イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

生きた化石と大量絶滅

ピーター・J・ウォード、青土社アンモナイトオウムガイモクレンシーラカンスなど、古代の形態をそのままに現在まで生き残っている「生きた化石」の生活史と、その近縁種がなぜ「生きた化石」ではなく「化石」になったか、大量絶滅を生き残れなかったかについて書いた本。サブタイトルは「メトセラの軌跡」
目の付け所が非常に鋭い書物である。なぜオウムガイは生き残り、アンモナイトは死滅したのか。この本で結局その答えは出ないのだが、その問いを深く追求するためのさまざまな手段、進化学、古生物学、地質学、生物学などを丁寧に扱い、一章一生物を基本にして書かれている。ただ珍しい動物として生きた化石を捉えるのではなく、古生物の視点から彼らが珍しくもなんともなかった時代と比較し、分析しながら古生物を描くその筆致はなかなかに独特である。
もう一方のテーマである大量絶滅も、捕食、気温・水温の低下/上昇、海面高の低下/上昇、大気組成の変化など、さまざまな淘汰圧を丁寧に説明し、興味深い掘り下げをしている。古生物学の視点が化石が生きていた時代にメスを入れるとすれば、進化学の視点は生きていた動物が化石になる原因に中止している。その両方が相互に互いの視点・テーマを掘り下げ、非常に面白い相乗効果を引き起こしている。
原文の問題なのか訳文のせいなのかは解らないが、文が非常にまどろっこしく少々読みにくい。それ以外は視点・説明のしかたともに非常に面白い。また、古生物学者の冒険者の側面、政治的緊張化にあるバスクで発掘を行い、発掘中の自己で動脈を切断したりする部分を一種の紀行文のようなさわやかさで書いているところも、他の本にはない面白さである。良著。