イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

早すぎる夜の訪れ

ケイ・ジャミソン、新潮社。副題は「自殺の研究」。こめかみが痛くなる本である。奥歯を噛み締め続けるから。この本は自殺の本であり、臨床医師、精神医学者、そして、元自殺者である筆者の言葉である。歴史、神経生理学、社会学、臨床神経学、医学。さまざまな側面に足を伸ばしながらも、統計と臨床データという最も硬い地面を足場にして、筆者の筆はただ静かに、自殺を切り取り続ける。
とにかく、数字による説得性、圧倒的な量で展開される自殺者の具体的データが重く、強い。そして、それを見つめる視線には憬れも見下しもなく、ただ真っ直ぐに、近年急増する自殺という現象を見つめている。その視座は、かつて自殺しようとし、躁うつ病患者であり、そして精神医学者である自分自身にすら向けられ、筆は自身を解体する。
自殺にかかわる話題は、美化か侮蔑のどちかに寄ってしまう傾向がある。僕らは、自殺を前にしてあまり冷静ではいられないようだ。そして、彼女はあくまで冷静に、データを積み上げ理論を展開していく。その後ろ側に早く落ちる夜を抱えたまま。それがどれだけの業であるか、僕には想像も付かない。傑作である。ただし、自殺念慮を抱えてる人はすぐに読まないほうがいい。それより、下に降りて親に話すか、電話を手に取るべきだ。