イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第30話『猫は吉良吉影が好き』感想

穏やかな日常の影で生と死が交錯するビザール・アドヴェンチュア、今週は楽しい川尻一家。
地下室に潜り込んだ猫に対応したり、庭の隅で雑草と戯れたり、勝手に部屋に入り込む息子に手を焼いたり、春が戻ってきた嫁にドギマギしたり、ごくごく普通のファミリーコメディでしたね。
まぁ嫁さんは愚かな一般人だとして、猫草はスタンド使いだし、息子は異常な分析能力を持つ度胸人間だし、夫は連続殺人鬼なんだけどね……。
川尻家を舞台に『日常』と『非日常』が衝突する瞬間を、生き生きと楽しくも恐ろしく描く、切れ味鋭いエピソードでした。

今回のお話は、これまではメインエピソードの合間に挿入されてきたサブエピソード、『吉良吉影、入れ替わりの苦闘』を表舞台に引っ張り上げた感じの話です。
おぞましくドス黒い殺人欲求の果てに川尻浩作と入れ替わった吉良ですが、滑り込んだ先には不気味な息子と欲求不満の嫁さん、そして色々面倒な入れ替わり生活が待っていました。
殺人衝動とスタンド能力という『非日常』を抱えた吉良が、あまりにも『日常』的な生活を矯正され生まれるズレ、おかしさ。
『正義』の主役たちの奮闘の合間に挟まれる『悪』主演のコメディーには、なんとも言えない人間味を感じました。

サブからメインに舞台を変えた今回も、そういう『ズレ』の面白さは全開であり、結構血なまぐさいのに笑えてしまう、不思議な空気がエピソード全体に漂っていました。
肩出しへそ出しであからさまに発情しているしのぶさんの猛アタックに当惑する吉良とか、可愛い猫草ちゃんとの一瞬の触れ合いとか、憎むべき『悪』のはずなのに思わず笑みがこぼれてしまう良いシーン満載。
『日常』の影に潜む恐怖という『ズレ』を強調するだけではなく、『悪』が『日常』を演じようとする『ズレ』に自然な笑いを添えて見せてくるコメディも、『日常』と『非日常』が入り混じりながら対決するこのお話を彩る上で、大事な要素だと思います。

色と動きと声がついたことで、しのぶさんの回春はなかなか切れ味鋭いネタに仕上がっており、セクシュアルな誘惑をそこかしこに投げかけるしのぶさんのラブリー加減と、それを叩きつけられる吉良の当惑が非常に面白い。
出会ったときはカップラーメン投げつけていたボサ髪主婦が、精一杯お洒落して手料理を振る舞うあたり、吉良から漏れ出る危険な香りは、しのぶさんにとって最高の媚薬なんだと分かります。
しかし『性=生』の方向に健全に発情しているしのぶさんは、『人が変わったような』夫の正体が『死=性的興奮』である連続殺人鬼だとは知らないし、知ろうともしない。
そういう鈍感さがギリギリ、この危うく愚かな恋を成り立たせているというのは、皮肉で面白いところです。

否応なしに『川尻浩作』になること、妻からのセックスアピールを浴びせられる状況に飛び込んだ吉良も、少なからず偽装生活から影響を受け、しのぶにある程度の情を移してもいる。
ここで『殺し』の過去を捨て、『吉良吉影』ではなく『川尻浩作』として生きつづけることを選択できたならまた話も変わったんでしょうが、しかし結局彼はファミリー・コメディの主役ではなくサイコ・サスペンスの敵役であり、しのぶさんの『生』に正しい形で呼応する展開はやって来ません。
まぁ改心されたからって今まで死んだ人はどーなんだって話だし、悪役がいなくなったら話の収まりどころもなくなっちゃうんで、なかなか難しい未来ですが。
川尻家のドタバタを楽しく描けていればこそ、あり得たかもしれない未来として色々想像を張り巡らせたくなって、作品に奥行きが生まれるってのは、確かにあるかもなぁ。


