それと同じくらい重たく、眼帯の奥に正気を閉じ込めた少年の地獄も、また濃いのだが。
 パスカルおじさんが見せた戦士のど根性が、何もかもぶっ飛ばして全部解決してくれる類の話だったら、俺もこんなに辛い視聴続けてないんだよッ!!

 

 9Sが唾棄する”敵”への忌避感は、A2から消えたわけではない。
 それでも村での生活を、そこで生まれた絆を本当にするためにA2は剣を取り、限界を超えて戦い続ける。
 この必死さはかつて、彼女の姉妹たちが地上のレジスタンスと共に戦った時に見せたものが、彼女の中で未だ消えていない証にもなっている。
 また第1話で2Bが果たした戦いを再演することで、彼女が解釈した戦士の遺志と戦い方を、一匹狼なはずのA2が受け継いでいることをアクション自体が教えた感じもあった。
 あのときも9Sと力を合わせ、敵の力を奪い取ることで”主人公”の目的は果たされ、無情の戦火にも消えない繋がりが、確かにあることを示していた。

 人を模して作られ、永遠に終わることのない闘争と狂気の只中に投げ込まれて、無為に消費されていく機械の命。
 思い返せば一期の頃から、2Bはヨルハの眼帯の下でそんな運命への怒りを燃やしていたし、秘された記憶が明かされた今となっては、彼女が何に傷つき怒っていたかも、あの頃より良く分かる。
 愛したものを幾度も殺し、既に虚しい人類の栄光のために、終わらない戦いを続ける。
 そんな茶番劇で魂を汚されるために、私たちはここに在るわけではないと、泣くことも叫ぶことも禁じられた彼女は確かに、心の奥底に炎を燃やしていた。
 A2が身を投げる熱い戦いには、確かにそれが継がれている。

 一方彼女の傍らで、その熱に惹かれずっと側にいたはずの9Sは、無為な虐殺と終わらぬ狂気、それを点数化して続く”ゲーム”に身を投じて、暗い淵へと沈み続けている。
 2Bの生き様から何も受け取らなかったわけではなく、むしろそれ以外の何もかもを覆い隠してしまうほど重たいものを思い出に抱えているからこそ、9Sは復讐する以外の道を断ち切って、どんどん2Bの遺志を裏切っていく。
 命を断って魂を継いだA2が、2B個人ではなくそれを超えて未来へ伸びる怒りと希望を背負い、一番正統にそれを継承できたはずの9Sが、”ゲーム”に興じて思い出を惨殺してしまっているのは、あまりに悲しい皮肉だろう。

 

 たった一人を愛すればこそ、それを失って狭く暗い淵に沈んでいく。
 9Sの失楽を描くほどに、彼が語らう必要のない”敵”と断じたアダムとイブの物語が、待ち受ける未来を示す歪な鏡だったと解ってくるのは、なんとも辛い。

 ”敵”が9Sを弄ぶように示す真実には、魂の入れ物たるヨルハのブラックボックスが、機械生命体のコピーであると記されていた。
 それを憎み絶やすようにプログラムされた”敵”にこそ、自分の真実を照らす契機があって、A2はパスカルの村でのふれあいや、生き延びてしまった苦悩とかけがえない思い出をリリィと共有すること…孤独ではないことで、剣を振るってその真実へと近づいていく。

 

 ”敵”が敵ではなく、自分が戦争を繰り返す人形ではない事実を知ることで、A2は NieR:Automataが己を定義する”ゲーム”からどんどん離れている感じもあるけど、逆に9Sは塔に登ってパスコードを集め目的地を探す”ゲーム”に、魂をまくりこまれている気がする。
 ここら辺、ゲームを原作とする物語の語り口として凄く特異だし、メタレイヤーからの批評意識が2人のキャラクター、2つの物語を明暗両方から照らしている感じもあって、凄く面白い。
 アンドロイドと機械生命体が延々殺し合っているステージ設計自体も、戦争の果てにあるはずの人間の勝利が既に果たせないという、その空虚さも極めて”ゲーム”的だ。

 誰かが用意した舞台に縛られて、実りのない永遠に身を投げるのではなく、志半ばに倒れていった愛すべき魂を引き継いで、プログラムされた生き方を変えて未来を探る。
 A2は前プレイヤー・キャラクターであるB2をその手で殺すことで、自分の人生というゲームをどう目的設定するか、選び取る自由を引き継いだ。
 しかし9Sは復讐に呪われ、差し伸べられた手を跳ね除け、自分を孤独と狂気に落とし込みながら、誰かが用意した塔上りゲームの盤上で、思い出を汚し命を奪い続けている。

 

 高く熱く駆け上がって、自分たちを縛る鎖を引きちぎる改変の道と、深く深く思い出に沈んで、血みどろの奈落に飲み込まれていく道。
 運命の引力を引きちぎるべく足掻くA2の物語と、愛の重力に引っ張られて闇へ沈んでいく9Sの惨劇。
 上下2つの方向へ突き進む物語が、同時並走していくエピソードでした。

 この明暗の対比は凄く鮮烈で、二人の生きざまは真逆に見えるけども、その結節点に2Bがいる以上、いつか必ず交わり、激しく衝突するのだろう。
 願わくばA2が継いだものを、眼帯を外した裸眼で9Sにも見つめて欲しいのだが、何しろパスカルの村を無惨に燃やすお話なので、ヌルいハッピーエンドをあんま期待できない。

 塔を”攻略”する時の冷え切った声色と、2Bの面影に出逢った時の人間味を聞くと、マトモにお話聞いてくれそうな気配、もうゼロだしなぁ……。
 引きちぎろうとしても追いついてくる運命の重さや、繰り返す出口のなさも強烈に重ね塗りされる中で、それでも闇の中の微かな灯火を探すモノたちの意思は、どこかへたどり着くのか。
 次回も楽しみです!