イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

国際紛争・原書五版

ジョセフ・S・ナイ・ジュニア、有斐閣。国際紛争と安全保障に関するテクスト。大まかな理論から、第一次大戦、第二次大戦、冷戦構造という二十世紀国際対立の通時的分析を経て、内戦と介入、国際機構、グローバリゼーションなど現代的な各論に移る構造。
言語の定義がとにかくしっかりしており、論述も分析もそれに基づいて揺れがない。冷静な知識と、とにかく現実にコネクトしていく強度を併せ持った記述である。通時分析という、最終的に現在のわれわれに帰結する手法も、論の確かさと分かりやすさを両立させている。
この本で論じられるのは中途半端な現在の政治である。国境国家は希薄化(だが無効化ではない)し、情報社会は強大に、高速になっている(が、生死を直接的に操るほどではない)。安全保障は冷戦以前ほど強力な力を持たず(だがあらゆる国際行動の背後にはうっすらと影を伸ばしている)、経済活動はより強力に(だが国境国家を上書きするほどではない)なっている。
バランス・オブ・パワーが国際関係を支配し、国境国家が政治的主体として強力に振舞った過去を丁寧に分析することで、その現在の状況がいかなるものであり、そこにおいていかなる理論を使用するべきかを、この本は徹底的に掘り返す。リベラルとリアリズムの利点と欠点を論じ、構成主義が取りこぼすものと掬い取るものを記述していく。日和見主義的な折衷案といわれればそうかもしれないが、各論陣の資料を読みほぐす冷静な眼と、さまざまな政治的ファクターを考慮して紡がれる論述は、確かな堅牢さを持っている。
少々アメリカ擁護の色が見えるが、それもまた内部において自覚的に批判されている。過去と現在と未来の三点を、国際関係という視点から捉え、見事に論じきった名著である。