イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジェンダーは超えられるか

武田想一編、彩流社ジェンダー・リーディングを闘争方法とする文学論集。サブタイトルは「新しい文学批評に向けて」である。選集は玉石混交、というのが妥当なラインなのだが、「フェミニズム批評研究会」という学際サークルに属する筆者たちは、強烈な視座を共有し、適切な論を進めていく。
文学、といいつつも小説批評はモンゴメリ赤毛のアン」ロレンス「虹」ホール「孤独の井戸」ワイルド「アーサー・サヴィル卿の犯罪」だけであり、11ある論文の残りはシェイクスピア演劇における少年俳優の異性装飾に関するものだったり、クロサワのセクシャリティと原爆に関する読みだったりする。
一見無節操にも見えるこのラインナップはしかり、筆者達の豊かな学識と短勁な文章、そして強烈なジェンダークリティクスへの批判的視線、批評者がけして失ってはいけない、自らの足元をいつも照らし続ける態度により鮮烈かつ豊かな色彩を帯びてくる。とにもかくにも豊穣な本である。名著。
ただ、このようなよき批評を見ると、何故だか僕は哀しくなる。とても哀しくなる。一体誰がこれを読むのだろう。一体誰がこれを生きることに取り込んでいくのだろう。文学批評が出来ることの淋しさは、沈む夕日を見つめ続けてしまう気持ちに少しにている。誰も詩など聴いていないし、パノラマ島へ帰ろう帰ろう。