イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ドキュメント ヴェトナム戦争全史

小倉貞夫、岩波書店。タイトルが全てを表しているヴェトナム戦争のルポタージュ。読売新聞のサイゴン特派員であった筆者、渾身の作である。1920年代の、ホーチミンによるヴェトナム共産党設立から1992年当時(ポル・ポト派の暴挙がいまだ収まっていなかった時代であることに注目)までを追いかけるスケールの大きさと、じりじりと執拗なまでに大量の資料を読み込み、分析し、解析する細緻さが同居する、これぞルポタージュという作品である。
ヴェトナム戦争のルポタージュは圧倒的にアメリカ人作家によるものが多く、つまりは1961年の武装介入から1973年までがヴェトナム戦争だ、という考えが多い。しかし筆者は、日本軍によるフランス軍の排除と、それへのヴェトナム共産党の接近から論を始める。この視座の広さは、今までのヴェトナム戦争ルポタージュ、否、政治分析に至るまでなかったものではないだろうか。
筆者の視座の広さは、記述と資料の広範さにも現れる。映画の影響か、ヴェトナム戦争といえば暴力行為としての戦争を連想しがちである。しかし、戦争とは経済活動であり、政治活動である。さらにいえば、米軍のナパームに家を焼かれた農民の中の日常でもあるのだ。その全てを同等に扱い、安易なスペクタクルに逃げない足腰の強さは驚異的である。
初期のヴェトナム共産党に敗戦を経験した日本軍将校が協力し、戦略教条を行っていたという事実や、クメール・ルージュとヴェトナム共産党の1920年代から続く血みどろの権力闘争など、驚かされる新発見も多かった。まさにドキュメント、まさにルポタージュである。素晴らしい。