ともあれ、アンジェロのときは踏み込まなかった『殺人鬼の人間性』という問題が川尻家ではメインで描かれ、たとえ最悪の連続殺人鬼でも『家族の温かみ』という美徳に接近できるし、同時にそれは欺瞞でしか無いということが掘り下げられています。
前者を担当するのがしのぶさんなら、後者はただの小学生・川尻早人が担当するわけで、彼は『川尻浩作』がいつの間にか殺人鬼と入れ替わっているという、エイリアン退治物語の主人公だといえます。
猫草の血なまぐさいコメディでひとしきり笑った後、『ああ、そう言えばコイツ連続殺人鬼だった……』と水ぶっかける展開は、落差があって良い。

血のつながりはないはずなのに、異常な頭脳のキレと偏執狂的な性質が吉良そっくりなのは、結構面白いですね。
早人はしのぶさんから『本当は家族を愛したかった』という性質を継承していて、その思いとしのぶさんには無い知性故に、川尻家の『日常』が吉良吉影という『非日常』に侵入され、踏みにじられている事実に気づく。
吉良に於いては連続殺人という『悪』を覆い隠する武器になっている知恵が、早人はそれを暴く『善』に繋がっているという対比は、彼らが表向き『親子』という繋がりを背負っていることとあいまって、なかなか鮮烈です。

吉良がいらん独り言で自分の事情を全部公開し、早人が真実に辿り着いてしまう流れは、正直ちょっと強引にも感じます。
しかし彼が『静かに暮らしたい』とうそぶきつつ自己顕示欲の塊であり、殺人隠蔽よりも己の優越を証明するチャンスに飛びついてしまう迂闊さがあるというのは、これまでも示されたところです。
殺人衝動と同じように、魂に刻み込まれた根本的なあり方というのはなかなか変えることが出来ないというのは、そういう魂の有り様が『スタンド』に具現化するこのお話では、大切に守るべきテーマなんでしょう。
まぁ水も漏らさぬ完璧な殺人鬼が相手じゃ、話しは敵の完全勝利に終わっちゃうし、何より面白くないからな……吉良の隙が『可愛げ』『可笑しみ』だというのは、今回のコメディ力を見ればすぐに分かるわけで。

今回早人がおぞましい真実に気づいたことで、偽りのファミリー・コメディは維持できなくなり、一般人・川尻浩作は殺人鬼・吉良吉影の素顔を晒して行動することになります。
スタンド能力を持たない早人が、いかにして父に成り代わった連続殺人鬼と対峙していくかというのは、こっから先の話になるわけですが、スタンドを持たずとも『非日常』に対応できる彼の知性は、巧く強調できたと思います。
早人の孤独な戦いが仗助たちの物語と接触することで、第4部最終章の幕が上がるので、そのための土台をしっかり作れたのは、クライマックスを盛り上げるための大事な仕込みですね。


妻がいて、息子がいて、後ファミリーコメディに必要なのはペット。
というわけで、荒木先生の猫ヘイトを全身に受けて誕生した猫草ちゃんは、猫らしく自由な存在でした。
不気味なのに可愛い印象が猫っぽい動きで巧く強調されていて、良い存在感がありましたね。
"エコーズ"や"ハーベスト"もそうなんだけど、物言わぬ存在のあざとい仕草をアニメにするのが、四部は上手いですね。

猫草という共通の試練をくぐり抜けることで、早人が吉良に挑む資格のあるキレ者であると証明できているのは、なかなか興味深いところです。
これまで『気になるモブ』程度の存在だった隼人がお話しの真ん中に躍り出るには、その実力をバシッと証明することが大事で、吉良が苦戦した猫草を見事に攻略し、吉良の追撃もかわすことで証とする流れは、AパートとBパートがうまく繋がっていましたね。
同じ試練を共有することは、二人が『親子』であることも同時に示していて、色んな意味合いあるなと思いました。
実の親父が良かれと思ってぶっ刺した『矢』で猫草が生まれて、吉良が苦労する展開と合わせて考えると、偉い皮肉だな……オヤジの情は、この後も巡り巡って色々あるんだけどさ。


