イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

暴力の哲学

酒井隆史河出書房新社。「シリーズ 道徳の系譜」の一冊。んー。一言ではまとめにくい豊穣さに溢れた一冊である。ジュジク、フーコーベンヤミンホッブズマルコムXキング牧師アレントニーチェ…。西洋智を自在に縦断しながら語られる現在の暴力への視座、そしてその視座は現在という立脚点から未来を見据えているという発展性。批評として、未来を目指さないものは価値がないと僕は考えるが、この点においてこの本は非常に現在と未来(それらは切り離せない)に重要な価値を置いている。死んでしまった「価値ある」世界ではなく、何が起こるか解らない未来を見据えるのはリスキーだが誠実な態度だ。
現在は暴力の価値転倒や捩れがすさまじい勢いで表出している時代であり、その意味でこの本は「ナウい」がしかし、その豊穣さが逆に難しさになっている部分はもちろん否めない。しかし簡素なものだけが価値なのか、と問いながら僕はこの本を大きく押す。それは書き口の誠実さや適切さという書き物としての必要案件をキッチリ満たしながら、挑発的に僕達の今をえぐる容赦のなさがこの本の中にあるからだ。媚びも安易さもなく、ただ誠実に今と未来を「暴力」という戦で見据えた一個の批評として、非常に優秀なものだと思う。