イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ユーゴスラヴィアと呼ばれた国があった

金丸知友、NTT出版。1999年代のコソヴォ内戦に関するハーフ・フィクション。小説とノン・フィクションの中間の文体で、サッカーを絡めて当時の状況を纏めている。
どっちもつかずである。ノンフィクションとしては取材の量も質も足らないし、アタックするべき取材対象がローサイドの人々に偏りすぎている。もっとはハイサイド、実際にセルビア人勢力を率いていた人、アルバニア人勢力を率いていた人に取材しなければ、この高度に複雑な政治的・民族的・宗教的、そして経済的問題に関する答えの道標は得られないのではないだろうか。
加えて、ルポタージュに必要な冷厳なジャーナリストの目が無く、一定の政治立場により過ぎて言葉を喋っている。ジャーナリストは自分の言葉を喋るべきだが、それは他者の共感を呼ばない一時の感情激発ではなく、冷静かつ峻厳に選択された、選りすぐりの言葉と思考を持ってなされなければ、さまざまな意志と嗜好を持った人に届く、有効な武器にはならないのではないのだろうか。
かといって小説としての切れ味が鋭いか問い言えば正直なまくらである。サッカー描写によって親近感を増そうとしても、プレイの光景が目に浮かんでこない。登場人物に共感できない。出来事の構成に盛り上がりが薄い。一言で酷評すれば、下手なのである。
ユーゴスラヴィアコソヴォ問題は、凄まじく複雑である。数多の情報が錯綜し、本当のことはつかめない。正確に言えば、非常に掴むことは難しい。誰が殺し、誰が犯し、誰が盗んだのか。何故なのか、いつなのか、何処なのか。答えは無限に用意されている。そのような複雑な問題を取り扱うには、正直この本では、力不足の感は否めない。