というわけで、川尻一家の現状にぐぐっとクローズアップし、家族喜劇とサイコ・サスペンスの入り混じった複雑な表情を掘り下げる回でした。
アニメになると、しのぶさんの誘惑コメディはエロくて面白いなぁ……あれでピクリともしないあたり、根本的に性欲が殺人欲求と直結されてんだなやっぱ。
今後作品の要になっていく早人のデビューとしても、なかなかに鮮烈で良い見せ方だったと思います。
来週はまた主人公たちにカメラが移るようですが、どんなお話が展開するのか。
非常に楽しみです。

Lostrage incited WIXOSS:第3話『セレクター/蜜と毒』感想

顔のない悪意が失われた怒りを喚起するTCGバトル・サスペンス、今週はすず子第二章・末路。
再び始まったゲームの末に何が待っているのか、同時並列で展開するバトルで見せる回でした。
相変わらずの利益なし・出口なしの閉塞感満載バトルではありますが、お兄ちゃんの抱え込んだカルマが濃厚すぎて、なんかヘンテコな高揚感があったなぁ。

色々と情報が出て来る回でしたが、やはり一番インパクトが有ったのは今回の末路。
コイン全てを失えば記憶を無くし、人格も失って別人になってしまうという、クソみたいなゴールが示されました。
どうしても無限少女システムによる肉体乗っ取りを想起させるペナルティだけど、実は『セレクターの意識が消失する』『別の人格が宿る』という結果だけが今回描写されていて、そこにルリグが絡むか否かは分かんないんだよなぁ……。
ここら辺は『ブックメイカー』という言葉と同じように、今後掘り下げていく部分なんでしょう。

今回のシステムが悪意に満ちたデスゲーム詐欺だというのは早い段階から見えているので、サスペンスとして話を引っ張るためには、詐欺の細かい内実を露わにしていくことが大事になっています。
ここの見せ方次第で話も盛り上がるし、同時にミスリードを仕込んで『やられたッ』と思わせることも可能なので、情報の開示と隠蔽をどうやって行くかは大事。
一つの謎が明らかになり、もう一つの謎が生まれていくカードの見せ方は、現状なかなか面白いと思います。

話数を積み重ねるに従って、ルリグとセレクターの関係性も多様に描写されてきて、みんながみんな心の隙間に漬け込む悪魔というわけではなさそうです。
はんなの所のナナシは従順な戦士って感じだし、あーやは毒舌肝っ玉おかんだし……ルリグがセレクターの記憶を反射する鏡だとしたら、セレクターの多様性だけルリグにも色々あるってことかな。
そんな彼女たちが同一のシステム上で生産され、同一のルールに従ってバトルしているのは間違いないっぽいわけで、多様性をまとめ上げるためのカラクリが一体どういうものなのかってのが気になるわけだが……これはゲームの目的にも関わる大ネタだろうな。

謎だらけのシステムに理不尽に巻き込まれ、逃げ道のない袋小路であがくお話である以上、システムが解明されていくことがお話しの進行とイコールなのはよく分かる。
つまり『なぜこのシステムが生まれ、何が目的なのか』という一番のモヤモヤはクライマックス直前までわからない訳で、そこを疑問に思いつつ、ここのセレクターの生き様/死に様を味わうのが、この段階では良い受け止め方なのかもしれません。
各人の価値観や行動方針をしっかり見せることで、後々セレクターバトルというシステムに反発する/従う/傍観するっていう大きな話が回りはじめた時、スケールの大きなダイナミズムを感じるのだろうしね。
いろいろ考えて、自分なりに『こうじゃないかなぁ』って答えを思い浮かべるのも、なかなかに楽しいですが、この話が一種のミステリである以上、答えはどうやっても、先を見ないとわからないからなぁ。


