イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ミシェル・フーコー

サラ・ミルズ、青土社。シリーズ・現代思想ガイドブックの一冊。20年前に死去しながらも現在も大きな影響力を持つ思想家、ミシェル・フーコーに関する入門書。
このシリーズは相当に安心して読める、レベルの高い叢書である。自身を入門書として規定しながら、語るべき人物の選択からその分析、方法論の確立、記述の仕方まで、丁寧に気を配って作られている。それは日本語訳を行っている青土社サイドも同様で、翻訳語彙の選択や記述への批判的注釈など、細かく、そして適切に手を入れている。
さまざまな領域を多彩に渡り、シニシズムとも取られかねないほど浮遊したスタンスを持って性格に現代を刺し貫いた思想家、ミシェル・フーコーについて論じるこの本でもそれは同様である。例えばジジェクとかホールに比べれば遥かにメジャーな思想家であるフーコーの入門書はこれ以外にも多数優れた物があるし、入門を超えた分析書もまた多数ある。
そのような、ある意味ポピュラーな思想家であるフーコーの入門書を書くに当たり、筆者は作品ではなくあえて主題を構成要素に選んだ。権力、言説、智、セクシャリティ、狂気の五つをメインテーマに据え、それぞれに対応した主著(例えばセクシャリティ−「性の歴史」)を主に論じながら、フーコーの論を解体していく趣向である。
この入門書でも重点を置いて説明されているが、フーコーは常にそのスタンスも専門領域も多様に変化させ、掴まえ所がない、(あえて言えば)非常に「ポストモダン」的な思想家である。その矛盾や変容、曖昧さを丁寧に捉えつつ、フーコーの言説だけではなくフーコー以降の言説(例えばサイード)に重点を置いて筆者は論を進める。
シリーズが20世紀後半から現代にかけて重要視されるべき思想家の入門叢書として作られている以上、取り上げられる思想家は(「ポストモダン」が日本においてそう受容されたように)ファッションの飾りとして使われるべきではないし、そうしてはいない。現在も活発に活動する知的領域に多数つながり、時には批判対象になる存在として、フーコーは捉えられている。少々論旨の運びが荒いところが気になるが、そのアクチーヴァなスタイルは魅力的だし、なにより良いものだと僕は感じる。
とにかく丁寧なシリーズの丁寧な一冊であり、何とはなしに思想の季節など終わってしまったように思える2000年以降にこそ、手にとって捨て去ったものを再び省みる起点になる本だと思う。良著。