イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ドキュメント 戦争広告代理店

高木徹講談社。サブタイトルは「情報操作とボスニア紛争」である。NHKスペシャルで放送されたものを纏めた本で、ボスニア政府が民間のPR企業、ルーダー・フィン社の助力を借りて、いかに国際世論を作り出したか、そして「悪者」「人否人」に仕立て上げられたセルビア人が、いかに国際世論を作り出せなかったか、について細密な取材がなされている。
さすがにNHKのドキュメンタリー能力、取材能力は高く、当事者に関する生の声が大量に取材され、適切に編集されている。そこには特定の政治意図はないが、強い視点がある。それは、営利を追求する民間企業が、情報と言う武器を手に戦争行為を操った、という事実への視点である。そしてその視点は、優秀なジャーナリストとしての知己と分析眼、文章能力に支えられている。
ボスニア紛争は、セルビア=悪の論点の元に語られてきた。しかし、色々な資料を読んでみるとあまりにも混沌とした状況が多く、セルビア=悪の状況もまた、ボスニアサイドのPR戦略にアメリカが乗った、という部分も大きい。セルビア人のなした蛮行を否定する気もないが、同時にボスニアムスリム人、クロアチア人が正義だとも思わない。その、正義のない民族紛争という不安を的確に提出してくるドキュメントである。良著。