個々のキャラ描写に目をやると、すず子の食事シーンは色々密度が濃くて、セレクターバトルを拒絶しつつ居場所がリルにしかなくなっていく様子とか、そうなるよう追い込むリルの悪魔っぷりとか、良い窒息感だった。
薄暗い家の中で一人食事を取りつつ、気づけばリルの気に入る話題を出して『家族』の温もりを演じるすず子の限界っぷりは、痛ましいやらヤバイやら。
リルが『がんば!』だの『二人なら大丈夫!』だの、記憶をスキャンして都合のいいパワーワードを引っ張り出してくる都合の良さは、ガッチャマンクラウズインサイトの『くぅさま』みたいですな。
そのくせ『聞かれなかったから、言わなかっただけ』だもんなぁ……他のルリグと比べてもリルは邪悪というか、セレクターバトルシステムを円滑に運営する≒女子高生を地獄に追い込むことに熱心で、なんか理由があるのかと考えたくもなるな。

今回お兄ちゃんとあーやにガッツリ切り込んだことで、ルリグアーキから記憶を転写し、後悔や自罰願望なんかも反映してルリグが生まれる過程は、結構分かってきたと思います。
お兄ちゃんはマジキモいけど誠実な人で、過去への後悔と妹の愛情故に歯車が狂っちゃって、そういう歪みを反映してあーやがああなっているかと思うと……思うと……やっぱキモい。
そのキモさを逆手に取り、『キャピった妹キャラを演じつつ、実は毒舌肝っ玉キャラ』というあーやのキャラを際立たせるのも、なかなか巧かったな。

あーやとリアル妹が全然似ていない所が、逆にお兄ちゃんの追い込まれっぷりを強調していて良かったですね。
歪んでしまったとはいえ、お兄ちゃんはセレクターバトルに本気で立ち向かう理由がしっかり見える初めてのキャラなので、なんとか報われて欲しいと思いました……年頃の少女なら誰でも妹認定する所とか、最高にキモいけど、いい人であるのは間違いないんだ、キモいけども!!

一方かがりとはんなの勝負はかなりアッサリと決着がつき、はんなのドライな部分が強調される展開でした。
はんなは非常に理性的というか冷徹というか、TCGライターという職能に促されるまま、セレクターバトルの真実に辿り着きたいっていうクールなキャラだからな……ドライで強いのも納得といえば納得。
ブックメイカー』『敗北のペナルティ』と、気になる部分の触りを見せた上で核心は隠す見せ方は、いい具合に興味を掻き立ててくれてます。

他にもタイムアップ狙いのイレギュラー・白井くんとか、『ブックメイカー』らしき謎の男とか、群像劇を掻き回すアクターがチラホラ顔見世。
セレクターが抱えているカルマが表に出てくると、俄然面白くなってくる』というのはお兄ちゃんが証明してくれたので、謎を紐解き謎を増やしながら、セレクターの人となりにはどんどん踏み込んでいって欲しい。
悪趣味な舞台設定にふさわしく、人間のドス黒い部分と一縷の光りは現状巧いことかけていると感じるので、ドンドンディープな部分に踏み込み、ドンドン温度を上げていってほしいですね。
タイトルに『incited lost rage』が含まれている以上、失われた怒りが吹き上がり抑圧を弾き飛ばす瞬間は、一つの見せ場として必ずあると思うんだよなー……その瞬間を燃え上がらせるために、今はガンガン上から押さえ込んでいるタイミングであり、秘めたる熱源を描写するタイミングでもあろうのだろう。


というわけで、末路が分かってもわからないことだらけ、謎が謎を呼ぶ第三話でした。
このゲームで失われる『記憶』は人格と強く結びついているので、『敗北→白紙化→上書き』というペナルティにも納得はいくんだけども、もう一枚何かを隠している感じもあるんだよなぁ……。
無限少女システムのインパクトを巧く活かした上で、一捻りしたギミックを仕込んでいるならとても面白いと思うので、今後の謎解きも楽しみです。

