イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ロシアは蘇る

リチャード・レイナード&ジョン・パーカー、三田出版会。1991から1996までのロシアの改革についての本。なかなか評価が難しい本である。サブタイトルは「資本主義大国への道」であり、筆者たちはどうにも、ロシアが西欧化し、民主資本主義国家として「西側」になることを望んで筆を取った感じを受ける。
実際、データの読み取りもおおむねその通りになり、身のうちに西欧主義への資質を秘めているロシア国家、ロシア国民は民主革命に成功し、「西側」になるだろう、というプロパガンダ的な記述形式が目立つ。しかしその前のデータの提出、分析は冷静で、あからさまな政治的染付けが目立つ結論とはちぐはぐな印象を受ける。
結論から言えば、筆者たちが望んだ政治的立場からの分析は正しく、間違っている。発行は十年前であり、この時はウラディミル・プーチンはまだ中央省庁に入り込んではいない。ボリス・エリツィンが「私は失敗した。簡単だと思っていたことは困難だった。すまない」という言葉と共に引退し、プーチンが首相代行についたとき、彼の顔を世界の誰も知らなかった。
しかし、この官僚顔の男は、巨大なエネルギー資源を最大活用し、軍事・警察権力を拡大し、マスメディア統制を行い、ロシアのGDPを跳ね上げた。それはこの本に書かれているような「西側」の民主的なやり方ではない。オセチアチェチェン、モスクワ劇場占拠事件をみれば、それは一目瞭然だ。
ロシアは非常にロシア的な、そして今までのロシアにはいなかったツァーリを今、額に抱いている。氷のように冷静で、人心掌握に長け、経済に関する知識が強く、独裁と白色テロを右手に、経済成長と強いロシアの復興を左手に掲げる、ウラディミル・プーチン
残念ながら、この本はその存在も、それを必要とするロシアも、意図的に見落としてしまっている。予測は外れたのだ。しかし、結果的にロシアは「西側」と協力する方向に舵を取り、市場経済を取り入れつつある。ロシア的市場経済、非民主的民主政治。
思うに、この本の失敗は西欧が持っている価値観を至高のものとする思い込みと、それを誰もが目指すだろう、目指さねばならないという義務感から生まれている。独裁も、困窮においては是とされることもあるのだ、という冷静な政治認識に欠けているのだ。意念と欲求が先走り、豊富なデータを読み違えた書物だといえるだろう。