イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

現代コミュニケーション学

池田理知子他、有斐閣コンパクト。日本におけるコミュニケーションの現代的な問題についてのテキスト。複数筆者による書物だが、意思の統一と問題点の共有は出来ており、表記の揺れはなかった。
コミュニケーション「学」と書いてあるが、コミュニケーションという非常にあいまいな言葉のとおり、中身は「マトリックス」三部作のテクスト読解から戦後日本の英語需要とアメリカ・ヘゲモニーの関連性についてまで横幅が広い。その分どうにも詰めが甘く、各論にクエスチョンマークが(自発的な疑問という形ではなく)浮かび上がってしまうのが第一の難点であるように感じた。
テクスト、と書いてあり大学の講座で使用することを前提に発展問題などものっている。のだが、この本を記したメンバーで共有されている反アメリカ覇権主義、反右傾化思想を絶対化し、「だ」「である」の論調で「入門」の位置をとる姿勢もまた、この本の難点ではないだろうか。コミュニケーションの問題を多角的に照らし出すそのスタンスは魅力的だが、その光には色がついていると感じたし、色がついていないことを自らの口からはけして言わないことが、何よりもイデオロギー的な言説なのではないだろうか。
もちろん、あらゆる言説は透明ではない。けれども、コミュニケーション「学」の入門テキストとして己を位置づけるのであれば、そこには多様な問題と(ここはクリアできている)多様な視座が提示されるべきだ。観測するものの観測位置がけして超越的ではない、ということに、社会学に属する領域に触れる言説は自覚的であったほうがいいと僕は思う。それが、入門書であり、さまざまな位置に人を押し出すことを目指す(もしくは求められる)書物ならばなおさらではないだろうか。
多角的な問題への取り込みは評価できるが、その深度と態度において、いくつかの問題をはらむ書物だといわざるを得ない。まぁ、僕の見方が傾いでいるだけ、という可能性は、もちろん捨てきれないわけだけれども。