んで、セレクターの抱え込んだカルマはよりディープに、より逃げ場書のない袋小路で沸騰している感じ。
今回出番がなかったちーちゃんもガンッガンに追い込まえているので、おそらく意図的に分離されている二人の主人公が顔を合わせた時、どういう吹き上がり方をするのか。
楽しみでもあり恐くもあり、やはりこのアニメ、面白いですね。

 

ドリフェス!!!!!!:第3話『2032』感想

男子アイドルアニメ戦国時代に着弾したド直球青春ストーリー、今回は及川慎・回答編。
ミステリアスでクールな及川くんの『謎』の種を撒いた前回を見事に発展させ、熱血主人公・天宮奏が一つの曲を読み解き、思いを伝え、止まっていた時間を動かすまでの奇跡を熱く描くエピソードでした。
慎と奏の心の交流をぶっとく真ん中に据えつつ、"2032"にまつわるミステリー、アイドルとメディア、スキャンダルとの付き合い方、作品に掛ける思いと、様々なものを一筆で描ききるパワー満載。
序章が終わって『ドリフェス』というアニメが何を扱うのか見せるタイミングで、こういう骨太なエピソードが仕上がってきたのは、本当に素晴らしいと思います。


褒めるべき部分がたくさんあるエピソードなんですが、何よりもまず心を震わせてくれたのは、主人公・天宮奏の真っ直ぐな気持ちの表現力と、それが世界を変えていくパワーの描き方。
自分の気持ちを閉じ込めずに、かと言って独りよがりに振り回すのでもなく、的確に為すべきことを言葉と行動に変化させ迷わず動くことに出来る奏は、見ていて気持ちの良いキャラでした。
彼の行動力が停滞していた状況を動かし、様々な間違いをただし、止まっていた時間を動かして、在るべきものを在るべき場所にしっかり収めてくれる過程は凄くパワフルで、そういう気持ちのいいやつがお話しの真ん中に収まっているということが、非常に頼もしい。

奏での行動を見ていて気持ちいい理由は幾つかあるのですが、一番大きいのは『見ている僕らがやってほしいことを、しっかりやってくれる』からだと思います。
前回Bパートから今回Aパートにかけてのストレスのかけ方は非常に巧くて、慎が知性とハートを兼ね備えた好人物だということをちらりと見せつつ、同時に何かに拘り、何かを隠していることで状況が悪化していく過程を、丁寧に体験させています。
それは非常にもどかしい視聴経験であり、見ている側としては『誰かすげーヒーローが、このもどかしい状況をぶっ飛ばして、話がスムーズに流れるようにしてくれねぇかなぁ!!』という期待を自然と抱いてしまう。

そしてその計算されたフラストレーションを、真っ直ぐにぶち抜いてお話を結末に引っ張ってくれるパワーと真っ直ぐさが、奏にはあるわけです。
俺達がほしい時に、欲しい行動を取ってくれるキャラクターには当然『信頼』が生まれれるわけで、主人公に対しこれを抱けるか否かというのは、作品全体を『信頼』出来るかどうかの、大きな境になる。
周囲の一歩引いた態度を気にせず、人間として正しく、自分の気持ちに素直に慎に向かって走っていくがむしゃらな誠実さ。
過去の辛い別れから、周りと距離を取ろうとする慎の心に思いっきり踏み入って、慎が葬ろうとしていたあの日の真心をちゃんと引っ張り上げてあげる熱意と優しさ。
ただガムシャラなだけではなく、自分の心中も人間としての正道も的確に言葉にする知性を持っていること含め、とにかく奏が好きになれ、信頼できるエピソードだったと思います。

