イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヨーロピアン・ドリーム

ジェレミー・リフキン、NHK出版。近代の限界と「アメリカン・ドリーム」の失墜に対する回答として、「ヨーロピアン・ドリーム」なるEUを中心とした理念を提唱する本。
鋭い分析力と、大量の統計と資料を扱う能力と、わかりやすい文章を書く筆と、強烈に偏向した政治意識をごたまぜにしたなんとも評価の難しい本であった。たしかにアメリカニズムの限界は眼に見えて存在しているし、それをどうにかしたい、といけないというのはわかる。のだが、分析も提案もとても虚心坦懐とはいえず、データや統計をさまざまな操作を解して弄くっているので、結果主張も真っ直ぐには聞くことが出来ない、という結果になっている。
とりあえず指摘しておきたい注意点は二つ。大量に出てくる統計(「パーセンテート」という単語が出てこないページを探すほうが難しい)を使いこなし、決めつけと印象論をレトリックで操ってさも精密な調査のように見せかけるトリックが大量に詰まっている本だということ。そして同時に、それでもところどころに散見する文明分析には鋭いものがある、ということ。特に第二章のヨーロッパ文明分析には見るべきところが多い、用に思えた。
ユーロ万歳、グローバル最高(ついでにヘイトアメリカ)と大声で叫んでいる本であるのだが、「ヨーロッパ人」なるものをすでに自明の存在として論を進めている点、アメリカの利点とヨーロッパの欠点について(一応は触れるものの)精密な分析を行わない点、アフターモダンを前提にしておきながら、モダンの価値観を無条件(気味)に賞賛し反省がない点。これらは否定しようのない問題点として指摘しておく。
ただ、「アメリカン・ドリームはアメリカという国家でしか実現できないが、現状高度資本主義を背景にしたアメリカン・ドリームのみが実現可能なドリームではないのか」という指摘には確実な鋭さがある。これは否定できないこの本の利点だと思う。欠点も利点も、ついでにページ数も山ほど内包している本であった。