イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スチュアート・ホール

ジェームス・プロクター、青土社。シリーズ「現代思想ガイドブック」の一冊。カルチャ流・スタディーの創始者にしてイギリス新左翼創設期の中心人物、そしてどこまでも浮遊する言説の巨人、スチュアート・ホールのガイドブックである。
ホールの言説は自由奔放かつある種の無責任を伴った騒乱性に満ちていて、その上統一性を戦略的にあえてとらない。僕自身もちょこちょこと図書館でつまみ読みした程度で、その筋道だった紹介はこの本が初めてということになる。
「三十分で判る」だの「これ一冊で」だのくだらない文句が並ぶ入門書が多い中、この本は正しくは入門書ではない。これ一冊では何も判らないのだ。ホール本来のテクストにぶち当たり、己の目でホールのテクストになだれ込むこと。その「手間がかかり面倒な」作業を要求する、という一点においてまず、このガイドブックは白眉である。
その上でなお、ホールの一見混乱し、統一性のない現代政治=文化分析の視座が、彼の強靭な知性と鋭い直感、そして何より支配に対する意識性に立脚していることを、このガイドブックはホールの学問的遍歴とその時代時代に追いかけていたテーマへの読解を強靭な骨組みとして組み上げていく。
それはもちろん、ホールの自由闊達でありながら常に、アフター=モダンかつニュー=モダン(かもしれない)現在の政治的、経済的、人種的、性別的、文化的……問題への圧倒的なコミットの力がある。ホールは常に、目の前にある事象を、己の社会学的立場に社会学的問題をぶつけていくという開かれた知識の使用方法で見つめてきた。
そして、それをこの本は正しく読み解き、補講をつけ、筆者独自のテキスト解析を記し、そのことに責任を負っている。それはホールの言説から生まれた、プロクター自身の言説であり、ガイドブック、といういかにもハンディな書物形態からは想像も付かない様な学究のずっしりとした重さを宿している。素晴らしい入門書であり、教科書であり、書物である。名著。なお、ホールのほかの書物にも今後触れることにする。