奏が熱意とクレバーさを併せ持っている、バランスの良いキャラクターなのは非常に面白いところで、"2032"の謎解きも純哉くんとぶつかりあう中で自発的に気付くし、慎のナイーブな気持ちもちゃんと慮り、言葉を選んで接触できている。
そういう繊細さや優しさと、己の心の中の真実(それは大概の場合、本当に正しいことと一致しているわけですが)に後押しされるまま走るパワーが同居していることで、ただ気持ちだけが先行して世界がより良くなっていく展開よりも、話しを受け入れやすくなっています。
ここら辺の人間力の高さが非常に心地よくて、キャラクターと物語を『信頼』し、体重を預ける気にさせてくれました。


ただ主人公が突っ走っているだけでは、今回感じた満足感は得られなかったと思います。
慎が何に悩み、何を隠してあまり正しくない行動を取ってしまっているのか。
そしてその奥に、どんな瑞々しい情熱を隠しているのかをしっかり示せたからこそ、奏の情熱と知性が状況を変化させる展開が心地よく感じられ、最後の『奏』呼びに大きく頷くことも出来るわけです。

これは前回からの構成が非常にうまく効いているところで、"2032"を恋愛の歌と一度誤読し、スキャンダルとバイラルメディアによる心無い攻撃とこの誤読が重なることで、奏と視聴者は"2032"の真実を読解する必要にかられます。
慎のことを何も知りはしない無責任な連中と、自分たちは違うんだと示すためには、積極的に曲に隠された真実に潜り、慎のクールな態度の奥に分け入らなければいけない。
奏が慎に接近していく運動が、"2032"の真実に切り込んでいくミステリと巧く連動していて、物語の展開と視聴者の感情を的確にシンクロさせているわけです。

重ね合わせは視聴者と奏だけではなく、現在の奏と過去の慎の間でも発生しています。
ロッカールームで奏は、純哉くんと熱く気持ちをぶつけ合った果てに、『尊敬する戦友を失いたくない』という自分の気持ちに気づき、それが"2032"に込められていることに思い至る。
クールを装っていた慎はその実非常に繊細で熱い存在、吠えたけり走り回る奏と似通った部分のあるアイドルだと気づいたからこそ、奏はもう一人の自分に追いつき、自分の気持ちを伝え、慎自身が気づいていない気持ちを蘇らせるために、転ぶことも厭わず走るわけです。

雨の中を必死に走り抜けて友の手をつかもうとする奏は、圭吾の手を取ることができなかったかつての慎と同じ存在であり、だからこそ"2032"の真実も、慎自身が気づいていないこの局面での正解も、奏は掴み取ることが出来る。
そして慎も、奏の美徳である素直さを共有しているからこそ、奏の提案を受け入れ、ファンと圭吾に己の心中を言葉で伝え、誤解を解くことが出来る。
"2032"で時間を止めてしまったクールガイが、過去の自分の写し絵のような熱い男と出会い、その姿を見ることであのときは見つけられなかった星を見つける展開は、人間の心と心が響き合うドラマ、『歌』を通じて心を通わせるアーティストの物語に満ちていて、強い説得力がありました。
慎のクールさを強調していたからこそ、奏の体当たりで心の扉がぶち空き、秘めていた情熱が溢れ出す瞬間のカタルシスが本当に凄いことになってた。

奏が追いつき変化させる前の慎を、完全に間違ったものとしては描いていないところも、非常に優れた描き方だと思います。
『歌は一度世に出たら、聞く人の所有物になる』という慎の言葉には、たしかな潔さと誠実さがあります。
しかしその物分りの良さの奥には、パパラッチに思わず反発してしまうような熱い気持ちがあり、止まっていた時間を動かしたいという切なる願いがある。
完全には間違っていない『スゴいヤツ』の凄さを尊重しつつも、そのために犠牲になっている思い出や気持ちに辿り着き、蘇らせる奇跡を主人公に果たさせ、ただ間違いを正すよりも遥かに高い場所に二人一緒に立つ。
そういう話運びはお話しの到達点も、そこにたどり着いたキャラクターも『尊敬』できるものとして感じさせ、爽やかな読後感を与えてくれました。


