イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ディアスポラの思考

上野俊哉、筑摩書房。「ディアスポラ=離散」を主軸に、現代思想を考える本。とにかく、力作である。各章ごとに取り上げられる人物−サイード、ギルロイ中井正一バフチン、C・L・R・ジェイムズ、ホールなど−とその思想は徹底した読みと思考に晒され、作者の卓越した西洋智への見識の下で吟味される。その思考の深度は徹底的に深く、しかしその文章はあくまで軽妙かつ的確な論理に支えられ読みやすい。軽さと深さを同時に体現する驚異的なパフォーマンスをしかし、誇るわけでもなく、作者はあえて「今、ここ」を目線の先にすえながら淡々と記述を進める。
各章ごとに論は区切られているが、その背骨を支え一つにつなげるのはディアスポラ−故郷を奪われながらも共通する文化や言語などの基盤を共有する離散−であり、それは経済主導のグローバリズムが喧伝(なにしろメディアは資本主義企業であるので)される現状に静かに抵抗する。その青い炎のような姿勢に、私は正直驚異を覚える。例外的に軽いステップで、しかし的確に深く重たいものを捉える筆者の視点と姿勢は、不可能なはずのものを軽々と可能にしているものへの畏怖という意味で、怖ろしいものがある。力作であり、名著だと思う。