赤と青、二人の青年が出会い、触れ合い、凍りついていた時間が動き出す物語は非常に骨太ですが、そこで終わらずに様々な場所に目配せをし、小気味よく描写してくれた技量もまた素晴らしかったです。
『アイドル』をテーマにした深夜アニメという作品定義を活かし、スキャンダルやメディアとの距離感、ファンとの向き合い方、楽曲と取り組む姿勢を、青年たちのドラマに無理なく取り込む手腕とか、マジ圧倒的に巧すぎる。
非常に沢山のテーマが掘り下げられているんだけど、ドラマの中で自然に語ることが出来ていて、硬さがないのが本当に凄い。

キャラ描写に関しても目配せが効いていて、奏の壁役になることで気持ちを引き出した純哉くんの使い方とか、真実に迷わず飛び込んだ奏と足踏みしてしまった純哉くんとの距離とか、凄く良いなと思います。
奏が主人公特権で迷わず辿り着く『正解』に、斜に構えた純哉くんは今回たどり着けないんだけども、彼が慎と同じように熱い思いを隠した青年だというのは既によく見えているし、距離が空いているからこそ奏に追いつく物語が今後展開されるという期待感も、グンと高まっている。
ここら辺は前回から今回、慎を主役に展開した見事な物語と同じ構図であり、今回と同じように食いごたえと誠実さのあるを純哉くんでも展開してくれるという信頼感が感じ取れます。
純哉くん、マジ必要なタイミングで必要なトス上げてくれる良いキャラだからなぁ……メイン回った時に、良い料理のし方して欲しい。

奏と慎の関係が変化するってところで止まらずに、成長した圭吾と慎がすれ違う所までエピソードに入れ込むのは、貪欲かつ冷静で最高の展開でした。
慎は今回奏と出会うことで止まっていた時間を動かしたけども、もうひとりの当事者である圭吾はどうなっているのかという疑問は、視聴者に自然と湧いてくるものです。
そういう余韻を目ざとく利用し、おそらくはライバルとして主人公に立ちふさがるだろう圭吾の現在の姿をちゃんと捕まえて、今後の展開への予感と期待を高めていくのは、奥行きがあって良い収め方だなと思いました。

OPでの暗示の仕方も巧くて、"KUROFUNE"の相方黒石くんが圭吾にとっての奏となり、また別の形で止まっていた時間を動かすんだろうなという見立てが、しっかり出来るようになってんのよね。
来週純也くんを足して信号機、緑と紫を掘り下げて"DearDream"が結成したあたりで"KUROFUNE"と向かい合うと思うんだけども、今回慎との因縁を見事に掘り下げたことで、その展開がとにかく面白そうに思えるもの。
メインストーリーを見事な精度と密度で仕上げつつ、ロングレンジで期待を煽ることも忘れないのは、とにかく図抜けたバランス感覚だなと思います。


というわけで、前回タメた要素を一気に爆発させ、主人公の真心がクールガイの熱い真実を掘り当てるエピソードでした。
キャラクターの優れた部分、尊敬できる要素をつなぎ合わせて話を作ることで、くすみのない爽やかなお話が組み上がっていくのは、非常にこのアニメらしい、心地よい真っ直ぐさでした。
凄く『正しい』ことをしているんだけども、迷いや間違いを丁寧に掘り下げた結果体温が失われず、真実味を込めて物語を語れているのが、とにかく強い。

かくして名前で呼び合う絆を手に入れた青と赤ですが、来週は黄色も足してまた一悶着っぽく。
これまでの出番で既に、俺は純哉くんのこと相当好きになっちまっているので、来週が楽しみでなりません。
社長と三神さんのお菓子コントが三度あるのかとか、細かい部分も気になりつつ、この骨太青春アイドルストーリーを真正面から受け止めたい。
そんな気分が満杯です。